今日幼馴染に殺されかけた。覚悟ナウ。

 ――朝、教室


「るーちゃん! 昨日はどこほっつき歩いていたの!? 紫苑、心配したんだから!」


 俺と門矢さんが教室に入った途端、紫苑が俺に飛び込んできた。言っていることは憤りの言葉そのものだが、声は少し震えていた。


「ずっと……ずっと部屋の窓からるーちゃんの部屋を見ていたのに!」

「ごめん紫苑。昨日、色々あってさ……」


俺は言い訳を考えながら、一瞬だけ門矢さんの方を見つめた。ただでさえ、目の敵にしているため、気を悪くさせてないか気が気でなかったのだ。


「あっ……」

「……」


 やばい……予想通りだけど、すげえ紫苑のこと睨んでる。……でも。


「ごめん紫苑。心配かけて……」


 門矢さんの家に行ったことは後で二人になったときに正直に言おう。今は謝罪の言葉だけを口にするんだ。


「謝らなくてもいいよ。でも……」

「うぐうっ!?」


 紫苑の抱き着きが、段々キツくなってきたことを身体中に感じた。アバラが痛い……


「なんで帰らなかったか、ワケを話してくれるかな? 散々鬼電して、スタ爆もしたのに、既読すらつけないなんて」

「え? 鬼電? スタ爆? なんのこと……?」

「とぼけないで! 鞄の中から通知音が聞こえなかったとしても、バイブ音はブーブー聞こえていたでしょ!?」


 だ、ダメだ。思い出せない……そもそも、今日一度もスマホ触ってないよな。後で確認しとかないと。


「まぁ、私からの連絡を無視するなんて、よほどのことがあったと思うんだけどねっ!」

「ぐうわっ!?」


 ねっという合図と共に、更に力強く、俺を締め付けてきた。


 後で二人だけになったらワケを話そうという俺の考えが、いかに甘いか思い知らされた。


(痛すぎて声すら出せない……このまま俺、死ぬのかな? 幼馴染に殺されちゃうのかな?)

「平野さん、その辺にしておきなさい」

「なによ、門矢さん! これは紫苑とるーちゃんの問題だから、口出ししないでよ!」

「相変わらずキーキーうるさいわね……生憎だけど、瑠夏が家に帰れなくなった原因は、私にもあるのよ」


 か、門矢さんまさか……正直に言うつもりなのか!? 嫉妬モンスターと化した紫苑に!


「なに? もしかしてあんた、またるーちゃんをたぶらかしたの?」

「たぶらかしたなんて人聞きの悪い。私は彼女として、彼を家に招いただけよ。それで、泊まってもらったんだから」


 ああ、言っちゃった……


「は、は!? と、泊まったって……う、嘘でしょ?」


 ショックを受けた紫苑は俺を離し、少しずつ後退りをした。


「ねえ、るーちゃん……嘘だよね……絶対嘘! 嘘だと言ってよ!」

「し、紫苑、事実ではあるんだ。でも、本当は家の前まで送る予定だったんだけど、流れでお邪魔して……それで眠くなってそのまま寝てたら朝になって……」

「言い訳なんか聞きたくない!」

「!?」


 大きな金切り声を出しながら、紫苑はまた飛び込んできた。それにより俺はバランスを崩し、そのまま押し倒された。


「るーちゃん……紫苑は……るーちゃんを許さない」


 彼女はそのまま俺の首に手を近づけ……


「うっ……!?」

「どう……るーちゃん? 苦しい? 息ができない?」

「……ぁ……ぉ」


 なんと、そのまま締めつけた。


(やばい、このままだと死ぬ!)


 無理やりにでも引きはがそうとしても、腕が太ももに抑えられているせいで動かない。


「紫苑以外の女の家に行った罰だよ……このままるーちゃんを殺して、紫苑も死んでやる!」

「ちょっと! 平野さん! 馬鹿なことはやめなさい!」

「邪魔しないでよ!」


 止めに入った門矢さんを威嚇するかのように、紫音はキンキンとした大声を出しつつ、俺の首を絞め続けた。ダメだ……段々意識が無くなってきた。

「ちょっと! 離しなさい! 本当に瑠夏、死ぬわよ!」

「だから邪魔しないで!」

「離れなさい! あーもー力強いな!」


 門矢さんはどうにか俺から紫苑を引き放そうとしているが、全体重をかけているのか、紫苑はびくとも動かなかった。


「るーちゃん待ってね。今から私もあなたのところへ行くから……今はすっかり門矢さんに毒されちゃったけど、あの世で紫苑に染めてあげるからね。他の女にも邪魔されないような場所へ行きましょう。紫苑はるーちゃんを殺そうとしているから地獄行きだけど……るーちゃんも紫苑を無視するっていう罪を犯したから、きっとあなたも地獄に行きだよ。でも、大丈夫。ずーっと一緒にいられるから!」

(む、無茶苦茶なこと言ってやがる……他のやつらも見てないで助けてくれよ……写真とか動画撮るなよ)

「あー、るーちゃん白目向いてるー。可愛いなぁ……」


 ぼやけた俺の視界の目の前には、不自然なくらいに口角を上げ、狂気的な笑みを浮かべた幼馴染が映っていた。


「やっべー! このままだと遅刻だ!」

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