昔の友達

「あっ、そんなくだらない話よりも! 瑠夏を家送るんだったわ! さっさと行きましょう!」

「ああっ、そのことなんだけど……俺が門矢さんを家に送るってことで大丈夫かな?」


 くだらない話をはじめた張本人が言う!? ……という言葉を心にしまい込みつつ、俺は彼女に確認を取った。


「え? いいの?」

「うん。あっ、門矢さんが嫌ならいいんだけど……」

「嫌じゃない! むしろそのほうが私的にも都合が……あっ、なんでもない! とにかく、私を家まで送って!」


(よかった……ひとまず修羅場は避けられそうだ)


 俺はほっと胸をなでおろした。


「俺、門矢さんの家知らないから、案内してくれたら嬉しいな」

「いいわよ。案内するわ! それじゃあ、行きましょう! 私の家へ」

 こうして俺たちは教室を出て、学校を出た。そして、校門に来たところで……

「それじゃあ、私の手を握って!」

「うん!」


 俺は門矢さんから差し伸べられた手を優しくきゅっと握り返した。これで手をつなぐのは何回目だろうか? と一瞬考えたが、これから当たり前のように何度もつなぐんだ。と思い、そんなことを考えるのをやめた。


「あたたかいな……門矢さんの手」

「えっ……る、瑠夏。そういうこと直接言われると、恥ずかしいからっ……」

「えっ!? 聞こえてた!? ごめん!」

「べ、別にいいんだけど……」

「う、うん……」


 俺が心の声を口に出したことで、門矢さんは俺から目をそらし、後ろを向いた。それにより、彼女の綺麗な髪が見えたが、それ以上に赤く染まっている彼女の耳が目に入った。それを見た俺は、さらに恥ずかしくなり、顔が熱くなった。


「い、行こうか……」

「うん……」


 俺たちはぎこちなく、一歩踏み出し、校門をくぐった。


「あっ……私の家の方角、右だから」

「あ、ああ……」


 門矢さんは気まずい沈黙をどうにかするかのように、俺と握っていないほうの手で、右側を指した。そして、俺たちはそちらのほうへ歩いて行った。


「瑠夏の家って、左側でしょ?」

「うん。そうだけど……なんで知ってるの? 俺、案内したことないのに?」

「そ……そりゃあ、彼女だもん! 知っていてもおかしくないでしょ?」


 いや、怖えよ……

 俺は少しだけ身震いした。



「私の家、電車で二駅かかるんだけど、大丈夫?」

「え? 大丈夫だけど、なんで?」

「だって瑠夏の家、歩いていける距離でしょ? 遠回りになると思うし、電車賃も無駄にかかると思うけど、本当にいいの?」

「そ、それも知ってるんだ……なんで?」

「彼女だからよ!」


 彼女でも怖いって……

 俺は再び身震いした。


「まぁ、確かに遠回りになるとは思うけど、電車賃は無駄になるとは思えないかな」

「どうして?」

「だってどんな形であれ、彼女の家に行けるんだからさ」

「瑠夏……ほんとズルいわよ」

「え? なにが?」

「いた、なんでもないわ。それよりあなた、ICカードは持っているの?」

「持っているに決まっているよ。てか、それくらい誰でも持っているもんじゃないの?」

「そうね。でもあなたの場合、距離の関係上そもそも買ってないのかも知れないって思っちゃって」

「まぁ、確かに休日は基本家にいるし、滅多なことでは使わなくなったかな。でも、中学はいつも電車使って通っていたから、その時のやつがあると思う」

「そう。じゃあ、ちゃんとチャージされているか確認しないとね」

「そうだね……てか、最後に使ったの、いつだっけ?」

「春休みじゃないの?」

「まぁ、それはそうなんだけど……って、なんで俺が春休み出かけたこと知ってんの!? 俺基本家にいるってさっき言ったでしょ!?」

「彼女だから?」

 

 もういいよそのくだり……実際、数日出かけていたし。俺と紫苑の卒業兼合格祝いとかで家族ぐるみで飯行ったり、遊園地行ったりとか……


「……そういや、卒業式にもあいつ来なかったな」

「ん? あいつ?」

「あっ、いや……」

「ねぇ瑠夏、凄く気になるんだけど、教えてくれるかしら?」


 言っていいのかな……友達って言っても女子だから、さっきみたいに不機嫌になったりしないだろうか。そのせいで彼女の気分を沈めてしまったりしないだろうか。でも、めっちゃ目ギラギラしてるし、言うしかないよな。


(よし、女子であることを伏せて言おう! 正直、男でも機嫌損ねる可能性あるけど、女子であることを言うよりマシかな。うん)


 俺はそう自分に言い聞かせ、口を開いた。


「……中学の友達なんだけどさ、めちゃ仲良かったんだよ」

「それで?」

「まぁクラスが別々だったのもあって、学校で会うことはほとんどなかったんだけどな。それでも、俺から誘ったり、あいつから誘われたりで、色んなところ行って遊んだんだよな」

「そうなんだ!」


 意外にも、怒るどころか嬉しそうに俺の話を聞いていた。


「でも、中三の時になぜか連絡取れなくなって、あれから遊ばなくなったんだけどね……最後にどんな話したっけ? 受験の話かな? まぁ、受験の邪魔されたくないから、連絡遮断したとは思うけど……せめて卒業式には来てほしかったな。合格してようが、落第してようが、最後に会いたかったな」


 天音……今どこでなにをしてるんだろうな。入学式に来なかったってことは、やっぱり落第してたのかな。はぁ


「天音……」


気が付くと、俺はため息をつき、センチメンタルになっていた。ってかやばくね? 俺、名前言ってたか? 女子ってこと、バレてないか……?


「……あの、門矢さん」


 俺は顔色をうかがうために、声をかけた。

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