第4話 裏話2

形ばかりの事情聴取を終え、当初の予定通り店へ向かう。

構成員達は、その後到着した応援のパトカー二乗せられ連行されていった。

店に着いたのは、暴行を受けたらしいDomを見つけてから一時間ほどたった頃だった。


喫茶店【綺羅星】の看板が出ている。

店に入ると、今日は平日の中日でしかも給料日前だからか空いていた。

常連客がチラホラいるくらいだ。

カランカランとドアについているベルが鳴った。


「いらっしゃいませー。

あ、柚季!

久しぶりだなー」


来客に、厨房から男が出てきた。

義理の兄であり、この店の店主、稲村命いなむら みことだ。

俺と命は同い年だ。

しかし、彼は義理の兄である。

俺とは血が繋がっていない。


どういう事かというと、俺は稲村家の養子だからだ。


まだ幼い頃のことだ。

俺は、本当の両親にこの街に置き去りにされた。

捨てられたのである。


周りの大人は見て見ぬふりだった。

両親を探し求め、フラフラとあちこちさ迷っていた俺は、この店の前で空腹で倒れてしまった。

それを見つけて保護してくれたのが、父さん達だった。

その後、色々あったものの父さん達は俺を引き取って育ててくれた。

すでに、義兄と義姉という、双子がいたというのにだ。

父さん達は、俺を実子である命達と同じく育ててくれた。

この店は、そんな父さん達の店である。

義兄はその店を、成人すると共に継いだのだ。


つまり、今は兄の店でもあった。


「仕事忙しいのか??」


店の奥のボックス席に向かう俺へ、命は聞いてきた。


「まぁまぁ?

羽衣奈ういなよりは暇だと思うけど」


ウイナ――稲村いなむら羽衣奈ういなは、命の双子の妹であり俺の義姉だ。

今は家を出て、自分で探偵事務所を創り活動している。


「あ、ハンバーグカレーね。

食後にアイスコーヒー」


俺は席に座りつつ、兄へ注文を伝える。


「了解」


「ところで、そっちは特に変わりないの?」


注文を取って厨房に戻ろうとする兄へ、俺は聞いた。

命は立ち止まり、クルリと俺へ向き直るとニコニコと楽しそうに言ってくる。


「ふふふ、なんと!

ハルに恋人パートナーができたぞ!!」


俺は目を丸くした。


「マジか!!」


ハル、と言うのは俺たちの妹のことだ。

稲村いなむら春紫苑はるしおんという名前である。

俺からすると、義妹になる。

今年高校生になったばかりの少女である。


「律儀にも、父さんに紹介しに行ったみたいだ」


それを聞いて、俺は一転少し冷静になった。

俺を拾い、育ててくれた人。

稲村明さんは現在、病院に入院中だ。

数年前、自宅の階段で足を滑らせ頭を強打し、それ依頼植物状態となってしまったのだ。

運の悪いことに、その日は明さんを除いた全員に用事があり外出していたため発見が遅れてしまった。

明さんは、一命を取り留めたものの、しかしそれは生きているというだけの状態となってしまった。

その明さんに、末妹は恋人を紹介しに行ったのだ。


「ちなみに、ハルのパートナーはSubだ」


命と羽衣奈、そしてハルはDomである。

この稲村家でSubなのは、俺と明さんの二人だ。

会話もそこそこに、命が厨房に引っ込む。

ほどなくして、注文した料理を命が運んできた。

今日はとくに閑古鳥が鳴いているらしく、命も休憩するようだ。

俺が頼んだものと同じ料理がテーブルにならぶ。

常連客達はのんびりゆったり珈琲や紅茶を飲んでいる。

何かあれば呼ぶだろう。


「そういや、近くでなんか騒ぎがあったみたいだ。

パトカーと救急車のサイレンが、めっちゃうるさかった」


「…………」


「お前が来る小一時間くらい前のことだったな。

事故でもあったんかな?」


俺は、命の言葉を右から左に聞き流しつつ、ハンバーグカレーをかき込んだ。


「ハンバーグカレー、美味いな」


そんな俺をジーっと見つめて、命は口を開いた。


「仕事以外で、あんま危ないことするなよ」


バレてら。

でも、それ以上の追求はなかった。

お互いとうの昔に二十歳を越えた大人である。

その辺の干渉は、昔と比べれば減った方だ。

俺は適当に頷いた。

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