第9話 もうダメだ…

 屋敷にエルザがやってきた。相変わらずちゃらけた様子でヘラヘラ笑っている。

 私はエルザに信頼は無かった。私がこうなった事の本末はエルザにあると思っていた。

 いたたまれない程の不安ばかりが心に募る。


「よう!おっさん、私の力を貸して欲しいんだってな…」


 エルザは相変わらずの上から目線だ。

 いったい誰のおかげでこんな目にあっていると思っているんだろう。

 私はひとこと言ってやりたかったが屈辱にグッと堪えていた。


「どれに電撃を流したら良いんだ?」


 バッテリーケーブルに繋がったスマホをエルザに渡した。


「ここの金属の部分です…思いっきり流しちゃダメです。弱い電気を少しずつ流してください」


 私はエルザにくぎを刺す様に言った。強い電気を一気に流してスマホをオシャカにするのではと疑っていた。

 見守るアナスターは微笑んでいる。エルザの力を信頼している様だった。


「良いですか?少しづつ…少しづつですよ」


「うるせーな!わかってるよ!」


「一気に流すと壊れますからね…」


「あーもう!サンダーボルトー‼」


 部屋の中に閃光が走った。電撃は稲光帯びて一気に放出される。

 私の予感はものの見事に当たってしまった。

 光の中から現れたのは丸焦げになったバッテリーケーブルとスマホだった。

 スマホは黒焦げになった今もプスプスと音を立てている。

 私の希望の光は瞬く間に消え去った。


「あっ…ごめん、ごめん」


 エルザは失敗しちゃったと言いたげにお茶目に笑っている。

 見守るアナスターは顔がこわばり硬直していた。


「もうダメだ…」


 私は崩れ落ちる様に床に膝をついた。

 目の前に広がる現実は、これから私がファンタジーな世界で生きていかなければいけない事を物語っていた。

 現世で生きてきた私の足跡は無くなり、新たな未来をここで築き上げていかなくてはならなかった。

 壮大に思えるその現状に私は途方に暮れる。


「山田さん…希望を見失ってはいけません。新たな方法を私と一緒に探して行きましょう」


 崩れ落ちた私の背中に温かいぬくもりを感じた。背後に優しく触れるその手はアナスターのものだった。

 動転していた私の心が温かさに包まれていく。

 気分は落ち着き私は我を取り戻していく。


「アナスター、ありがとう」


 私はアナスターの手を取るとその手をギュッと握り返した。

 握り返すその手にはある決意が込められていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る