第5話 これってどこまで続くの?

 洞窟の中は恐ろしいほど広かった。取り残された私はもう何日も内部を彷徨っていた。

 やはり洞窟の中にはモンスターがウヨウヨしている。

 遭遇しない様に隠れながら移動しているがバッタリ出くわすと速攻で逃げていた。

 幸運な事に足の速いモンスターには出くわしていない。

 追われることはあっても、しつこく追い回される事は無かった。


 それにしても腹が減った。水分は湧き水でしのいでいたが食べられるものは見つけられなかった。

 得体の知れないキノコを目にする事はあるが、口にしたら死んでしまうだろう。

 しかし空腹に耐えられなかった私はそれすら手を伸ばそうとしていた。


「それ食べたら死んでしまうわよ」


 何処かから幻聴が聞こえた。私の精神はすでに崩壊状態だった。

 構わずキノコに手を伸ばす。すると物凄い衝撃と共に後頭部に激痛が走った。


「痛い!」


 衝撃で我に返る。ハッと見上げると鉄鋼の鎧に身を包んだ少女が鬼の形相でこちらを睨んでいた。


「死ぬって言ってるじゃない!」


 素っ頓狂な顔で見つめる私の瞳から涙が溢れていた。

 今の私には彼女が天使にしか見えなかった。

 泣きながら華奢な体に抱き着こうとする。

 すると彼女は私の顔面に軽く蹴りを入れた。


「どうか私に食べ物を恵んで下さい!」


 必死に縋り付こうとする私を尻目に彼女は道具袋をガサゴソと漁っている。

 中から固そうなパンを取り出すと私の前へポンと投げ捨てた。

 今の私には味や見た目などどうでも良かった。

 食べられさえすれば生き延びる事ができる、それしか眼中になかった。

 彼女の許可も得ずパンを貪るように食う。


「そんな可笑しな格好でダンジョンを探索するなんてどういうつもりですか?」


 彼女は冷ややかな目で私をさげすんでいた。

 私の格好はダンジョン探索する以前の問題なのだろう。

 ダンジョンどころかこの世界にも馴染んでいない。

 私にしてみてもこれは予想外の出来事だったのだ。


「実は…」


 私は今までの出来事を彼女に打ち明けた。

 彼女は目を丸くしながらその話を聞いていた。

 そしてエルザというキーワードを耳にした途端に豹変する。


「エルザ!?エルザが戻ってきたの?」


 彼女はエルザと同じ勇者パーティーの一員だった。

 名をアナスターと言い戦士を生業としていた。

 エルザがいなくなってからこのダンジョンを探し回っていたらしい。

 光と共に行方がわからなくなったエルザの手掛かりすら掴めず諦めかけていたと語った。


「エルザは何処に行ったの?」


「ワープと言って急に居なくなりました…」


「ふっ…あの子らしいわね…」


 アナスターは思い出し笑いの様な笑みを浮かべた。

 しかし私にしてみれば笑い話で済ませる話では無かった。


「笑い事じゃないんです!私は元の世界へ戻らなきゃいけないんですよ!」


「でも、それって戻れるの?」


 アナスターは不吉な事を言った。私は元に戻る鍵はあのスマホだと思っていた。

 エルザを探してスマホを見つければ何とかなると淡い期待を抱いていた。

 しかし、その保証はどこにもない。スマホによって転移したのかどうかさえ真相は明らかではないのだ。


「まずはエルザを探すしかないわね…その前にこのダンジョンを出なくちゃ…」


「エルザは外に?」


「ワープを使ったって事はダンジョンからとっくに抜けてるわ」


 アナスターの顔には陰りが見えた。


「じゃあ、私たちもワープを使って外に出たら?」


「私、魔法は使えないもの…それにここダンジョンの地下28階よ…」


 その言葉を聞いた私は目の前が真っ暗になった。

 何処までも続く闇の洞窟、1日や2日で抜ける事ができるとは到底思えなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る