第6話 かなりヤバくない!?

 勇者パーティーの戦士というだけあってアナスターの力はモンスターを寄せ付けなかった。

 その可憐な美しさと戦闘スタイルは優雅さを兼ね備え貴族を連想させていた。

 背後から襲い掛かるモンスターにも怯むことなく気配を察知し瞬時に斬りつけている。

 アナスターのそばに居ると身の危険を感じる事は皆無だった。


「ねえ、アナスターさん…僕は帰れますかね?」


 私はいつの間にかアナスターに父親の様な信頼を寄せていた。

 58歳の私が17歳の少女に全幅の信頼を寄せていたのである。

 何よりアナスターが居なくなってしまえば僕は生きていけない。

 親に信頼を寄せる子供の気持ちが痛いほどわかった。


「どうでしょうね?でも、何もしないで諦めるより僅かな可能性にでも掛けてみるのは悪い事ではないと思います」


 アナスターの言葉はもっともだった。一言に重みが感じられた。

 心細さを感じていた私の心にズシンと響く。私の心に勇気と希望を与えてくれた。


「ありがとうございます…ところで洞窟を抜けるのに後どのくらいかかりますか?」


 アナスターに会ってから既に7日は過ぎていた。彼女のおかげでかなり速いペースで進んでいる。洞窟はまだ広がっているように感じるが出口に近づいてるのではないだろうか?


「そうね…今が地下10階だから後4日ってとこかしら」


 思えばここまで遥かに長い道のりだった。

 モンスターに怯える事は無くなったが深い眠りにつくことなどできなかった。

 アナスターが準備していた食料も底を付き討伐したモンスターの肉を焼いて食べている。

 トイレも岩陰に隠れて済ませている。平和な世界で暮らしていた私はもはや精神の限界が近づいていた。


「まだそんなに…」


 落胆する私にアナスターはにっこりと微笑む。


「大丈夫よ…私が守るから」


 アナスターの幼気な笑顔とその言葉に虚しさを感じた。

 17歳の少女に私は何を言わせているんだろう。

 本来なら年上で男性の私が言わなければならない言葉ではないか?

 しかし今の私にはどうすることもできない。現状を受け入れ助けて助けて貰うより無かった。


「あっ!アナスター危ない!」


 ハリネズミの様なモンスターが針を放ってきた。

 後ろからの攻撃にアナスターは気が付いていないと思い私は身を挺して針を受けた。針はそれ程、太くも無く痛みはあまり感じられない。

 アナスターは身をひるがえし一撃でモンスターを始末する。


「おじさん!大丈夫!?それ毒針よ!!」


 アナスターの声が次第に遠くへ聞こえてゆく。

 意識が朦朧として視界が狭くなっていく。

 私はこの世界での死を覚悟した。現代に残したインコのピーちゃん事だけが心残りだった。

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