第4話 地震警報
早朝の4時過ぎ、枕元の地震アラートで目が覚めた。
それが鳴り終わってすぐに横揺れがやって来た。
ものの数秒で終わったし、薬のせいで眠たかった事もありそのまま起きずに眠ってしまった。
どうやら千葉県のほうで震度5強という、大きめの地震が発生していたようだ。
身近な地域に起きるとあらためて対策を考えさせられるのだが、実際に私の寝床のすぐ横には箪笥があり、その上には本棚代わりに10冊以上の本が並べてある。
揺れの向きにもよるが、顔に落ちて来る可能性は十分だ。
枕元に靴を置いておくとかいう以前の問題だなと、我ながら思った。
そこでふと以前あった真夜中の地震の事を思い出した。
これはもう10年以上前のこと。その頃、私は自分の部屋で寝ていた。
深夜、ずっと続く物音で目が覚めた。
カーテンを引いた真っ暗な部屋の中、…………タッタッタッタッ…………と、誰かが走っているような音がする。
始めは誰かが外か、もしくはマンションの廊下を小走りに走っているのかと寝ぼけた頭で思った。
けれどその音は小さく過ぎ去るどころか、依然としてタッタッタッタッと響き続ける。
誰だかわからないが、ずっとその場で走り回っているのか?
それとも何か違う音なのか。
時計を見ると2時過ぎだ。
どっちにしろ真夜中にはた迷惑である。
一体どこから聞こえるのか、しばらくしても鳴りやまないので、私はやっと布団から起き上がった。
まず上や下からではないらしい。響きが違う。
窓側に行くと音が若干遠のくので、外ではないようだ。そこで部屋を出ようとして気がついた。
音はこの部屋の中からしていた。
それはすぐ横のスチールラックからしていたのだ。
このラックは上の方に重い物が載っているせいで軋みやすく、小刻みに動くとギシギシという音がすることはよくあるのだが、こんな音は初めてだ。
支柱はスチール製だが棚部分は木の板で、そこを走ればこんな音がするかもしれないと思わせるような――。
…………タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ………………
眠気は覚めたがなんだかわからず、私はそのラックをじっと見守っていた。
すると、タッタッタッという音が、段々と鈍くなり始めた。
と、私の足元から微かに揺れがやって来た。
それはどんどんと大きくなって来る。それにつれて棚から聞こえる音も、ギッ、ギッ、ギィギィ……と変化し始めた。
揺れが結構大きい!
音も最終的にいつものギシギシギシという音に変わった。
しばらくして揺れが収まり、スマホで確認するとここの震度は4だった。
見に行くとウチの親は二人とも爆睡していた。
老人って眠りが浅いもんじゃないのか? などと思ったが、揺れが収まってから確認しにいった私もアレだった。
この時、物が落ちないよう棚を押さえていた。
部屋に戻り、あらためて棚を揺らしてみたが、やはりギシギシという軋み音しか出ない。
先程のような走るような高い音にはどうしてもならない。
地震が起こる前に電磁波が出るというが、まさかそれが作用したとも考えられない。
部屋が狭いせいもあるが、私の頭のすぐ上には低めだが重い本棚があって、その最上段には時計やペン立てなどが置いてある。
ペン立てにはボールペンの他に、ハサミやカッターなども突っ込んであった。
もし揺れでこれ等の物が顔に落ちてきたら、ちょっと目などは危なかったかもしれない。
ならまず危ない方に頭を向けないのが一番なのだが、そうすると今度は顔がドア側に向くこととなる。
変な癖かもしれないが、私はどうも顔をドア側に向けて寝るのが落ち着かないのだ。
ナニか通るかもしれないという感じがする。
実際これより前のことだが、ある夜中にふと目が覚めた時、人影が廊下から部屋の前を通り過ぎて行くのを見た事がある。
『……おれもとうとうこれまでか……』と呟いていたのがハッキリ聞こえた。
この時はとにかく眠たくてトイレから戻った父だとばかり思っていたが、そんなはずはなかった。
何しろ父はこの時、一年以上の長期入院中だったのだから。
それとも退院間近に具合が悪くなって、再び延期になった為に、弱気にでもなった父の生霊が帰って来ていたのだろうか。
逆に通りすがりの知らない人だったらヤダなぁ。
幸いこの後、父はちゃんと退院して来たのだが。
夢だったのかもしれないし、なんとも言えない。ただ怖さは無かった。
そうしてこの異音である。
これが聞こえなければ、私は揺れが本格化するまでずっと眠っていただろう。
何しろ眠さには弱いAB型。(これは血液型の性格別というより、体質らしい)
今でこそ睡眠障害気味で薬に頼っているが、それでも一度寝てしまうとなかなか起きれないのだ。
偶然何かの音が鳴ったのか。
それとも誰かが危ぶんで咄嗟に起こしてくれたのだろうか。
だとすれば、大変有難いことだ。
何しろ実際に揺れ出すまで、確実に一分以上は鳴っていた。
私が気付かず寝ている間や布団の中でモソモソしている時間も入れると、おそらく地震が到達する二分以上前から、それなりの労力を使って音を出し続けてくれたことになる。
真相は分からずじまいだが、そうならば感謝したい。
後にも先にも、あんな音を聞いたのはあれ一度だけである。
やはり甘ったれて頼ってばかりじゃいかんのだろう。自身で気を付けねば。
そろそろ近くの工事も終わったようでもあるので、また寝室を部屋に戻そうかと考えている今日この頃。
まずは頭の上のペンケースを片さねば。
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