第五章 未来への飛翔
第32話 東の大陸の探索
好き勝手に自然を楽しむという原点に帰って脳内マップを縮小して東を探ってみたところ、南大陸の倍くらいの距離に大きな大陸が存在していた。その一方で、今いるシルフィード領の西側はどれくらいの広さがあるのかと同じように脳内マップで確認したところ、ユーラシア大陸くらい広かった。
「西はキリがないからメイガス商会の調査に任せるとして、東の大陸まで一万キロメートル弱って、太平洋横断くらいあるんじゃないかしら」
南大陸に最初にいった時に比べれば継続飛行距離も格段に伸びたし、アイテムボックスにガレオン船を入れていけば、途中で休息をとることもできる。
あれ? デジタルツインが使うアイテムボックスって本体とは別なのかしら。いや、そんなことはないわよね。建築する時に使うインゴットはちゃんと減っている。
それなら、物資の搬送に船なんて要らなかったんじゃないかしら。
「ファルコ、今更だけどアイテムボックスに生物や私自身を入れて、デジタルツインに取り出してもらって別の場所に転移したりできるの?」
「生物は無理! アイテムボックスは文字通りアイテムしか入らないよ」
「それは残念。デジタルツインを現地に向かわせて、到着したら転移できるかもしれないと思ったのに」
というか、デジタルツインを引っ込めるたびに太平洋横断と同じ程度の距離を飛ぶのは大変だから、やっぱり船や中継島の類は必要ね。
そう考えた私は、大陸に渡航するための中継島を五百キロメートルごとに設けることにした。南大陸の倍の距離とすると、十九ヶ所作れば無理なく航海できるはずよ!
◇
それからしばらくして中間地点まで島の造成が済むと、同じ島を十九個作るのも芸がないかと思い、中間地点だけは規模を十倍にした島を造成することにした。通常の中継島が開拓村の四倍程度だから、開拓村の四十倍程度の広さになる。
「
「南大陸の島みたいに人がたくさん来るようになったら、プライベートビーチにならないんじゃないかな?」
確かに。ファルコの言うことにも一理あると思い、海水浴を楽しむための島は中央中継島から南に離れた場所に別途造成した。
◇
それから一ヶ月後、中継島と海水浴用の小島の造成を終えた私は、ようやく東の大陸をその目にとらえていた。
「見える範囲どころか、マップの表示範囲に全く人がいないんだけど、この大陸に人は住んでいないの?」
「住んでいるはずだけど、もっと南にいるんだと思うよ。ここら辺は乾燥しているからね。地中海みたいな気候だよ」
それならブドウやオリーブの栽培ができそうね。人がいないなら、将来的な構想として、ここら辺にワイナリーが乱立させるのも一興かもしれない。オリーブオイル、パスタ、ワイン…うん、悪くない。
でも、こんな広い土地を開拓したとして、国がないとなるとどうすればいいのかしら。ハイランド王国の植民地?
「まあ、開拓して発展させてから細かいことは考えることにしましょう!」
こうして東大陸で新たな開拓が始まるのだった。
◇
「グレイさん、また新しい大陸を見つけたから冒険に行く?」
「もちろん行くが、近くにあるのか?」
「ここよ」
私は以前作った海路図から更に拡大した地図を広げてグレイさんにみせ、中継島を経由しながら東の新大陸に建設した港を指し示してみせた。
「はあ!? 南大陸の倍以上離れているじゃねえか!」
「デジタルツインで飛んでいけばすぐ着くわ。それに、大陸間の十九ヶ所に南大陸と同じかそれ以上の大きさの島を造成したから、海図さえ渡せば船乗りさんたちも船でこれるわよ」
それから、先行して上陸した時にみた魔獣や気候について説明していく。
「海岸線近くの森にはフォレストベアーやワイルドボアっぽい魔獣が多く生息していたわ。ただ森は内陸にはないから、ある程度内陸に行くと以前の砂漠地帯のように爬虫類型に変わるみたい。大きな湖とかもたまにあって、水生の魔獣もいるかもしれないわ」
「それだけわかれば十分だ。拠点はあるのか?」
「港に一棟だけ二階建てコンクリート宿舎を建てておいたわ。今、デジタルツインで港町の建物や倉庫の建設を進めているところよ」
「そりゃあいい。じゃあ、早速連れて行ってくれ」
こうして、砂漠を緑化した時と同じような要領で、海岸線に設けた港を拠点として内陸に向かって魔獣を退治しながらの探索と開拓の日々が始まった。
◇
ジュゥウウウ!
「クハァ! 信じられねぇほど美味いな」
猪型のワイルドボアっぽい魔獣の肉をバーベキューやスモークで
串焼きにした肉をかぶりつきながらゴクゴクとエールをのむグレイさんだったけど、私は年齢的にアルコールを受け付けないのが悩ましい。でも、脂がのった肉は十分に美味しいわ!
「これなら、森の開拓村で過ごせる人なら問題なく移住できそうね」
「そうだな。素人が相手するにしては多少獲物がデカいが、お嬢の武器を持って数人でかかれば問題ないだろう」
真っ直ぐに向かってくるだけだから、投網なんかで動きを封じて矢を射かければそれで終了かもしれないわ。想像すると、乱獲で絶滅しそうな気がしてくるけど。
「というか、ここには人はいないのか?」
「ずっと南にいるらしいけど、少なくとも一国や二国の領土の範囲内にはいないわ」
「本当かよ、じゃあお嬢が開拓領主だな」
「開拓領主?」
聞きなれない言葉に詳しく聞くと、グレイさんが未開地域の開拓による領有権について説明してくれた。どうやら、昔は魔の森を開拓した領地をもとに領主を任命していたらしい。というか、カストリアも何代も前を辿ると開拓領主だったのだとか。
「そうなの、なんだか歴史を感じさせるわね。でも、貴族の領地としては広すぎじゃないかしら。このまま内陸に進んだら、対岸までハイランド王国数個分はあるのよ?」
「それは…公国になっちまうな」
公国というとハイランド王国内の自治国家ということかしら。名前から取ると、シルフィードはもう使っているからクリスティア公国とか?
まあ、人がいなければどうにもならないだろうと、私はこのまま黙って開拓を続けて気ままに大自然とキャンプ料理を楽しむことにしたのだった。
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