第31話 波乱の洗礼式と魔道具販売
「エリス・フォン・シルフィードを創造神様の使徒と認め、クリスティアの洗礼名を与える!」
数日前の段取りはなんだったのか。創造神の加護を鑑定で確認された上に、私は使徒認定され、エリス・クリスティア・フォン・シルフィードになっていた。
ついでに言えば、通常、洗礼により属性魔法を授かるということで、魔法についても鑑定が行われ、全属性である事実が声高らかに公表されてしまった。
――教皇様によって。
フォーブス司教はどこに行ってしまったのかというのかというと、私が聖杖を教皇様から受け取る
日程を遅らせることになったと連絡を受けて、大勢の人が関わる行事なのにおかしいなと思っていたけど、教皇様をはじめとしたお偉方に連絡を入れて呼び寄せるためだったらしい。
こんなことなら、シルフィード領内の村に小さな教会でも建てて、秘密裏に洗礼を済ませておくんだったわ。
まあ、バレてしまったからには仕方ない。今までも開拓や建設にバンバン使っていたのだから時間の問題だったのだし、この際、いつでも使えるようになったと開き直ることにしましょう。
そんなことを考えながら教皇様に一礼して壇上を去る私を、お父様が迎えにきた。
「エリス、大変なことになってしまったな」
「もう何も隠す必要がなくなったのですから、この際、前向きに捉えることにしましょう」
そう言ってお父様を抱えて空に舞い上がり、シルフィードの伯爵邸に向けてフライで飛び去るのだった。
◇
「商号はエリスの魔道具店ですか? 様々な案件を扱ってきた商業ギルドですが、さすがに伯爵様直営店の開業は聞いたことありません」
もはや隠すこともないだろうと、商業ギルドを訪れてシルフィードで新たに魔道具店を開業することにした。扱うものは、全属性の魔法と錬金術を生かした各種魔石販売と生活魔道具。魔剣は治安の問題があるので扱わないことにしたわ。
「こうして商業ギルド会員なのだし、私が直接売るんじゃなくて店員を雇って販売してもらうから大丈夫よ。大体、一般向けの店を開かないと、伯爵家から直接買えるのはお抱え商人だけじゃない」
私はカストリア侯爵家から独立してしまったから、伯爵家の商品をいつまでもメイガス商会を通して流しているのも不自然だ。この際、お抱え商人がつくまで、自分の商会で売るしかない。
「いや、シルフィード伯爵でしたら、ひと声かければ魔道具の代理販売を請け負うお抱え商人など、いくらでも立候補してくるでしょう。なんなら、商業ギルドで代理募集しましょうか?」
「え、いいんですか? それなら、面倒だし頼んでみようかしら」
そんな気軽な気分で頼んだ私は、後日の混乱に頭を抱えることになるのだった。
◇
「おい、聞いたか! ついに、あのシルフィード伯爵がお抱え商人を募集するってよ!」
「はあ? メイガス商会はどうしたんだ。何かヘマでもやらかしたのか?」
「メイガスはカストリア侯爵のお抱えだから、伯爵専属のお抱えが欲しいって話さ。手始めに扱うのは、なんと魔道具だそうだ!」
「うそだろ!? そんなの使い走りのガキでも簡単に売りさばけるぞ!」
あまりのビッグ商機。創造神の使徒シルフィード伯爵直属お抱え商人という
それが、まさかの商業ギルドを通した公募!
商業ギルドに張り出された公募の内容に、有力商会の商会長たちは我が目を疑ったという。
◇
「おかしいわね。よくわからないけど、伯爵家の使用人への
創造神に与えられた情報処理能力に加えてデジタルツインにより並列化された圧倒的経理処理能力により、嫌でも把握できてしまう自身への
「エリス、それはお兄ちゃんでもわかるぞ。商業ギルドに直属お抱え職人の公募をさせただろう。あれが原因だ」
「どうして? 確かに魔道具は売れるかもしれないけど、代理販売するだけじゃない。この
「今の伯爵家の立ち位置を考えれば、魔道具の利益だけじゃない。シルフィードの市場を制するものは、ブロイデンを制すと言われる中で、エリス直属のお抱え職人の看板は大きすぎるアドバンテージだろ」
そうしてブルーノお兄様に自領のお抱え商人になるメリットを聞いた私は、今更ながら自身の影響力の大きさに気がついてしまった。
そこで、ブルーノお兄様の勧めにしたがって、一つの商会のみだった枠を五つの商会に拡大して、希望商会の中から経理上、規模の大きい五店という数字のみで決まる指標で指名することにした結果、
その後ビリーさんに泣きつかれ、メイガス商会もあらためて伯爵家としてお抱え商人として指名したことで、シルフィード市場は六商会による合議制に移行することになったという。
◇
それから数ヶ月後、私の魔石を利用した魔道具は飛ぶように売れ、コンロにオーブン、冷蔵庫。それから冷暖房にウォーターサーバー、光の魔石を利用したランプといった生活魔道具が広く普及するようになると、近隣諸国からも注目されるようになった。
「エリス様、北のオースティン帝国と西のゴーズライン王国の商人が取引を求めています。西のゴーズラインについては、港を建設するので海路での運搬を求めています」
ビリーさんからの報告に、私は淑女教育で教わった知見から、オースティン帝国との取引は陛下に許可を得ないと危険であることを理由に断った。
ゴーズライン王国については、もともと隣接していないことから十分な情報がないので、海路ではなくまずは陸路による小額取引から始め、ついでに情報を集めてきてもらうことにした。
「ゴーズライン王国どころか、まだ西の辺境伯とも交流がないから、できれば隣の辺境伯の噂なんかも聞いてくれると嬉しいわ」
「かしこまりました。ゴーズライン王国については、判断材料を集めてこようと思います」
「ありがとう、何か珍しい特産品があったら代金は必要経費も込みで出すから、ついでに買ってきてね」
「もちろんです。ご期待ください」
まあ、陸続きだからそれほど作物に違いはないでしょう。そろそろ、南大陸に初めていった時のように、マップに表示される遥か東の大陸や西の諸国にデジタルツインを飛ばして自分で探りを入れるのもいいかもしれない。
そう考えつつ、世界を旅してまわるという原点に立ち返った私は、期待に胸を膨らませるのだった。
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