第30話 神様の伝言
「私が洗礼式に出席? まだ一年早いのではないですか?」
「そうなんだが、もはや加護を持つことが明らかで教会が痺れを切らしたようだ」
教皇から送られてきた書状を見せてため息をつくお父様。侯爵に陞爵してから忙しい毎日を過ごしているのか、久しぶりにお会いしたお父様は少し痩せたようだ。あとで美味しい料理やお菓子を振る舞って差し上げましょう。
それはさておき、痺れを切らすとはどういうことかしら。
「別に、私が加護を持っていてもいなくても、教会には関係がないのでは?」
「ブロイデンで多くの街や村に食糧を配給してまわり、飛ぶ鳥を落とすような勢いで発展するシルフィードの噂を聞きつけ、布教に利用しようと考えているのだろう」
布教…ねぇ。私は手違いで転生することになった際にファルコの姿を通して話した神様の印象を思い出し、いまいち信仰対象としての神様を想像出来ないでいた。そんな私が布教に寄与するなんて、なんだか不適切じゃないかしら。
「お父様。自分で言うのもなんですが、私はあまり信心深くはないのですが問題ないのですか?」
「言われる通りに振る舞っていれば問題ないだろう。適当に教会の方で台本を用意するそうだ」
台本! なんだか一気に胡散臭くなってきたけど、一応、神様は存在するのだからこの際イメージを壊さないように気をつけることにしよう。
「わかりました。カトリーヌ先生に色々と教わりましたし、それなりに演じてみせます」
「ははは、それは助かる。しかしエリスは随分と所作が綺麗になったものだ」
それはまあ、デジタルツインであれだけ反復すれば、もはや昔からの癖のように教わった所作が再現されますからね。
私はカトリーヌ先生はとんでもないスパルタ教育者だったことを話し、最後の見送りではブルーノお兄様と一緒に崩れ落ちたと、久しぶりの親子の会話を楽しんだ。
◇
それからひと月後、洗礼式が行われる日の前日にエステール城に到着して客室を使わせてもらう申請を終えた後、日が暮れる前に王都の大聖堂におもむき、司教に挨拶をしていた。
「エリス・フォン・シルフィードです。今日はよろしくお願いします」
「司教のフォーブスです。今回は要請に応えていただきありがとうございます」
フォーブス司教は気さくな青年で、洗礼式の段取りの説明が終わると緊張を解きほぐすためか、他愛のない世間話をしてきた。
「最近は一時の混乱が嘘のように人々は明るくなり市場も活性化したせいか、教会で使う蝋燭も
日が落ちて、燭台の蝋燭を半分だけ灯してフォーブス司教は笑いかけた。人の出入りが多くなると宿屋や酒場、料理店など、いろいろなところで明かりが必要になるので、需給が
「よろしければ、私が長期間持つ明かりを寄付しましょうか?」
「は? 寄付はありがたいですが、長期間持つとはいったい…」
私はアイテムボックスから魔石を百個ほど取り出し、錬金術で光魔法ライトの効果を付与していく。消せないのが玉に
「消すことは出来ないので、使わないときはコップなどで隠してしまう必要がありますが、
そう言ってフォーブス司教に光の魔石を百個差し出したが、当のフォーブス司教は目を見開いて固まっていた。
「は、話には聞いていましたが光属性の魔法が使えるのですね。それも百個もの魔石を一度に光の魔石に変え得るほどに!」
あ、不味い。最近では全く気にしなかったけど、私の魔力は割と大きいんだった。というか、最近はなかなか魔力切れできないので鑑定もしてないけど、確かMPは四千万、魔力は二千万を下らなかったはずだ。
「あはは、まあ、神のご加護がありますように?」
誤魔化し文句も思いつかなかったので、思わず口をついて出た言葉だったけど、その瞬間、フォーブス司教の後ろの像が光だした。
「こ、これは…創造神様の像が光っている!?」
え? あの神様、こんな感じだったのね。いや、会っていないからわからないけど。そんな呑気な事を考えていると、前の神像から声が響いた。
『エリス、元気にしているかな。あのときは急いでいたので、君が初めて教会を訪れて祈りを捧げた際に伝わるよう、伝言を残しておいた』
伝言? というか、さっきのあれは祈りを捧げたことになるのだろうか。
『この世界には設定値を間違えた四体の古竜が存在するから、もし遭遇したらファルコを使って倒しておいてくれ。解放ワードはマテリアル・エンジェル・バースト・リリースだ。それで聖剣にモードチェンジする。元に戻すのはマテリアル・エンジェル・リ・シールだ。じゃあ頼んだよ』
「何よそれ! 私はこの世界にデバッグしに来たんじゃないのよ!」
しかし、一方通行なのか私の声に反応することなく神像の光は消えていく。まあ、もし遭遇したらの話だから、安心な場所で過ごしている限りは問題ないのでしょう。
そう割り切って、神像から目を離してフォーブス司教の方を向くと、フォーブス司教は私を拝むようにしてひざまずいていた。
「あの、どうなさったんですか? フォーブス司教」
「まさか、エリス様が創造神様の使徒であらせられたとは。大変失礼いたしました」
「いえ、使徒などではありません。今のはそう、空耳です。どうかお顔をあげてください」
その後、色々と勘違いを正そうとしたけど説得は無理なようなので、あきらめて大聖堂を後にした。
◇
「ファルコ、あなた聖剣になるんですって?」
「うん! 炎の聖剣に形態変化したら、大抵のものは一振りで消し炭にできるよ!」
こんなファンシーな天使の格好をして、そんな物騒な武器だったとは。
「大抵のものってどれくらいのもの?」
「前にエリスが標高を下げた高山くらいの大きさだよ」
「はあ!?」
それは、全長数千メートルを一撃で
ファルコにその辺りを聞いてみたところ、今は休眠期でどこかの山奥で別々に寝ているらしい。
「なんだ。じゃあ一生会うこともなさそうね」
「そうだね。古竜が活動期を迎えるのは千年くらい後だよ!」
私は古竜のことは忘れることにし、明日の洗礼式に備えてエステール城の客室に戻って眠りについたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます