第21話 開拓村の発展

「あの馬鹿でかい船はなんだ! というか、なぜ森で造船をしている!」


 最初に航海に出したキャラック船は全長は三十メートルくらいだったけど、技術進歩した今では全長五十メートルのガレオン船にシフトしており、遠目からもガレージで組み立て途中の船体が見えていた。


「森の開拓で得た木材をそのまま造船に使って、完成したらマジックバックを使って港町まで運ぶのです」

「あの大きさを収納できるというのか! そんな国宝級のマジックバックが…」


 国宝級って、ライブラリには普通サイズって書いてあるけど、ここは黙って説明を続けよう。


「開拓村でテンサイを中心とした作物を栽培しながら、ああして造船の技能を身につけてもらうことで、住民を定着させています」


 すると、今度はベネディクトから質問が出た。


「カストリアの港には、あの大きさの船が停泊しているのかい? ケープライトの一番大きい港でも停泊できるか怪しいな」

「南の海に面したリシュトンに、水深二十メートルほどの港を設けたから大丈夫よ」


 その後、南大陸まで五千キロメートルの間に点在する島も十分な水深の港と、今からいく開拓村の四倍程度の規模の建物を建てたことを説明した。


「開拓村の見物が終わったら、一番近くの島まで船に乗せてくれないか」

「別に構わないけど、五百キロほどあるから片道十時間近くかかるわよ?」

「は? 五百キロを十時間で航行するのかい? どうやって」

「帆で風受けて推進力を得る以外に、魔石を使った推進装置で強制的に加速させるの」


 それにしても片道十時間も船の上となると、暇潰しを考えないといけないわね。デジタルツインにリバーシやチェス、それにトランプでも作らせておきましょう。

 海で一本釣りとかどうかしら。貴族だから楽しんでもらえるか微妙だけど、釣り糸は細いミスリルワイヤーを錬金術で生成すればすぐ出来るだろうし、一応用意しておきまさよう。


 ◇


 船上での遊具を色々と考えているうちに、開拓村に到着した。二階建てのコンクリート建築が整然と並ぶ姿に、公爵様とベネディクトは口を開けて驚いていた。


「えっと、これが開拓民に紹介するためのモデルハウスよ」


 そうして、蛇口から水を出し、火炎の魔石を利用したコンロに馬車にも備え付けていた魔石冷蔵庫、それからトイレやバスといった一通りの設備を紹介していく。


「一応、もしもの時のために避難用の地下室も掘ってあって、備え付けのミスリルソードとミスリルボウ、ミスリル防具セット一式といった支給品が格納されているわ」

「今、支給品と言ったか? ミスリルの武器防具を移民に与えていると?」

「ええ、最近ではそうでもないですが、毎日、魔獣が襲ってきていたので、引き渡しの際に心配だったから入れておきました!」


 そう言って地下室の壁に立てかけられたミスリルソードを一つ手に取り公爵様に差し出すと、公爵様は鞘から剣を抜いて品質を確かめるようにジッとブレードを見つめる。


「…ひょっとして魔剣じゃないか?」

「あ、はい。耐久性を重視したので硬度強化と斬撃強化だけですけど、この辺りの魔獣ならそれで十分だってグレイさん…いえ、A級冒険者の方が言っていました」

「これなら、大抵は十分だろう。少し、試し斬りさせてもらえないか?」


 私は村の訓練スペースまで案内すると、据え付けの鉄製のカカシを指差した。


「あれが試し斬りのカカシになります」

「鉄製に見えるのだが?」

「大丈夫です、斬撃強化をしているので、割とスパッといけます!」


 私の言葉に公爵様は本当かと半信半疑の表情を見せたけど、百聞は一見にしかずと考えたのか、流れるような動作で袈裟斬りに鉄のカカシを斬りつけた。


 キンッ! ドスン…


「馬鹿な、鉄製を斬ったというのに、ほとんど手応えがないぞ!」

「斬撃強化の効果を付与しているので、これくらいは当然かと。もう少し斬りに特化させればこれくらいは出来ます:


 そう言って、私は最近お気に入りの刀で居合い抜きをしてみせる。


 キンッ!


 公爵様はその切れ味に舌を巻いた様子を見せたけど、ベネディクトが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「すごい剣速だったけど、目測を誤ったのかい?」

「いえ、切れているわよ」


 鉄のカカシの上部を指でトンとつつくと、上半分が分離して倒れた。ベネディクトは斬った衝撃を残さないで両断したことに気がつくと、鉄のカカシに近寄ってその断面をまじまじと見つると、驚嘆の声をあげた。


「嘘だろう!? 鏡のような断面だ」

「刀だから、剣よりは斬れやすいだけよ」


 その後、造船の現場とテンサイの栽培とテンサイ糖の製造工場を順に視察してまわり、視察一日目は終わりを告げた。


 ◇


 次の日の朝にリシュトンの港に到着すると、昨日のうちに近くの中継島までの往復を依頼していたビリーさん本人が出迎えに来た。


「おはよう、急に頼み事をしてごめんなさい。こちらはオルブライト公爵閣下とケープライト公爵家の嫡流の子息のベネディクト様よ」

「これはこれは。私はエリス様より南大陸との貿易を任せていただきましたメイガス商会のビリーと申します。以後、お見知りおきを」


 その後、互いの自己紹介が済むと、早朝だというのに活発に積荷を運ぶ船乗りたちや、活発に商いをする商人の姿に、オルブライト公爵は感心したように声をあげる。


「しかしこの港町は随分と発展して…いや、なんだか開拓村の建物に似ているな」

「以前のリシュトンに隣接して一から立て直しましたので、新しいんですよ」


 デジタルツインで数にものを言わせて南大陸の港町ボードルや九つの中継島の建築で経験を積んだので、最後に建設したリシュトンの港町の完成度は折り紙付きだと自負しているわ!


「どうして、あの大きな箱に荷物を積んでいるんだい? 直接船に乗せればいいじゃないか」

「箱の大きさの規格を統一すれば、船に載せたり降ろしたりする機材が同じものを使えるからよ」


 いわゆるコンテナで、将来的にはクレーンを使ったり、そのまま馬車で引いたりできるようにする構想を話す。


「なるほど、確かに事前に決めておけば陸地に上げた後の取り回しも便利なんだね」


 まあ、そのうち蒸気機関車でも実現しないと、なかなか目に見える効果は出てこないけど。それはさておき、


「さあ、船にのりましょう! 十時間はかかるから、色々と遊べるものを作ってきたわよ」


 私は先導するように、お父様やオルブライト公爵やベネディクトに先んじて、最新のガレオン船の客室に乗り込む。


「これはまた…船にしては、ずいぶんと広い客室だね」

「馬車と同じで魔石で少し広げているのよ。飲み物は冷蔵庫に入っているから、好きに飲んでね。水は水の魔石で使い放題だから、そこの蛇口を捻ればいくらでも使えるわ」


 航海において真水が際限なく使えることがどれほど有難いことかと、海に面したケープライトから来たベネディクトは驚嘆する思いで部屋の設備を見ていた。


「客室ということは、南大陸から人が来ることもあるのかね?」

「まだあちらからは来てないですね。今はメイガス商会の商人の専用客室といったところです」


 船が航海に出ると、公爵にはチェスを、ベネディクトにはリバーシのルールを教えて、二面うちで対戦をして時間をつぶした。


「このチェスという遊戯は実に奥深い。帰りにいくつか持って帰ってじっくりと楽しみたい」

「僕も、このリバーシという遊戯は気に入ったよ。簡単なルールなのに、色々と定石があって面白い」

「わかりました。十セットずつ作らせて帰りにお渡しします」


 まあ、作らせるといってもデジタルツインだから自分で作るんだけど、十や百くらいなら、すぐ終わるでしょう。


 その後、トランプで七並べや神経衰弱、ポーカーなどをして室内遊戯を楽しんだ後、昼食のサンドイッチや惣菜パンを食べた後、午後はミスリルの糸で作った釣り具を渡して、中継島に着くまで一本釣りを楽しんだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る