第5話 Aランク冒険者との再会
「おお、エリス。今日は有名な冒険者が来ていてな。紹介しよう、Aランク冒険者のグレイくんだ!」
「…まあ、はじめまして。Aランク冒険者なんてお強いんですね!」
「はじめましてだぁ? 昼間に会ったばかりじゃねぇか!」
くぅ! なんでこの人が家まで来ているのよ! しかも晩餐の席じゃ逃げようがないじゃない! ここは仮面をかぶるのよ!
「まあ。他人の空似ではありませんこと?
おほほと誤魔化す私に、しかし、カールお兄様とブルーノお兄様は首を傾げる。
「おかしい、僕のエリスがこんな礼儀正しい言葉遣いを!」
「ああ、俺のエリスがこんなに畏まった態度を取るなんて、まだ具合が悪いんじゃないか?」
ぐぅ、しまった。私は七歳児だったわ。でも
「そうでしたか、それは失礼を。しばらく護衛につきますのでよろしくお願いします」
「「「え!?」」」
私とお兄様が驚いていると、お父様から補足が入る。
「エリスは…そう、非常に狙われやすいことが判明したので護衛をつけることにした」
「狙われやすいとは、どういうことです。この辺境の地でわざわざ辺境伯令嬢を狙うような輩もいないでしょう」
カールお兄様がもっともな指摘をすると、
「エリスは光魔法が使える」
「「は?」」
「というか、六属性全ての魔法が使える」
「「なんですって!?」」
あ、お兄様たちには言ってなかったのね。でも、魔法が使えるからなんだというのか。キョトンとしているのは私だけで、和やかな晩餐だったはずが、急に重苦しい雰囲気に包まれた。
「父上、それは間違いないのですか?」
「間違いない。というか、それだけではないのだ」
「父上。七歳で六属性の魔法が使えること以上に驚くことなど存在しませんよ」
「エリスは錬金術、正確にいうと錬金薬師として中級ポーションも作れてしまう」
「…」
カールお兄様は今度こそ絶句した。ポーションが作れたからといってなんだというのか。
「別に、少しくらい魔法や錬金術が使えたからと言って、危険なんか…」
口を開いた私に、居合わせた全員の目が向いたかと思うと、互いに示し合わせたようにいう。
「見ての通りというわけだ。危険極まりないだろう?」
「ああ、これはダメだ。自覚が全くない」
「窓から外に出ないように厳重に見張っていないと、どこの国のものが攫いにくるかわからない」
お父様もお兄様も頷き合う。その一方でお母様の方を見ると、珍しく上機嫌というか有頂天でいるようだった。
「ああ、今すぐ実家に行って、これが私の娘ですと声高らかに自慢したいわ」
「何を言っているんだイリス。そんなことをしたら次の日には国中の貴族に知れ渡ってしまうぞ」
「わかっています。でも、これほどの誉れがありますか? 私は歯がゆい思いで一杯です」
どうやら、思っていた以上に複数の魔法属性を使ったり錬金術を使えたりする人は希少な存在のようね。隠して…いや、家族に隠して七歳児が生きていられるわけがない。
「あの、私はどうなってしまうんでしょうか」
「おお、エリス。お前はなんの心配もしなくてもいいんだぞ。そのためのグレイくんだ。今までと同じ生活をするがいい」
なるほど。今まで通り、森の開拓生活を営めるというわけね。グレイさんさえ、出し抜ければ! まあ、その方法は明日までに考えるとして、今後はあまり人に魔法や錬金術を見せないように気をつけることにしよう。
そうして胸の前で両手をギュッと握る私をグレイさんは鋭い目でじっと見つめていたけど、私は気がつかない風を装って晩餐会を過ごしたのだった。
◇
「で? お嬢。森で何やるんだ?」
「ファ!?」
次の日も、デジタルツインを部屋に残して森に出かけたところ、気がつかないうちに後ろをつけられていたようだった。
「ちょ、ちょっとしたお散歩かしら? おほほほ…」
「エリス、さすがにそれは苦しい。表情も引き攣っているよ!」
うっさいわね、ファルコ! あんたは黙ってなさい。
「まったく。七歳で護衛をまいて外出しようだなんて、とんだお転婆だ。しかも行き先は魔獣が出没する森の奥地と来た。やっぱり、昨日会ったのは見間違いじゃないじゃねぇか」
「うう、仕方ないわね。森で鍛錬をしながら、生産と開拓をするつもりでいたのよ!」
「はあ? 何言ってんだ、お嬢」
こればかりは見ないとわからないかしら。でも、流石に家族にも知らせていないのにどうしたものかしら。まあ、一人二人ならいいかな。
「デジタルツイン」
ポンッ!
「鉄棒を生成して素振りを十回した後、魔力切れを起こすまで魔法の訓練をして」
私そっくりのもう一人の私が、指示に従って錬金術で地面から砂鉄を元にした鉄棒を生成して、素振りをして魔法を空に向かって属性順にバカスカ撃ち始めると、グレイさんは口をあんぐりと開けてデジタルツインと私を交互に見た。
「もう一人の私を作って訓練させて戻すと、私が成長するという寸法よ!」
「…俺は白昼夢でも見ているのか?」
ストレートに説明したものの、グレイさんは信じられない様子だった。でもまあ、ありのままを喋ったらスッキリしたわ。これで気兼ねなく開拓生活が送れるわね!
「さて、じゃあ謎も解けたようだし、魔獣狩りでもして魔石を調達しましょうか」
そう言って森の奥地に行こうとしたら、後ろからガシィ! と強く肩を掴まれ止められた。
「いやいやいや! 訳がわからねぇが、護衛として、そんな危なっかしいところにお嬢をいかせられるわけねぇだろ!」
「そんな! 乙女の秘密を暴いておいて、自由を拘束するなんて!」
「人聞き悪いこと言うな! お嬢、ほんとに七歳か?」
私は少し考える素振りをした後、言われた通り相応しい言動を取ることにした。
「ちょっと、森のクマさんに会いたくなったの! エリス、遊んでくるねっ!」
「アホかぃ! どこの世界に魔獣と遊ぶ貴族令嬢がいるってんだァ!」
チッ。折角、役になりきったというのに、演じ損じゃない。
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「素直に邸に戻るんだ。お嬢には、まだ魔獣狩りは早すぎる。フォレストウルフに囲まれたらどうするんだ!」
ふぅ…仕方ないわね。
「わかったわ」
「そうか、じゃあ…」
「デジタルツイン、六万五千!」
ズザザザザッ!
「森に向けてロックニードル斉射! ファイエル!」
ズドドドド!!!
六万五千人の私から一斉にロックニードルが放たれた後に残ったのは、広範囲に薙ぎ倒された木々だった。
「我に戻りて糧となれ…とまあ、こんな感じに対処しますから大丈夫よ!」
「…ああ、全くわかってないことが、よくわかった。一度戻って辺境伯に報告だ!」
ああ。結局、戻ることになるのね。私は最初の一体が生成した鉄棒をアイテムボックスに収納すると、大人しく邸に戻るのだった。
◇
「というわけで、お嬢の戦闘力はちょっとした軍隊並みですよ」
「なんということだ。そんなスキルまで授かっているとは」
あのあとお父様の執務室で全てを話した私は、ある意味気軽になった。これでもう、何も隠すことはないわね。あ、そういえば、
「一応、他にもアイテムボックスや人間や魔獣の位置がわかる地図表示、鑑定なんかも使えます」
そう言って生産した鉄棒をアイテムボックスから出し入れしてみせる。
「そうか。まあ、今までのものと比べれば常識の範囲、でもないが、もはや驚かん。だがな、エリス。森に出かけて一人で無作為に開拓するのはなしだ。生息域を追われて領民が暮らす場所に魔獣が出没しかねん。開拓区域は事前に相談するんだぞ」
「はい、わかりました、お父様!」
「くれぐれも穏便にな…」
そう言って懲りずに森に出かけようとする私にため息をつくお父様。
仕方ない、しばらくはポーションや金属のインゴットを中心に生産活動にいそしむことにしましょう。
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