千の魂にて神を創りて
羅
池の小僧
腐った肉の匂いが充満し、赤い
ここは戦場跡。戦があったのは、人の肉が腐る程度、前の事であった――
その戦場跡の隣の森の中に、小さな池があった。鍋に入れた水を火にかければ、それが沸くまでに一周出来てしまうような、そんな小さな池であった。しかし小さいとは言え、深さはかなりあるようだ。池の水は驚く程透明で、それが良くわかった。何やら自然の
その池の底には、
そんな池の
その小僧の右手には、一本の刀が握られており、同様に泥と血と腐った肉に
小僧はその刀をおもむろに、池の中へと投げ入れた。刀は小刻みにゆらゆらと揺れながら底へと向かっていく。すると白いモヤモヤとしたものが滲むように現れ、その刀を覆うと、やがてグニャグニャと人の姿を形作っていき、その両腕が刀を水面上へとゆっくり持ち上げた。その刀は新品のような輝きを持ち、先程の泥と血と肉は、きれいに洗われていた。
小僧がその刀を手に取ると、両腕は池の中へと消え、代わりに頭が水面上に現れた。
「…」
その顔を見て、小僧の顔が僅かに歪む。そして小僧は、頭に続き現れた首を見るや否や、刀を横一線。頭はポーンと刎ねられて宙を舞い、やがてポチャンと池に落ちた。頭は池の中で白いモヤモヤへと徐々に戻っていき、同様に首から下の身体も白いモヤモヤへと戻っていき、二つは一つとなり、やがて溶けるように消えていった。
池は何事もなかったかのように透明なままであった。
小僧はそれを見て、手に持つ刀を再度池へと投げ入れた。刀は僅かな
小僧はこのような事を、何度も何度も繰り返してきた。池の底の武具は、そうして積み上がっていったのだ。
「――」
小僧は目を閉じ、手を合わせ、短く念仏らしきものを呟き、目を開けると、また戦場跡へと戻って行った。
小僧に念仏を教えてくれたのは、近所に暮らす年の近い男であった。二人とも農家の子で、暇な時間が一緒のため、よく男の兄も含め一緒に遊んでいた。
その兄が、ある日戦に刈り出された。小僧は兄よりも弟の方と仲が良く、兄は二人と歳が離れていたため、よく大人達の作業を手伝わされており、小僧はその事をそれほど気に留める事もなかった。
しかし男は違った。次は自分の番だ。自分もいつか戦に連れて行かれる。死にたくない。殺したくもない。そんな風に漏らすようになった。そして男はそれを和尚に話したそうだ。
和尚は男の頭を優しく撫でながら、悲しそうな笑みを浮かべてこう言ったそうだ。
「戦に行って、敵を殺さなければお前が死ぬ。お前が逃げても、お前でない誰かが死ぬのだ。諸行無常。死にたくなければ…殺させたくなければ、殺すしかない。」
「⁉」
男は酷く驚いたそうだ。和尚の口から、殺す等という言葉が出て来るとは思ってもいなかったのだ。
そして怯える男に、和尚は今度は、寂しそうな笑みを浮かべてこう言ったそうだ。
「難しいな。
そして和尚は、男にその念仏を教えてくれたのだそうだ。
幾つ目かの武具を池に沈めた頃、小僧は自然とその念仏を唱えるようになっていた。男がお前も覚えておけと教えてくれていたので、小僧はその念仏をはっきりと覚えていた。
時を戻して腐臭漂う戦場跡。小僧はそこで武具を漁っていた。池に沈めるのはどんな武具でも良かった。厳密には持ち主の想いが注がれたものであるのだが、そんな事は見てわかるはずもなく、しかしそれでも小僧は
「小僧!そこで何をしておる!」
「⁉」
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