第11話 森山にばれた明日香の気持ち
就業後、明日香は森山を創作和食の飲み屋に連れて行った。大衆居酒屋よりは、少しだけ上品な店だ。
「では、改めて。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした〜」
明日香の謝罪と共に、2人はビールのグラスで乾杯した。2人とも一気に半分以上飲み干す。
「いい飲みっぷりですね!」
「森山くんも! ここ、お料理美味しいからどんどん食べよう。お酒もたくさん飲んでね」
「ありがとうございます。ところで……さっき日置先輩に誘われてましたよね。よく飲みに行くんですか?」
急に日置の名前が出たため、明日香はビールを噴きそうになった。
「同期だから! ほら、私たち同期だから。昔はよく飲みに行ってたっていうか」
明日香は、動揺して早口で説明する。森山は世間話として聞いただけだというのに、勝手に頬まで赤くなった。
「ああ〜……。そういう感じっすか。大丈夫です。俺ならまだ引き返せるんで」
「え? なんの話?」
「大丈夫。なんでもないっす」
森山は、明日香の様子から全てを察した。そこへ、手作りのおぼろ豆腐が運ばれて来る。
「来た来た〜。暑い時期は特に美味しいから、食べて食べて!」
明日香は話題を変えられることにホッとしつつ、森山に取り分けた。森山はお礼を言いつつ受け取って、すぐに一口食べる。瞬間、森山の目が大きくなった。ついで瞳をキラキラ輝かせて明日香を見つつ、何度も頷いた。
「でしょ〜! 美味しいよね!」
明日香も嬉しそうにおぼろ豆腐を口に運び、頬に手を当てて堪能する。
「いや、本当に美味しいです! いくらでも食べられそう」
「他のお料理も美味しいから、どんどん頼もう!」
すっかり明日香が油断していると、森山がさっきの話を蒸し返した。
「最近桜井さんが綺麗になったのは、日置先輩のためですか?」
「えっっっ!!?」
今度は取り繕う暇もなく、顔が一気に赤くなるのがわかった。
「な、なんっ、なんのこと!?」
一応とぼけてみたが、言葉を噛みすぎて、動揺しているのがバレバレだ。
「隠さなくてもいいじゃないですか〜。俺、話を聞きますよ」
森山はニコニコしている。その顔は善意そのもので、からかう意図はないとわかる。
「今まで、知美にしか言ってなかったのに……。お願いだから、黙っててね?」
明日香はおずおずとお願いした。恥ずかしさに縮こまっていたため、赤面&潤んだ上目遣いになっていることに明日香は気付かない。
「桜井さん……もちろん誰にも言いませんよ! 言いませんから、その顔やめてください! ていうか、好きな人以外に見せたらダメですって」
森山が顔をそらし、両手を明日香に突き出して言った。
「え? 何が? 何にもしてないけど??」
明日香はわけもわからず戸惑うばかりだ。
「とにかく! 日置先輩以外には見せない! いいですね?」
「きゃー! 名前を出さないで! わかったから! よくわからないけど、わかった!」
明日香はとりあえず約束した。
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