第6話 あざと可愛い清水さん
その日は、午後にまた日置と話す機会があった。
(2回も話せるなんて、ラッキー)
日置は、男女問わず人気がある。そのため、会社にいる間、色々な人に話しかけられている。日置は話しかけられれば、にこやかに応じるが、自分から話しかけることはあまりない。
(たくさん声をかけられるから、自分から声をかける必要ないんだろうな)
明日香はそう思っていた。
「でもさ、日置って明日香にはけっこう話しかけるよね」
これは、産休に入る前に、知美に言われていた言葉だ。明日香もそれは感じていた。しかし、同期で気安いだからだろうと、過度の期待はしないようにしている。しかし、知美はそう思わないらしく、何かとからかってくるのだ。
(いや、変な期待はしない! じゃないと、傷付くのは自分だもんね)
明日香が自分を戒めていると、後ろから声がした。
「せーんぱいっ。お疲れ様でぇす」
後ろを振り向くと、後輩の清水萌がにっこりと微笑んでいた。萌は、小さくて、容姿も可愛いため、男性社員からの人気が高い。服装はいつもスカート、それも白やパステルカラーでまとめられていて、知美に言わせれば〝男ウケがいい〟ファッションをしている。
「どうしたの? 清水さん」
萌が話しかけてくるのは珍しい。今は仕事のからみもないため、何の用事か検討もつかない。
「実は先輩にお願いがあるんですぅ」
萌の話し方は独特で、女性社員には評判が悪い。今は左右の指先を胸の前で合わせながら、言いにくそうにしている。その爪には、美しいネイルが施されていた。
「お願い? 何だろう。遠慮しないで言って?」
明日香が促すと、萌の目がギラリと光った。
「先輩って、毎年浅倉食品とのコラボを日置先輩とやってますよね? それ、今年は私に代わってもらえませんかぁ?」
思いもしない言葉に、明日香はヒュッと息をのんだ。萌が言っているのは、ナマケモノがトレードマークのチョコレート菓子とのコラボ商品だ。新人だった頃、初めて明日香と日置が勝ち取った契約で、毎年冬頃にキャンペーンをやっている。
「毎回、日置先輩と明日香先輩がやってるじゃないですか? 私、あのキャラクター好きだからやってみたかったんですぅ」
萌が邪気のない表情で言う。
「え……と。あれは、先方の担当者も毎年同じだから、変えるなら相手にも聞いてみないと。だから、私の一存で決められないわ」
「じゃあ、先方に聞いてみてもらえませんか?」
やんわりと諦めさせようとしたにも関わらず、萌は食い下がって来た。
「私、あのキャラクター好きですし! 日置先輩の仕事も尊敬してるので、勉強させてもらいたいんですぅ」
「そうなのね……」
「それに、違う人がやった方が新しいアイディア出ると思いますよ! 萌、この間まで学生だったし、購入層の考えも先輩よりかはわかると思いますぅ」
萌は言いながら、近くにいた男性社員に笑顔を向ける。
「ねっ! 山田さんも、そう思いますよね?」
萌に満面の笑みを向けられた山田は、頬を緩めながら同意した。
「そうだね。萌ちゃんなら、いいアイディア出せると思うよ」
萌は「ありがとうございますぅ〜」とか何とか言いながら、周りにアピールしている。これだけみんなの前で言われては、明日香に抵抗する術はなかった。
「わかった。先方や日置にも聞いてみるよ」
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