第5話 後輩の森山くん
「おはようございます。桜井さん、なんかいいことでもあったんですか?」
後輩の森山に指摘されるほど、顔が緩んでいたらしい。
森山は、明日香が教育を担当している新入社員だ。見上げるほど身長が高く、鍛えているのかガタイがいい。
(でも、性格は人懐っこくて、小動物みたいなんだよねぇ)
そのギャップがいいと、森山は新入社員の中のダントツ人気だ。教育係になった明日香を羨む声も時々聞こえる。
「おはよう。ちょっとね」
明日香は、微笑みながら答える。仕事中に柔らかく微笑むことも、いつもだったら考えられない。本当に魔法にかかっている気がする。
「やっぱり、今日の桜井さんは何か違いますね! すごくいい感じです」
森山が、目をキラキラさせながら言う。
(いつもと違う? 外から見ても、わかるってこと? 本当に魔法だ!)
明日香は感動した。それにしても、褒め言葉を躊躇なく言えるところが、森山だ。明日香は微笑ましく感じながら、手を出した。
「できた? 私のところに来たのは、見て欲しかったからだよね」
「その通りです! よろしくお願いします!」
明日香は森山から書類を受け取りつつ、さっと目を通す。明日香たちの会社は、中堅の文具メーカーだ。森山は、商品を扱ってくれる小売店の候補と、商品数の計画表を作っていた。
「うん。いいね。ただ、この辺りは少し修正しようか。この地区の小学校は、柄物を使うの禁止してるからね。無地の商品を多目に持って行った方がいいよ」
「そうなんですね! 勉強になります」
「柄物を持っていくなら、高学年向けの商品にしよう。塾用に、可愛い文房具を揃える傾向があるから」
明日香の指摘に、森山は嬉しそうににっこりして言う。
「ありがとうございます。修正したら、また持って来ますね」
(今、注意したのに喜ばれたような……?注意してもにっこりできる辺りが、愛される所以なのかしら)
いつも表情に乏しい明日香は、森山の姿勢を学ぼうと思った。
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