第4話 コーラルピンク
翌日、さっそくコーラルピンクの下着を身につけた明日香は、鏡を眺めてしばし見惚れた。
〝日置を落とすべし!〟
一瞬カードの文面が頭をちらついたが、手で払った。
明日香は元々肌が白い方だが、コーラルピンクを身につけると、透明感が増したように感じる。心なしかスタイルが良くなった気さえした。
(って、いつまでも自分に見惚れてないで、用意しなきゃ)
我にかえって、明日香は急いで出社の準備をした。
会社に着くまでの間も、美しい下着を身につけているのだと思って、ずっと心が浮き立っていた。自然と背筋が伸び、表情も柔らかくなっていると、自覚する。
(知美の言うとおり、すごい効果がある)
明日香は感心した。それに、何より自分が楽しかった。
(着るものひとつで、こんなに意識が変わるなんて。女の子がオシャレするの、気持ちわかるな)
とはいえ、ファッションに疎い明日香は、いつも無難なコーディネートばかりだった。そういう意味でも、周りから見えない下着ならチャレンジしやすい。
(本当、知美は私のことよくわかってるわ)
知美のような友人がいてくれて、本当にありがたい。
職場でエレベーターを待っていると、後ろから日置の声がした。明日香は思わずどきっとする。
〝日置を……〟
また何か浮かびそうになったけど、頭を振って追い払った。
今日はいつもより綺麗になっている気がするため、やっぱり日置に見てもらいたかった。日置は、周りに「おはよう」と声を掛けながら、近付いて来る。身体の後ろ側全体が過敏になって、日置が側に来る気配を感じた。
「桜井、おはよう」
「おはよう、日置」
日置への気持ちを自覚してからは、あまり目を合わせられなくなった明日香だが、今日の明日香は、美しい下着を身に付けている。その事実が背中を押して、明日香は久しぶりに日置の目を真っすぐに見た。
目を合わせられたのは一瞬で、すぐに逸らして前を向く。しかし、それだけで明日香の胸はいっぱいになる。
やって来たエレベーターでも、他愛ない会話をし、自分のデスクに着く頃には、明日香は喜びでふわふわしていた。
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