第2話 親友による、容赦ない檄
「もしもし、知美?」
明日香は、いつもより少しだけ緊張して電話に出た。
「明日香、久しぶり! やー、もう赤ちゃん大変だよー。想像以上だね、あれは。やっと寝たけど、どうせすぐ起きちゃうだろうし、今のうちにやっておかなきゃいけない家事もてんこもりだから、とりあえず必要なことを伝えるね」
怒涛の勢いに、明日香は怯む。激流の中の岩のように、言葉の奔流に為す術もない。とにかく、知美が初めての育児に苦戦していることは理解した。今まで、のんびり幸せに浸っていたことが、少し申し訳なく感じる。
「8時前だから、明日香は映画でも観ながら晩酌中ってとこかな」
さすが親友、明日香のルーティーンを把握している。
「羨ましい〜。心底羨ましい〜。けど、明日香もう28歳じゃん! 1人晩酌でのんびりしてたら、おひとり様にまっしぐらだよ」
若干叫び気味に「羨ましい」を連呼した後、耳に痛い事実を告げてくる。さすが親友、容赦なし。激流の中の岩は、反論もできず耳を傾けるのみ。
「だから、下着を贈ったのよ! 明日香に檄を入れるためにね」
「……可愛らしい下着だったけど、勝負下着的な? そういう意味であれだったの? それと、あの、ほら、ポストカードのメッセージなんだけど……」
やっと返事を返す。
「そうだよ。だってあんた、このままじゃ日置と何も進展しないと思って」
「わー! ちょっと、やめてよ誰かに聞かれたら……」
「電話なんだから、誰も聞いてるわけないでしょ!」
好きな人の名前を出され、混乱する明日香に知美の的確なツッコミが入る。
「うう……」
大学時代にちょっとだけ付き合った男の子がいたものの、それ以降何もない明日香は、恋愛関連の話も苦手だった。
「日置も、入社当時は頼りなかったけど、今や営業成績トップだよ? 元々隠れイケメンだったけど、洗練されて隠れてないからね? 狙ってる女子、絶対たくさんいるって」
「うう……」
またもや、うめき声で返す。産休中の知美より、明日香の方が実感していることだった。トイレや更衣室、給湯室で日置のことをかっこいいと言っている声を、何度聞いたことか。
「同期で仲がいいだけじゃ、その内誰かにとられちゃうからね!」
「わかってるけど、だからって、どうしたら……」
「そこで、私が贈った下着の出番よ」
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