Episode 5 Probation

素早く立ち上がり、近づいてくるジルさんから距離をとるために素早く後方に下がる。


少し距離ができたと思い安心したのつかの間、一瞬で距離を詰められる。


急いで斬りかかろうとするが、ジルさんの短剣の柄で手の甲を殴られ刀を落としてしまう。


体勢を立て直そうとしたが、既にジルさんの左足が俺の右わき腹を蹴り飛ばしていた。


数メートル吹っ飛ばされる。


「おーい。もう終わりかー?」


何とか立ち上がるが、うまく呼吸ができない。


俺が持っていた刀はジルさんの足元にある。


迂闊に回収することはできない。


(強いな)


一見隙だらけに見えるが、むやみに近づ消させない覇気がある。


「どうする?もうやめるか?」


「やめません」


とはいえ、特にこれといった作戦があるわけではない。


「そうか」


そう言ってジルさんはゆっくり近づいてくる。


(相手から距離を詰めさせてはまずい)


姿勢を落として、こちらから距離を詰める。


「うお」


急に距離を詰められて驚いたのか、ジルさんが声を上げる。


右手に持っている短剣を奪いたい。


しかし、そう簡単に奪わせてくれるわけもなく簡単にまた距離をとられてしまう。


「距離の詰め方は、まぁまぁだな。俺の動きを見て学んだか?」


「どうでしょう」


しかし、こちらもさらに距離を詰める。


そして、ジルさんの両手首をつかむ。


「力強いな」


単純な力勝負ではこちらも負けていない。


そう思った瞬間、一気に体の力が抜け、気が付いたら俺は宙に舞っていた。


地面にたたきつけられる。


「ぐっ!」


「はい。終わり」


気が付いたら、ジルさんの短剣が俺の首筋にあった。


「まぁ、素人にしては悪くはないが、俺の弟子には到底及ばないな」


正直、全く歯が立たなかったため、言い返す言葉もない。


「結果はもちろん不合格だ。今日のところは家に泊めてやるから、明日帰んな」


そう言って、ジルさんは刀を拾い上げ家に戻っていく。





その夜、俺はジルさんと食卓を囲んでいた。


「まぁ、食いなよ」


そう言って出してくれたのは、獣の肉のようなものが焼かれたものだった。


「この辺の山によく出る熊の肉だ」


食べてみると、少し不思議な感じがするがうまみがあって旨い。


夢中でかぶりついていると、


「なぁ、坊主。お前なんで冒険者になんかなりたいんだ?」


そうジルさんが聞いてきた。


「冒険者として名を挙げて、力を持ちたいからです」


「力を持ってどうする?」


「この国のアデルを落とします」


そう言うと、ジルさんが食事の手を止めた。


「坊主、自分が何を言っているのか分かっているのか?」


「はい」


「それは、国の貴族であるアデルに逆らうことは、この国に対する反逆だぞ?」


「今のアデルがのさばっている国など無い方がましです」


「へぇ」


「俺は本気です」


「まぁ、お前がどんな理由でそんなことを考えているのか知らんが、相手はこの国の貴族だ。今の弱っちいお前じゃ無謀もいいとこだな」


「それは、、、」


分かってはいたが、今日のジルさんとの手合わせで自分の無力さを痛いほど痛感した。


「生き方なんて一つじゃないぞ?」


ジルさんはそう言った。


食事を終え、ふと部屋の隅を見ると鍵のかけられた部屋があるのが目に留まった。


何の気なしに、


「あの、あの部屋は何ですか」


そうジルさんに聞くと、


「気になるか?」


そう聞かれた。

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