大文字伝子が行く55

大文字伝子が行く55

午前10時。池上病院。南原の病室。高遠と伝子が入って来る。「どんな具合だ、南原。」「ギプスは取れました。簡易添え木はまだありますけどね。」「順調なんだね。」と伝子と高遠が言っていると、池上葉子が入って来た。

「順調よ。ちゃんと安静にしてくれているし。時々、服部君が来て歌で励ましてくれているし。明日はMRIを撮ります。じゃあね、高遠君。お疲れ様。」葉子は出て行った。

そこに、服部と山城が入って来た。「ああ、先輩。僕らまで警護つけて貰って済みません。」「それはEITOの判断だ。私と絡んだお陰で、命まで狙われて、済まない。」と伝子は頭を下げた。

「怒りますよ、先輩。鬱陶しいと思ったら、とっくに関係を絶っています。みんな先輩が好きだから、慕っているからお付き合いしているんです。」服部の言葉を蘭と文子が聞いていた。

「素晴らしいわ。蘭ちゃん達も『先輩』って呼んでいるそうですね、大文字さん。私も『先輩』って呼んでいいですか？」「勿論だ。」

「嬉しい！」と文子は伝子に抱きついた。「私、部活やったことないんです。書道部は、どこも敬遠されて。父が師範だったし。」「愛宕刑事と山城は書道部の後輩だ。確かにマイナーだから、敬遠されがちだな。」

南原京子が入って来た。

「大文字さん、うちの子は、退院してからって言うけど、お見合いでも好き同士だし、もうお嫁さんしてるし、籍を入れてもいいんじゃないの、って言ってるの？どう思います？」と、京子は伝子に尋ねた。

「南原、籍を入れろ。ウチも先に籍をいれたぞ。命令だ。」「はい。命令に従います、先輩。」と苦笑しながら南原は応えた。

「じゃ、善は急げね。文ちゃん、後で区役所行って・・・。」と、言いかけた京子の眼の前に文子は『結婚届』を差し出した。

「南原。いい嫁さん、見つかったな。」「鈴木さんも、そう言ってました。」

午前11時。EITOベースゼロ。トランプをしている草薙と渡。理事官がやってくる。「こらっ。職務中にトランプとは何事だ。アンバサダーの『お仕置き部屋送り』にするぞ。」

「よくご存じですね、理事官。」「ああ。橘一佐から聞いている。」「自衛隊でも警察でも、いい指揮官になれる逸材だ、大文字伝子君は。」理事官と共にやって来た陸将が言った。

そこへなぎさと共に、武器開発部の梶田がやって来た。「お待たせしました、皆さん。」

トランプを見て、「ババ抜きでもやってましたか。呆れたな。」と言った。

「すまない。つい。」「遅れた私が悪かったです。では、皆さん。これを見て下さい。」と、彼は1枚のうろこ状の透き通った物体をつまみ上げた。「これはチタンの化合物から作られています。以前、チタンの剣を作りました。今、天童さんが持っているやつ。あれは堅くつくってありますが、これは柔らかく作っている。今や終了のチタンフレームの眼鏡の親戚みたいなものです。アンバサダーの要望で、江角総子氏が持っていたメダルのように『飛び道具』は出来ないだろうか？」という要望ですが、これが完成品。そして、これはまとめて持って連続して投げられます。陸将、理事官。触ってみて下さい。」

陸将と理事官は1枚ずつ持った。「軽いな。それでいて、丈夫・・・なのかな？」と陸将が言った。

「そうです。トランプを持って来たのは比較対象です。よく映画なんかで、トランプを曲げたり、ササっと投げたりして配っているでしょう？」と梶田は説明を続けた。

「そんな感じの使い方が出来るんです。」「つまり、手裏剣みたいな？」と陸将が言った。

「そうです。陸将のお好きな野球で言えば、フォークのように変化して投げられます。」

「これは凄い。」陸将、理事官、草薙、渡は異口同音に言った。

「一佐。EITOベースワンで試して貰えませんか？」と、梶田は言った。「分かった。」

「じゃ、移動しましょう。」

一行は、EITOベースワンの弓道場のブースに移動した。弓道の練習をしていた隊員達は隅に移動した。

なぎさは、弓道の的に指の力加減を見ながら、投げた。

「面白い。これは使える。叔父様。いや、陸将。いいものを作って頂きました。」「うむ。私もそう思う。」と陸将は頷いた。

梶田は、「もう一つあります。これです」と懐から拳銃のようなものを出した。

「これは、正確に言うと、拳銃ではありません。以前作った、煙玉式こしょう弾の拳銃型発射器です。クレー射撃場に移りましょう。」

一行はクレー射撃場に移動した。「お願いします。」と係員に声をかけ、梶田はなぎさに拳銃を渡した。なぎさが、的目がけて撃つと、ブスっという低い音がして、的には黒い塊の玉子のような痕が残った。

「どちらも試作品で、アンバサダーの発案だ。銃火器は使いたくない、という希望から産まれた。一佐。アンバサダーに届けてくれ。」「了解しました。」

午後1時。伝子のマンション。「よく出来ているなあ。」と依田達は『ためつすがめつ』眺めた。

「藤井さんの分のDDバッジも預かって来ました。」となぎさが言うと、「僕から渡しておくよ。」と高遠は受け取った。「それから、高遠さんにネーミングの依頼です。」

「うん、そうだね。投げる方は『シューター』、拳銃みたいなのは、『ペッパーガン』でいいんじゃないの？」「ありがとうございます。」

同じく午後1時。久保田邸近くの公園。あつこは危険を察知した。「誰だ？」「誰でもいいよ、渡辺あつこ警視。やっちまえ！」

男の合図で覆面をした男達、約50人が一斉に、あつこに襲いかかった。あつこは咄嗟にブーメランを投げ、ブーメランは男達の一人の頬を撫でて、民家の板塀に突き刺さった。機先を制した、あつこはDDバッジを押し、長波ホイッスルを吹いた。そして、トンファーで、電撃警棒で襲いかかってくる敵を倒して行った。

久保田警部補が、警備員を連れて、やってきた。約半分の人数を倒した後だったが、こちらの形勢は有利とは言えなかった。リーダーの男が、拳銃を出したのを見て、久保田警部補は、自分の銃で、男の腕を撃った。リーダーの合図で男達は一目散に逃げた。

「大丈夫か？あっちゃん。」「んん。おそーい！まこりん。」「おい。人前だぞ。」

久保田警部補に抱きついた、あつこだったが、平静を取り戻し、ガラケーを取り出し、EITOベースに連絡した。「渡辺です。今、自宅近くで襲われました。ブーメランで怪我をさせました。血痕が付着しているので、鑑識で調べて貰います。」

同じく午後1時。愛宕邸近くのファミレス。「たまには、外食もいいね。」と愛宕がみちるに言いながら、駐車場に向かうと、サングラスをした一団が、二人を襲った。「何者だ？」と愛宕が言っている間に、みちるはDDバッジを押し、長波ホイッスルを吹いた。みちるはトンファーで、愛宕は電撃警棒で闘った。

そこへやって来たのは、増田と金森だった。二人は、得意の空手とムエタイで対抗した。警官隊がやって来た。敵は四方八方に逃げたので、全員は逮捕出来なかった。

午後2時半。伝子のマンション。あつことみちるが襲われた事件が伝わった。

EITO用のPCの前。理事官が説明をしている。

「橘一佐のブーメランから採取した血液のDNAには『前』があった。中曽根組の吉田一郎のDNAだった。今は分裂した東京中曽根組の一人だ。久保田警部補が打ち落とした拳銃から、やはり東京中曽根組の丸山茂樹の指紋が出てきた。そして、白藤警部補の証言から、右目の下に大きな黒子がある人物は一ノ瀬五郎という、東京中曽根組の幹部だった。ソタイ４課が、ガサ入れしたが、もぬけの殻だった。そこで、今、中津警部補が、分裂する前の、元の中曽根組組長のところに確認に行った。久保田管理官の方の画面を出してみてくれ。」

高遠が久保田管理官直通のPCを起動した。「今、テレビ電話で中津警部補と話していたところだ。組長の話によると、半年位前にある人物がやって来た。いきなり札束を積み上げて置いた。それで、こちらの指示する人物を片付けてくれ、と言ったそうだ。組長はテキヤ上がりでね。同じ反社でも、『素人衆には迷惑をかけない』ってポリシーがある。それで、断ったが、丸山は納得出来ず、造反した。それが分裂の原因だ。」

中津警部補が、テレビ電話越しに怒鳴った。「親分に、『死の商人』のことを言ったら、ひょっとしたら、札束積み上げた人間が、そうだったかも、って言ってました。活動家の手先になるなんて、丸山は悪魔に魂を売ったんだな、と呟いてもいました。それと、例の『キーワード』について聞いたら、知らないが、どこかで情報を掴んだときは協力する、と言っていました。」

両方のPCを高遠はシャットダウンした。「なぎさはどう思う？」と、伝子は側のなぎさに尋ねた。「同じ組織が二手に分かれて警察官を自宅近くで襲う、普通はあり得ないですね、おねえさま。」

「何かのアピールかな？伝子さ・・・伝子。」「学。言いにくければ、伝子って呼ぶのはベッドの中だけでいい。それで、何のアピールだ？」

「もう堀井情報は古いでしょう。政務官情報でしょね。警察官の中で、那珂国マフィアが敵対している組織、つまりEITOに関わりがある人物がいる、と。警視の叔父さんは副総監、みちるちゃんの叔父さんは丸髷署署長。邸宅は、普通の警察官の家らしくない。」と、高遠が言うと、「なるほど。音無が来た時は、なぎさもあつこもみちるもいなかったから、音無の情報はDDだけのものだった。」と伝子は応えた。

「多分、ワンダーウーマンの正体がばれているのは伝子さんだけでは？」と言った高遠に、「そうですね、高遠さんの言う通り、私たちワンダーウーマン軍団のコスプレは、単独では、あまりやっていませんからね。」となぎさが言った。

「何かの機会に敵を混乱する手段にはなりますね。」と言う高遠に、「問題はキーワードだな。逃げた連中捕まえたら、何か分かるかな？」と伝子が尋ねた。

高遠は、唸るばかりだった。

チャイムが鳴った。藤井だった。「お汁粉食べる？脳を使い過ぎたら、甘い物よ。」と、お汁粉を持ってきた。

「あ。これ、藤井さんの分のDDバッジです。」と、高遠がバッジを藤井に渡した。

「これ、1回押すの？2回押すの？長押しとかあるの？」「1回。何回押しても長押ししても結果は同じです。身につけているだけで、EITOの方で大体のエリアを捕捉します。押すと精度が上がって、ピンポイントの位置を探り当てます。そして、救出に向かいます。なお、映画に出てくるような通信機みたいに音声は送れませんし、受け取れません。位置データの一方通行です。」と、なぎさが説明した。

「あ。そうだ。ウーマン銭湯のオーナーから打診があって、サービスデーに招待されているんですが、藤井さんもどうですか？明日なんですけど。」

「いいけど、ウーマン銭湯は男子禁制よね。」「はい、僕は留守番です。」と、高遠が言った。

午後7時。物部達の旅行の話をしてから、なぎさは帰って行った。「一佐。大丈夫かな？」EITOのオスプレイまでの道中、短いが警護がつく。というか、やはり連絡係だが。」

幸い、帰りは無事だった、と高遠のLinenに連絡が来た。

翌日午後4時。伝子のマンション。「おはよう、大文字君。あ。もう夕方か。」

EITO用のPCが起動し、画面に理事官が現れた。

「昨夜遅く、中曽根組の組長が息を引き取った。自宅でな。窒息死だ。カタギの息子が発見した。コロニー後、やっと、あちこちで縁日が行われ、自転車操業でも持ち直したばかりだった、と息子は言っている。」「理事官。まさか・・・。」「その、まさかだ。昨夜は来客があった形跡がある。殺られたんだよ。今日昼過ぎ。葬儀屋で、所謂死に衣装の白い衣装に着替える際、職員が隠しポケットに入っていたメモを発見、息子に連絡、久保田管理官を通じて、EITOにも連絡が来た。それがこれだ。」

理事官は画面にメモのコピーをクローズアップした。『たからく』と読める。

「恐らく、組長はキーワードを探ってくれたのだろう。高遠君、何て書いてある？」

「宝くじですね。ダイイングメッセージというより、書きかけの途中で来客があったのでしょう、殺し屋の来客が。組長は慌てて隠しポケットにしまい込んだ。殺し屋が衣類を調べなかったのは、時間的なこともあるけど、証拠になるような書類か何かを組長が持っていて、それを殺し屋は組長殺害後、持って逃げた、と。詰まり、宝くじというヒントはかなりの信憑性がありますね。」

「流石だな。ギャンブルは公営ギャンブルの競輪競馬競艇とかではなくて、宝くじのことで間違いない。草薙に調べさせたところ、今日午後7時に2カ所で大々的なキャンペーンがある。1カ所は、蔵前国技館の近くの神秘ホール。もう一カ所は舞踏館隣の舞踏振興ホールだ。作戦を立てて警護してくれ。今、EITOのオスプレイが向かった。」

伝子は黙って、支度にかかった。高遠は、台所の緊急バルコニーを開けた。

「学。キスしろ。時間がない。早く。」高遠は、伝子の覚悟を察して、キスをした。しかし、縄梯子が見えて、長くは出来なかった。「伝子。生きて帰れ。」高遠は、いつになく強い口調で言った。「はい、あなた。行ってきます。」

あっという間に縄梯子は空に消えた。ため息をつき、高遠は台所出入り口を閉めた。

EITOベースゼロ。会議室。午後5時。

「二手に分かれよう。後2時間しかない。それしかない。」と伝子が言った。

「おねえさま。公営ギャンブルの方は？」「それは分からない。だが、この際、切り捨てて考えよう。責任は私が取る。」と横から理事官が言った。

「まずは、神秘ホールの方。こちらは私が指揮を執る。あつこ、みちるは私の方に入れ。金森、お前もこっちだ。馬越、右門。お前達もだ。振興ホールの方。こちらはなぎさ。お前が指揮を執れ。増田、大町、田坂もなぎさに続け。既に国賓館のSPチームが館内で警護している。ホールから100メートル以内に警察官が待機している。我々は待機エリアで待機。敵の出方次第で対応する。場合によっては、避難誘導しか出来ないかも知れない。編成とスタンスは以上だ。質問は？」

「シューターとペッパーガンは、どうします？おねえさま。」「一応、携帯して、いざという時は使え。ぶっつけ本番だが、何とかなるだろう。」

午後6時半。神秘ホール。「本日の催しは、宝くじに関する歴史や、これからのあり方について語らうシンポジウムです。観客は、そんなに多くありません。同時開催の振興ホールのイベントとは、かなり違いますね。」と、開催責任者が言った。

伝子は頷いて、SPのリーダーの林に言った。「シンポジウムの出演者は5人ですが、警護計画は？」「各人に2人、全体を見守る係に3人。討論中は、舞台袖と出入り口に配備します。」リーダーの答に、「我々はEITOの所管ですが、正体を隠す為、敢えてこの衣装で動きます。ご理解下さい。」「心得ています。」

同じく、午後6時半。「敢えて、ワンダーウーマンの衣装ですか？」と、MCを担当している利根川は、なぎさに言った。「ええ。敢えて言えば、犯罪者にも一般人にも顔をさらす訳にはいかないので。今回は、もし敵が、敢えて敵と言いますが、テロリストが行動を起こした場合、速やかに避難誘導して下さい。」

「パフォーマンスだとか、台本とか言い訳しなくていいのですね？」「そうです。それと、事が収まっても、イベントは再開しませんので、帰宅させて下さい。」「了解です。」

「利根川さんがMCで、心強いです。」「心強いなんて。ワンダーウーマンには敵いませんよ。」

午後7時。MCが、センターマイクの近くに不審な木箱があるのを確認した。舞台袖のスタッフにどうすべきか確認した。直ちに、あつこが確認、解除にとりかかった。伝子が、林に「全員避難させて下さい。爆発物は1つとは限りません。今、爆発物処理班の応援を呼びました。」と言った。

伝子は開催者に「イベントは再開出来ないので、全員帰宅させて下さい。」と指示を出した。

会場出入り口付近で避難誘導していた、久保田警部補に「会場以降の出入りは？」「誰も出入りしていません。」「全員、帰宅させて下さい。」「了解です。」「みちる。お前達は向こうの応援に向かえ。」「おねえさまは？」「あつことここに残る。爆発物処理班が来たら、交代する。向こうで、なぎさの指示に従うんだ。」「はい。」

午後7時半。丸山率いる東京中曽根組組員が現れ、なぎさ達は、こしょう弾や、ペッパーガンで、彼らの実弾に対抗していた。観客や出演者は、利根川の速やかな避難誘導をしていた。「こけおどしが、どれだけ続くかな？」

なぎさが、ブーメランを投げた。増田、大町、田坂は、シューターも投げた。

突然、三角巾をぶら下げた組長丸山のアキレス腱にシューターが刺さった。丸山が振り返ると、新しいワンダーウーマンが出現して笑っていた。金森だった。金森は、丸山の片手に握られている拳銃を、ブーメランでたたき落とした。気勢を削がれた子分達は、みちる達の応援もあって、忽ち全滅した。ざっと100人近いヤクザ達は、拳銃を持っているにも関わらず、ワンダーウーマン軍団の敵ではなかった。

警官隊と共に、逮捕連行にやって来た愛宕は、「人質取られなくて良かった。」と、なぎさに言った。「人質あっても、隙があれば倒せるわ。」と言い、愛宕は驚いた。

少し離れた所から、青山警備補が、ある女を連れてやって来た。何故か、金森に似ていた。「こいつが、『死の商人』らしいですね。そっと、様子を伺っていましたよ。」

なぎさは驚いて振り返った。金森は、そこにいた。

翌日。午後4時。「他人のそら似、かあ。確かに世の中には自分とそっくりな人が3人はいる、って言うけどなあ。」と高遠が言った。

「私には、おんなのいとこも、勿論姉妹もいません。整形しているかも知れない。」と金森が言った。「メイク落としたら別人って、比喩じゃなくて本当に別人みたいな人はいるわ。」と慶子が言った。

「ヨーダ。引っ越すなら引っ越すで、ちゃんと言えよ。」と福本が言った。

「みんな忙しいし、大した荷物はないし。」「叔父さんが、用意してくれたの。ホテルの隣のマンション。」

「出勤時間が短くなるね。宅配便は、いつ止めるんだい？」と高遠は言った。

「直球だな。今年度末で止めて、ホテルマン修行。あ、交通安全教室は出来るだけ参加しますよ、愛宕さん。」「それは助かります。」

「そろそろ、ウーマン銭湯、行くかな？皆、用意はいいか？」と伝子は皆を眺めた。

「じゃ、俺たち、『男子』は『お邪魔虫』だから、退散するか。」と。物部は言った。

「質問。」と、なぎさは、栞に尋ねた。「やっぱり『マエ』は隠した方がいいのかな？マダム。」

「マダム？女は女同士。遠慮なんかいらないわよ。ね、伝子。」

「そいうことだ。」女子は全員、笑った。男子は、すごすごと帰って行った。

女子はウーマン銭湯に向かった。

「マダム？」高遠は首を傾げた。

―完―