魔法の秘密を明かしてさしあげますわ

「魔術が使えるから? じゃあ、お前は魔術が使えないのかよ」


グランツは当然の疑問を投げる。


「ええ、ワタクシは魔術を使うことができませんわ。どれだけ簡単な式であっても、魔術を発動させることができないのです」


「魔術が使えるヤツには使えない力……なら! 俺は今後一切魔術を使わないって誓ってもいいぞ! それだけする価値が、お前の力にはあると思って……」


捲し立てるグランツだが、リーラリィネはそれを手で制した。


「魔術を使わなければ使える…というわけではありません。ワタクシの力……魔法を使用可能とする要素と、魔術を使うための条件が完全に『逆』になっているという点が重要なのですわ」


「魔術を使用可能とする要素……?」


グランツは思い切り首を傾げてしまう。


その後ろで、ヴェインが目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。


「そういうことか。お前……魔力を『出して』いないんだな。だから、私に『見えなかった』というわけだ」


「正解ですわ、ヴェイン様。ワタクシは魔力を体のうちに留めることができるのです。そのせいで、魔術を使えませんでしたわ」


「……魔力を出していない? そんなもん、俺だって出してないぞ」


グランツの言葉に、やれやれといった表情を見せるヴェイン。


「お前は本当にローゼンハイムの子か? 六大公爵家が聞いて呆れるぞ。魔術の基礎も知らないで、よくこの学園には入れたものだ」


「う、うるせぇ! そういうのは俺には必要ねぇんだよ! この魔眼があれば、四言級魔術を一瞬で発動させられるんだからな!」


自分の無知さを堂々と誇るグランツだが、ヴェインとリーラリィネの白けた目線でさすがに下を向いてしまう。


呆れた表情を浮かべながらも、ヴェインは静かに説明を始めた。


「……いいか、私たちの扱う魔術は描いた式に魔力が込められることで発動する。だが、お前の言うように私たちは魔力を意識的に出したりはしていない。それは普段から、常に、自然と行われていることだ」


「自然と……魔力を出してる?」


「そうだ、人間は魔力を垂れ流し続けている……生きている間、ずっと。その『自然と放出され続ける魔力』を吸収し、力に変える技術こそが魔術と呼ばれるものだ」


「そういえば、俺の魔眼も『魔力を蓄えるもの』だとかなんとか、言われていたような……?」


グランツのその言葉に、ヴェインは額に手を当てながら静かに呟く。


「上はどうしてこんな奴を当てにしようとしていたんだ?」


「……では続けますわよ。つまり魔術を扱えるということは、魔力の自然な放出が続いているということ。そして、ワタクシが魔術を使用できないのは、魔力を一切外に出していないからですわ」


「そしてそれは……技術ではないんだな?」


ヴェインの問いにリーラリィネは大きく首を縦に振る。


「これは一種の体質と言ってよいでしょう。ワタクシは自らの魔力を体の内に留め、それを自らの意思で操作することができるのです。その『魔力を操作する業』がワタクシの力……魔法ですわ」


「なるほど。それで私にはお前が『見えなかった』わけだ。私が感じる人の魔力は、体から漏れる魔力であり、体にとどまり続ける魔力は感知しようがない、と。これは……なかなか興味深い発見だ」


ヴェインはこれまでにないほど明るい声で感想を口にする。


グランツもまた、どこか希望に満ちた表情でリーラリィネに問いかけてきた。


「魔力を留める……っていうのができないのはわかった。だけど、魔力を操作する方法っていうのがあるんだろ? なら、それを教えてくれ! それで強くなれるなら……」


だが、リーラリィネは厳しい表情で返す。


「それなら教える必要はありませんわ。グランツ様……いいえ、魔術を扱える方はみな、魔力の操作方法をご存じですもの」


「いや、俺はそんなの知らない……」


「魔術式を書く際に用いる『光点』を生み出す技術。あれはワタクシの魔力操作とまったく同じものですわ」


「……はぁ? いや、だってあんなの……なんの力もない、だろ?」


困惑するグランツに対し、リーラリィネは淡々と説明を続けた。


「水の入った革袋を想像してみると分かりやすいですわ。入り口をキツく縛った水袋を少しずつ握っていき、力がしっかりと加わった状態でヒモをほどけば勢いよく水が飛び出すでしょう。これがワタクシの魔法ですわ。一方、縛らないまま革袋に力を加えると、チョロチョロと水が出ていくばかり……これがグランツ様の光点ですわ」


「…………?」


理解できないのか、はたまた理解したくないのか、グランツは呆けた表情でリーラリィネを見つめている。


「つまり、この女の言うマホウとやらは、魔力を体内に留める体質ありきの力ということだろう。諦めるしかあるまい」


ヴェインはグランツの肩をポンと叩きながら、わずかに柔らかい口調で告げる。


するとグランツは、すぐさまヴェインの手を払い、リーラリィネに迫っていく。


「それじゃ……困るんだよ! 俺は、いますぐ強くならなきゃいけないんだ!」

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