不審者で侵入者ですわ

コンコンッ。


リーラリィネはノックをしてから、しばらく待ってみる。


しかし、扉の向こうから返事が返ってくることはなく、静けさだけ残る。


「ミィ……いませんの?」


彼女が訪れたのはミーシャの部屋だ。


リーラリィネとミーシャは同じ特待クラスだったが、最近はほとんど話をしていなかった。


講義が終われば新しい友人たちがミーシャの元に訪れて、すぐに連れ出してしまうからだ。


リーラリィネとしてはミーシャの交友関係が広がることを喜ばしいことだと見守っていた。


しかし、アルスの話を聞いた以上放っておくことはできないと思い、久しぶりに尋ねてみたのだ。


「留守のようですわね」


相手がいない以上、できることもないのでリーラリィネはその場を立ち去ろうとする。


「ドアなら開いてる。入って来い」


急に、部屋の中から声が聞こえた。


しかし、それは明らかにミーシャのものではない。


驚くと同時に焦燥感に駆られたリーラリィネは、勢いよく扉を開けた。


「いくら友達の部屋とはいえ、そう乱暴にするものではない」


リーラリィネの目に映ったのは、ベッドの上に座る1つの影。


それは真っ黒で、姿かたちをはっきりと認識はできなかった。


だが、リーラリィネはそれが誰だかすぐに気づいた。


「ヴェイン・バルドハイムッ……!」


「ふむ? おかしいな。お前は誰に対しても『様』をつけて呼ぶと聞いていたはずだが……情報が間違いだったか」


「お友だちの部屋に侵入してくる痴れ者に、敬意を払う必要がありまして?」


バッ!!


リーラリィネは一気に部屋に駆け込み、ヴェインとの距離を詰める。


そして、すぐさま腹の中央に向けて拳を振り抜いた。


「ほほう……間髪入れずに取りにくるのか。やはり、お前もこっち側か?」


リーラリィネの放った一撃は空を切った。


ヴェインがひらりとジャンプして、彼女の背後に回り込んだからだ。


それを察知したリーラリィネはすぐさま振り向くと同時に、今度は回し蹴りを放つ。


「落ち着け。本気で部屋を滅茶苦茶にする気か?」


リーラリィネの蹴りをギリギリで避けつつ、余裕の態度で問いかけるヴェイン。


「ミィは……ミーシャはどこですの? 返答次第では容赦しませんわよ」


「さぁな。別の生徒たちと一緒なのではないか? おかげでこちらも無駄足になるところだったが」


「あの子に何のようが?」


「別に大したことではない。ただちょっとした警告を伝えるだけだ」


「ワタクシを襲った者のそのような言葉を信じろと?」


「信じる必要はない。ただ、釈明するならお前を襲ったのは『私用』で、今回は仕事だということだ」


リーラリィネはヴェインをまじまじと見つめる。


真っ黒なフードと漆黒の髪の奥。


鈍い輝きを抱く碧眼が彼を見つめるリーラリィネ自身をハッキリと映しているようだった。


「……その言葉を信じるとして、どうしてワタクシに声をかけましたの? 貴方が呼びかけなければ、ワタクシはそのまま立ち去っていたはずですのに」


「理由は2つだ。1つは個人的に興味があるから。2つ目は確認したいことがあったからだ」


「確認したいこと?」


「お前はミハイル派か? それとも理事長派か?」


「……ミハイル様と、理事長?」


リーラリィネが戸惑いの表情を見せると、ヴェインもわずかに動揺する。


「まさか……あの2人が争っていることを知らないのか?」


「ミハイル様が学園内で危うい立場であると伺ったことはございます。ただ、その相手までは知りませんでしたわ」


「それは……ミーシャ・レコやアルティア・リ・パームグラフも同様か?」


「あの子たちが何を知っているかまで、ワタクシにはわかりませんわ。ただ、どちらかの派閥に加わった……といったお話を伺ったことはないですわね」


「……本当に無駄足だったか」


ヴェインはそう呟くと、スッと部屋から退出しようとする。


だが、リーラリィネはそれよりもわずかに早く動き出していた。


リーラリィネはヴェインの腕を掴むと、グッと顔を覗き込みながら問う。


「今度はワタクシの番ですわ。貴方はどちらの派閥なのかしら?」


「お前……さっきのは本気じゃなかったのか」


「ミィの部屋を荒らさないように手加減していただけですわ。さあ、お答えいただけますか? 貴方はどちらの派閥で、何の目的があってワタクシたちに接触してきましたの?」


ヴェインはリーラリィネから何とか逃れようと抵抗するも、彼女の腕はピクリとも動かない。


何らかの攻撃を仕掛けようともしたが、動いた瞬間に反撃される気配を察知し、ついに観念した。


「私は……どちらでもない」


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