素敵な面構えになりましたわね
その男は突然、リーラリィネの目の前に現れた。
友人2人との予定が中止となり、独りでゆったりと学園内の庭園を歩いている彼女の行く道を塞ぐように、突如として飛び出してきたのだ。
同時に、その手に持った剣で斬りかかる。
「あらあら」
ところが、リーラリィネはそれをひらりと躱し、剣を持つ手に手刀を叩き込む。
次いで、軽く蹴る形で男の足を払い、態勢を崩したところを押さえ込んだ。
「また、でございますわね、グランツ様」
「いたたたたっ!! わ、わるかった! 降参だから……放してくれ!」
グランツが負けを認めると、リーラリィネは力を緩める。
倒れ込んだ形から起き上がり、自分の服をはたきながら大きなため息を吐くグランツ。
「いまのでもダメなのかよ……絶対に不意打ちだったはずなのに」
「ダメもなにも……あれだけ殺気立っていれば、姿が見えなくてもバレてしまいますわ。相手の意識の外から仕掛けるなら、もっとも重要なのは平常心ですわ」
「それって……隠れてる段階で気づかれてたってことか?」
「もちろん、相手がグランツ様だということもわかっていましたわ」
「いやいや、それはさすがに……マジでか?」
「マジですわ」
それを聞いたグランツは、ぺたりと地面に腰を落とした。
「そんなのどうにもならねぇだろ! お前、無理難題ふっかけて適当にあしらおうってんじゃないだろうな!」
「いいえ、そのような不誠実なことは致しませんわ。以前、お約束した通り、ワタクシから一撃を取れたらグランツ様のお願いをお聞きします」
数日前、ちょうどリーラリィネが1人になったタイミングを見計らって、彼女の前にグランツが現れた。
それは、以前の事件に関する謝罪と、リーラリィネに「お願い」をするためだった。
「俺を鍛えてくれ」
あまりにも唐突な申し出に、さすがのリーラリィネも面食らってしまった。
だが、彼の真摯な眼差しを見て、それが冗談ではないと悟る。
「なかなか良い顔をされるようになりましたわね。では、ワタクシからの条件を飲んでいただけたなら、改めて話を聞いてさしあげますわ」
リーラリィネが提示した条件は2つ。
1つ目はツェンへの謝罪。
これにグランツはすぐさま応じた。
いつもの場所で眠っていたツェンのところに行くと、地面を叩き割るような勢いで土下座をした。
「俺はあんたに……あなたにヒデェことをした。本当に、悪かった!」
ツェンは状況が飲み込めずに目をぱちくりしていたが、リーラリィネの説明を聞くとグランツの謝罪をあっさりと受け入れた。
その後、目の前の少年に自分の好物である「ポポロ通りの残飯」を振る舞うと、ぼそりと一言。
「過ちはあるぞ、誰にでも。それを認めて謝れるヤツは驚くほど少ないがね」
それだけ言うと、口を押えるグランツの方を叩きながらカッカッと笑っていた。
「あー……くそっ! この調子じゃ、こっちの条件はいつになるかわからねぇよ」
「どんな形かは問わず、ワタクシに一撃を入れる……さて、本当にいつになるのかしら」
クスクスと笑うリーラリィネに対し、頬を膨らましながら不満そうな視線を向けるグランツ。
「そもそも、アンタが俺よりずっと強いってわかってるから鍛えてくれと頼んだのに……そんなアンタに一撃を入れるっていうのが無理な話じゃねぇか」
「そもそも、ワタクシにはグランツ様に何かをお教えする義理はありませんもの。条件が飲めないのなら、諦めてしまわれてもよろしいですわよ?」
リーラリィネの言葉に、グランツは肩を落としながらうなだれてしまう。
「グランツ様はミハイル様の弟君……でしたわね。兄弟でこうも違うものかしら」
「俺とアイツ……ミハイルのどこが違うと思う? 俺のどこが、アイツに劣っているんだ?」
「劣る? ワタクシはそのようなことは思っていませんわ。グランツ様はグランツ様で、ミハイル様はミハイル様でございましょう?」
リーラリィネは当たり前の返事をしたつもりだった。
だが、グランツはキョトンとした顔で彼女を見つめる。
「なに言ってんだ。アンタ、あの時言ったじゃねぇか。俺がミハイルより弱いって」
「ん? あの時……というのは、地下での話でございますか? そのようなことは申しておりませんが」
「いいや、俺はちゃんと覚えてるぞ! アンタは俺よりもミハイルのほうが苦戦するって言ったんだ! それは、俺よりミハイルのほうが強いってことだろ?」
グランツの反論に、リーラリィネはポンと手を叩いた。
その反応は無視するように、グランツはさらに語気を強める。
「俺は……ミハイルよりずっと、強いはずだ! そうじゃなきゃ、いけないんだよ! だから、そのためなら……なんだってッ!」
「それは、グランツ様の勘違いですわ。これはあくまでワタクシの感想ですけれど、現状でもグランツ様はミハイル様より強いと思いますわ」
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