お友だちが忙しくなってまいりましたわ②

自分の教室を出たリーラリィネが向かったのは、アルティアの教室だった。


ところが、その教室の前にはたくさんの人だかりができている。


「あ……アルティアさんだ!」


「アルティア様がこちらを見たわ。キャーッ! いま目が合ったわよ!」


「何言ってんのよ、いまのはあたしを見たのよ! あ、立ち上がったわ」


目の前の集まりから感じるある種の「熱気」に、リーラリィネは思わず立ちつくしてしまう。


すると、人の群れが急に2つに割れた。


そして、そこから姿を現したのはアルティアだった。


「ずいぶんと……人気者になりましたわね」


「あら、今日はそっちから来てくれたのね。どうも、シルバーウルフをミカエル様とワタシ、ミーシャが協力して倒したって話が出回り始めたみたいね。当然、流したのはあの方でしょうけど……ところで、ミーシャの姿が見えないわね」


「ミィはお休みですわ。仲良くなりたいと言ってくださる方々がいましたので、今日はそちらと過ごすように、と」


「そいつら、このやじ馬たちみたいな連中じゃないの? 噂に乗せられるような連中なんて信用ならないでしょ。大丈夫なの?」


「少なくとも悪意を持って近づいてきた……という方々には見えませんでしたわ。それにせっかく親しくなりたいと言ってくださる相手を悪し様に扱うというのは、あまり褒められたことではありませんでしょう?」


「ま、アナタが近くにいるなら何かあっても問題ないでしょうけど。でも、あまり人を信用しすぎるのも良くないわ。一見すると善人でも、その中身はどうしようもなく腐っているケースなんて、いくらでもあるんだから」


「ふふふ、ご忠告感謝いたしますわ。けれど、この状況では……今日の訓練は難しいかしら」


リーラリィネはアルティアの後ろで待機している群衆をちらりと見る。


彼ら彼女らはアルティアに対して羨望の眼差しを向ける一方で、親し気に話すリーラリィネには針のような視線を打ち込んでくる。


「今日……というか、しばらくは無理かもしれないわ。まあ、ウワサ1つで浮かされているだけだし、しばらくすればほとんどの連中が忘れるでしょう。悪いけど、訓練の再開はそれからってことになりそうだわ」


「わかりましたわ。モテモテのアルティアをワタクシが独り占めするのは、皆さまから恨みを買ってしまいそうですものね」


「いちいち皮肉を言わなくていいわよ!」


「それでは、そちらが落ち着きましたら、またお付き合いくださいませ。ごきげんよう」


リーラリィネはそれだけ告げると、アルティアに背を向けて立ち去っていく。


「なんなんですか、あれ! アルティア様に対して馴れ馴れしいわ!」


「たしか……アイツ、奴隷のくせに特待クラスに入ったヤツだったよな?」


「それなりの実力らしいけど、あの事件の時はどこかで気絶してたって話じゃない? 奴隷の分際で偉そうにしておいて、大事なときに役立たずって……ウケる!」


アルティアの背後で、リーラリィネの悪口が声量を押さえもせずに飛び交っていた。


「アナタたち?」


アルティアが呼びかける声に、騒がしかった生徒たちが急に静まり返った。


それだけ、彼女の声には力がこもっていたからだ。


「ワタシの周りでピーチクパーチクと騒がしくするくらいなら大目に見てもいいけれど……この耳に入る範囲で、彼女を貶めるようなことを言わないでくれる? 次、口にしたら、ワタシにケンカを売ったものと判断するわよ」


そう言いながら振り返るアルティアの眼には、明らかな怒気が込められていた。


そのせいで、彼女を囲んでいた生徒たちは全員が一歩、後ろに下がってしまう。


それを確認して、アルティアはゆっくりと自分の教室から離れていった。


「はぁ……何よ、いまの。まるで、どこかの誰かみたいじゃない」

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