お友だちが忙しくなってまいりましたわ①
ある日の放課後。
リーラリィネは友人2人といつも通りに「訓練」をしようと考えていた。
そこで、まずは同じ教室のミーシャに声をかけようとするも、彼女よりも先に話しかける生徒が現れた。
「ねえ、あなたがあの……ミーシャさん、ですか?」
「え……っと? たしかに私はミーシャ、だけど……ど、どなたですか?」
ミーシャが返事をすると、さらに追加で3人がミーシャを取り囲んだ。
「聞いたよぉ? キミって平民の出なんだって?」
「…………」
ミーシャが黙りながら俯き、警戒するような視線を向けた。
それを見ていたリーラリィネも、間に割って入るべきかと一歩前に進む。
が、ミーシャを囲んでいた1人が慌てて訂正する。
「あっ! ちがうちがう! 別にあなたをからかおうとかバカにしようとか、そういうのじゃないから! もう、あんたはどうして言い方とか考えないのかな?」
「あ、わりぃ……」
「あのね、実は……わたし、一度あなたと話してみたかったの」
しかし、ミーシャの警戒心は解けない。
「ど、どうしてわたしと……? 多分、初めて会うんだよね?」
「そうだね。こうして顔を見て話すのは初めてだよ。でも、選抜戦でのあなたは……なんというか、スゴイって思ったの。魔術、スゴイうまいでしょ? それに、あの事件でミハイル様と一緒にでっかい魔獣をやっつけたって聞いたし! あれって、本当なの?」
「え、えーっとそれは、そのぉ……」
ミーシャはちらりとリーラリィネのほうに視線を向ける。
そんなミーシャの姿を見て、リーラリィネはゆっくりと微笑んでみせた。
それを肯定と受け取ったのか、ミーシャは質問者に対して大きく頷く。
「うん。あくまで手助けくらいだったけど、あのでっかいのと戦ったよ」
ミーシャの言葉に彼女を囲んでいた生徒たちの顔が一気に笑顔で満ちていった。
「すごい……スゴイ! あのね、ミーシャ。私たちは……その、いわゆる落ちこぼれってヤツなの」
「落ち……こぼれ?」
「ああ、そうなんだ。一応貴族の肩書はあるけど……正直、平民と大して変わらない最底辺。一発逆転を狙って学園に入ったものの、その成績も落第ギリギリってところで」
「選抜戦でもいいところ無し。あの騒動の……おかげっていうのもなんだけど、選抜戦の評価がうやむやになったおかげで、ここに残っているって言っても過言じゃないの。だから、平民でありながら大活躍をしたあなたの存在は、私たちにとって希望だわ!」
「あの……よ、よくわからないんだけど、あなたたちは私にどんな用があるの?」
ミーシャが問いかけると、4人は互いに顔を見合わせてから頭を下げて告げた。
「ミーシャさん! どうか、私たちの友だちになってください!」
「……はいぃ!?」
「俺たち、マジでお前のこと尊敬してんだ! 身分とか関係なく、本気でやれば俺たちだってやれるかもしれない……そういう気持ちにさせられたんだよ」
「うんうん! まあ、ちょっと下心もあるよ? あなたから学べることとか、参考にできることとか見つけられるかも、みたいな。でも、それ以上にあなたの活躍に期待しちゃうってのが本心で、何か応援できることないかなって!」
あまりに急な出来事で、戸惑うミーシャ。
「でも、私にはリリィちゃん……一番の友だちがいるし、そういうのは……」
「別にこちらのことは気にしなくてもかまいませんわ、ミィ」
リーラリィネはミーシャの後ろに立ち、彼女の言葉を打ち消した。
「え、でも……」
「ねえ、ミィ。ワタクシにとって貴方はかけがえのない友だちだわ。それは、何よりも貴方がワタクシを慕ってくれたから。なら、いま貴方を慕ってくれている方々を無碍にすべきではありませんわ。誰かと親しくなりたい、近づきたいと願う気持ちは誰よりも分かるでしょう?」
「うーん……それは、確かにそうかも」
リーラリィネの言葉に納得しつつ、なおも迷いがグルグルとミーシャの頭の中を回っている。
「悩むくらいなら、一度きちんとお付き合いしてみればよいのですわ。彼らがどのくらい本気なのか……それを確かめてから改めて考えてみてもいいのではないかしら?」
「そっか、そう……だよね。うん! じゃあ、私にできる範囲で……協力させてもらう、でよければ」
その決断に、4人のなかで最も前にいた少女がミーシャの手を取った。
「ありがとう! あ、そうだ。まだ名乗ってなかったよね。私はクオリ・ラ・モーダストね。で、こっちの背が高いのがバンデー、このちっちゃい子がポーリス」
「で、俺はカッツェだ。よろしくな!」
クオリがぽこりとカッツェの頭を小突く。
「バカッ! それが人に頼み事する態度か! ミーシャ、これからよろしくお願いします」
「「「お願いします」」」
クオリが改めて頭を下げると、ほかの3人も合わせるようにお辞儀をする。
「う、うん。これから、よろしく……お願いします!」
4人に応じるようにミーシャも返事をする。
その姿を見届けたリーラリィネは、1人で教室から出ていった。
どこか嬉しそうな笑みを浮かべながら。
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