ワタクシは勇者になり、魔王を倒してみせますわ

「では、改めて問おう。お前は魔族でありながら『魔王を倒す勇者を目指す』というのだな?」


生徒会室の奥にある机から睨みつけるようね視線を放ちつつ、ミハイルは問いただす。


「ええ、その通りでございますわ。ワタクシは魔王を倒します、勇者として」


リーラリィネはミハイルの質問に対し、毅然とした態度で答えてみせた。


「その理由および目的はなんだ? なぜ魔族であるお前が魔族の王たる魔王を倒そうなどと考えているんだ?」


「それについては……ご想像にお任せしますわ」


「……ならば、別の質問に変えよう。もし魔王を倒せたとして、その後はどうするつもりだ?」


「それも、ご想像にお任せいたします」


「はあぁぁ……」


ミハイルは盛大にため息を吐いた。


「これで一体何度目だ、リーラリィネ。いい加減、もう少しまともな回答をしてくれないか」


「まるでワタクシが不誠実な対応をしているかのようなお言葉。さすがに心が痛みますわ」


「実際、そうじゃないか。魔王を倒す……までは名言するが、それ以上の話は一切しない。こちらとしては、そこがもっとも知りたいところだというのに」


「乙女には秘密があってしかるべきですわ。それを手ずから暴くというのならいざ知らず、本人に語らせようというのがいけませんわ。それに、ワタクシの目的がミハイル様にとってどう関係がございますの? 魔王を倒す勇者を育てる……それがこの学園の目的ならば、それ以上のことを詮索する必要などありませんわよね?」


「……こちらに語れる事情があるのなら、お前の事情にも手を突っ込むな、と?」


リーラリィネは口元をおさながら、わずかに微笑んでみせる。


「ミハイル様にも何か秘密がございますの? なら、ワタクシが何も語らないのもお相子ということになりますわ」


ミハイルは眉間に寄ったシワに指を当てながら、うなだれてしまう。


バンッ!


突然、部屋の扉が勢いよく開いた。


ずかずかと生徒会室に乗り込んできたのはアルティアと、その後を追うように入ってきたミーシャだった。


「ミハイル様っ! これは……どういうことでしょうか!?」


「アルティア嬢、落ち着きたまえ。どういうこと……というのは?」


「シルバーウルフの件ですわ! アレを捕縛したのがミハイル様と、ワタシとミーシャの手柄って……どうしてそんな嘘を!」


「そそそそ、そうです! あれは……リリィちゃんがやったことです! 私は何もしてないのに……こんなのヒドいです!!」


アルティアもミーシャも、憤慨した様子でまくしたてた。


だが、ミハイルは落ち着いた様子で対応する。


「あの状況で、たった1人の生徒がシルバーウルフ……2等級魔獣を倒したとなれば、それは学園内に収まらず、国中から注目を浴びることになる。それがどういうことか、わかるか?」


ミハイルの質問の意味をアルティアは即座に理解したのか、苦虫をかみ潰したような表情を浮かべる。


だが、ミーシャは納得がいかないようで、再び反発した。


「リリィちゃんは、勇者になりたいんです! 今回の活躍は、その役に立つはず。それを取り上げて、自分の手柄にするなんて……ず、ズルいですよ!」


ミーシャの抗議にミハイルがさらに応じようとした。


が、今度はリーラリィネがそれを静止する。


「ミィ、貴方の気持ちはとても嬉しいですわ。けれど、ミハイル様はワタクシの正体がほかの人たちにバレないように配慮してくださっただけ。アルティアとミィを巻き込んでしまったのは……申し訳ありませんわ。ですから、その怒りはミハイル様ではなく、ワタクシが受けますわ」


リーラリィネが謝罪すると、ミーシャはうなだれた様子で返事をする。


「これが……リリィちゃんのためになるなら、私は全然いいよ。周りの人たちの視線がちょっと怖いけど」


「この措置がアナタへの配慮というのはわかったわ。でも、ワタシにはシルバーウルフと対峙する実力なんてないのよ? あの時だって、何もできずに踏み潰されておしまいだった……そんなワタシに手柄を押し付けるなんて、少し……いいえ、かなりの侮辱じゃないかしら?」


アルティアはリーラリィネを睨みながら、強い口調で訴える。


だが、リーラリィネはニコリと笑う。


「いまは……たしかにそうかもしれませんわ。ただ、ワタクシはアルティアならあの程度の魔獣を倒すことなんて造作もなくなると信じていますの」


「また……アナタは根拠もないのに調子のよいことを」


「根拠はありませんが、確信ならありますわ。アルティア、貴方は強くなる。そのために必要なものをちゃんと持っていますもの」


「……何よ、それ」


「それは……秘密ですわ」


「はあぁっ!? ちょっとふざけないでよ!」


「ふざけてなどおりませんわ。これは、言ってしまうと台無しになるものですから。でも、ちゃんと貴方の中にあるのは間違いありませんわ。どうか、ワタクシを信じてくださいませ」


「今度はそういう言い方を……ああ、もう! わかったわよ。そもそも、下手に招待がバレて、アナタがいなくなるほうが問題だわ。こっちはまだ、借りを返していないんだから!」


「どうやら、話はまとまったようだな」


3人のやりとりを黙って見ていたミハイルが口を開く。


「では、ここで伝えておくことがある。勇者学園生徒会長ミハイル・ラ・ローゼンハイムは非公式ながら、リーラリィネを次期勇者候補の筆頭として推していきたいと思う」


「ミハイル様……それは、本気ですか?」


ハッと驚いた表情を浮かべながら、アルティアが問う。


「ああ、本気だ。今のところ、俺が理想とする『真の勇者』にもっとも近いのが彼女だからな。もちろん、ほかにもっと有力な候補が現れれば、そちらに乗り換える可能性もあるぞ。そこは最初に言っておこう」


「ええ、それはもちろんですわ。ワタクシが見込み違いと思われたなら、いつでも追い出すなり捕まえるなりするとよいですわ。もっとも、そのようなことにはならないと思いますけれど」


「では、改めて問おう……リーラリィネ」


ミハイルが再び鋭い視線でリーラリィネを見つめる。


「お前は、何のために勇者を目指している?」


「ワタクシは勇者になり、魔王を倒す……いいえ、ぶっ飛ばしてやりますわ」

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