友だちではないと言われてしまいましたわ②

「友だち……じゃない?」


リーラリィネは頭を下げたまま、ミーシャの言葉を繰り返した。


「そうですわよね……ずっと、騙していたのですもの。お友だちに嘘をつく人はおりませんものね。ミィ……ミーシャが怒るのは当然ですわ。ワタクシに貴方の友人を名乗る資格などありま……」


「違うっっ!!!」


これまでに聞いたことがないほど大きな声を上げるミーシャ。


その声に驚いてリーラリィネが顔を上げると、彼女の両目からは涙があふれていた。


「違う、ちがうよ。リリィちゃん、じゃないんだよ! 友だち失格なのは……私なんだよっ!!」


「どういう……ことですの? ワタクシが嘘をついていたから怒っていたのではないの? 魔族だから……恐ろしくて逃げたのではないの?」


戸惑いながら尋ねるリーラリィネ。


それの言葉を聞いて、ミーシャは何度も首を横に振る。


「嘘は……びっくりしたよ。魔族だって聞いて、怖いとも思った……でも、それで安心した自分がいたの。それが……嫌で、たまらなかったのっ!」


それまでよりも更に大粒の涙を流すミーシャに、リーラリィネの動揺も大きくなる。


「ミーシャ……落ち着いて。どういうことなのか、教えていただきたいですわ。どうしてワタクシではなく、貴方が友だち失格ですの?」


「あの時……あの一番大きな狼に、リリィちゃんが吹き飛ばされた時……私は、逃げちゃったの! あなたが、危ないってわかってたのに、1人で逃げちゃって……」


「ええ……でも、それは仕方がないことですわ。あの状況では、逃げるのは当然ですもの」


「それは、アルティアも言ってくれた。あの時、私が逃げるのが……あなたのためでもあるって」


「それなら……」


リーラリィネが歩み寄りながら言葉を返そうとするが、ミーシャは一歩下がりつつ声を張り上げた。


「それでっ! 私は……ホッとしたんだよ。ああ、私はここから逃げていいんだって。友だちを置いて逃げても、私は悪くないんだって!! そんな、ズルいことを……考えてたんだよ!」


まるですべてを拒むように、ミーシャは泣きながら叫ぶ。


「誰であっても、己の身を可愛いと思うのは当たり前ですわ。それを悪しく思う必要はありません」


「わかってるよ! だから……せめて、謝ろうって思って……あなたのことを追いかけたの。それで、あそこで……アルティアの部屋で話が聞こえて、本当は魔族だって知って……」


「驚いて、逃げてしまった、と?」


リーラリィネが改めて問うも、ミーシャは再び頭を横に振った。


「……安心、したんだよ」


「……え?」


「私が逃げたのは……見捨てたのは、人じゃないって。嘘つきの裏切り者だって……だから、私は悪くないんだって……そんな風に、思って。でも、アルティアはそれを責めないで、受け入れて……じゃあ、私はなんだろうって! そう、思ったら……自分がどうしようもなく、汚いヤツだって、思って!」


「ミィ……そんなことは」


「慰めたりしないで! 私はまた……こんな汚いことをしちゃったの。あの子の時だって、私は悪くないって……友だちを見捨てて! 今度こそはって思ったのに、結局こんな……」


ミーシャの脚から力が抜ける。


ガクンと体が落ちると、膝立ちの状態になった。


そうして、アルティアを見上げながらミーシャは言う。


「だから、こんなに汚い私はリーラリィネの友だちで……いちゃいけないのよ」


その直後、ミーシャは涙でぐちゃぐちゃになった顔を地面に向けた。


泣きながら、時折小さな嗚咽を響かせる。


ミーシャのその姿をリーラリィネはしばらく、立ち尽くしながら見つめていた。


だが、やがて彼女はミーシャのほうへと歩き出した。


「顔を上げなさい」


リーラリィネはミーシャに命令する。


だが、彼女は頭を上げることなく、なおも泣き続けていた。


「顔を上げなさい! ミーシャ・レコ!」


今度は先ほどよりもずっと強い口調で告げる。


その語気の強さに負けたのか、ミーシャはゆっくりと視線を上へ向けた。


そこには銀の髪と灰の肌、深紅の瞳をした少女が立っていた。

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