友だちではないと言われてしまいましたわ①
「すまない、失礼するよ……ああ、お前も見舞いに来ていたのか」
部屋に入ってきたのはミハイルだった。
「これは……ミハイル様! いったい、何の御用でしょうか?」
思いもよらない人物の姿を目にしたことで、わずかに動揺しながら尋ねるアルティア。
「いや、騒動の際に負傷した生徒たちの様子を見て回っているだけだ。アルティア嬢は……本当に無事で何よりだ」
一瞬、ミハイルは安堵と疑念が混ざったような表情を浮かべた。
だが、すぐに落ち着いた顔に戻り、2人に問いかける。
「ところで、先ほど扉の前に特待クラスの……ミーシャ、だったかな? 彼女が立っていたのだが、俺が声をかけると驚いてどこかに走っていってしまったんだが……何かあったのか?」
ミハイルの話にリーラリィネとアルティアは顔を見合わせる。
「いいえ、ミィは部屋には入ってきておりませんわ」
「そう……なのか? 声をかける前に、ずいぶんと深刻そうな顔をしていたんだが……」
「……あの子、ワタシたちの話を聞いていたんじゃない?」
アルティアの言葉に、リーラリィネがハッとする。
「まさか……ワタクシの?」
「アナタ、今すぐあの子を追いかけなさい! 本当に聞いていたとすれば、思いつめる可能性があるわよ。ミーシャは、本当にアナタを慕っているんだから!」
アルティアの提案に、リーラリィネはすぐに頷くと飛び出すように部屋の外へ向かう。
「なんだ? どういうことだ?」
「ミハイル様、これはあの2人の問題ですから……お気になさらないで」
「そ、そうか……まあ、個人の事情にまで首を突っ込む気はない」
そう言うと、ミハイルは一旦は口をつぐむ。
だが、すぐに別の話題を持ち出した。
「アルティア嬢、キミはリーラリィネとは親しい関係だね?」
「親しい……と言ってよいのでしょうか。ワタシはただ、彼女に借りを返したいだけですけれど」
「だが、学園のなかでの交流は多いだろう?」
「ええ、確かに……ルームメイトのミーシャを除けば、ワタシはもっとも近くにいたはずですが……それがなにか?」
アルティアの問いに、ミハイルは少しばかりためらいを見せる。
だが、それらを振り切るようにして尋ねた。
「キミはリーラリィネが何者なのかを……知っていたのかな?」
ミハイルの問いに、アルティアは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに平静を取り戻す。
「いいえ、ワタシは彼女が何者なのか知りませんでしたわ。先ほどまでは」
今度はミハイルのほうがアルティアの返答に驚いた様子を見せた。
直後、鋭い視線を向ける。
「では、知ったうえで……キミはどうするつもりかな?」
「どうするつもりもありません。お話したとおり、ワタシはリーラリィネに借りがあります。少なくとも、それらを返し終わるまで……彼女には学園にいてもらわなければ困りますから」
「そうか……なら、それでいい」
ミハイルは少し安堵したような表情を浮かべた。
そして、アルティアはそれを見逃さなかった。
「ミハイル様は、リーラリィネのことで一喜一憂なさりますのね。そのようなお顔、見たことがありませんでした」
「そんなことはない。だが……アイツのことで少し悩まされている部分はあるな。疲れているのかもしれん」
「別に責めているわけではありません。ただ、めずらしいと言うか……新鮮に感じられただけです」
アルティアはわずかに微笑む。
それに釣られたのか、ミハイルの顔もわずかに綻んだ。
「ああ、そうだわ。これは良い機会かもしれないわね。彼女からの借りを1つ、返してしまいましょうか」
突然、アルティアが呟いた内容にミハイルは首をかしげた。
「なんだ? どういうことだ?」
「ミハイル様、少し長くなってしまいますが、ワタシの話を聞いていただけますか?」
走り去ったというミーシャを追いかけたリーラリィネだったが、なかなかその姿を見つけることができなかった。
駆けていっただろう方向へ走っては、その場にいた人にミーシャのことを尋ねる。
そうしてようやく追いついたのは、学園の外れにある小さな庭園だった。
「やっと見つけましたわ、ミィ……アルティアの療養室までいらしていたのでしょう? どうして……部屋に入りませんでしたの?」
リーラリィネはゆっくりと問いかける。
だが、ミーシャは振り返らず、返事もしない。
「もしかして……ワタクシとアルティアの話を聞いていましたの?」
今度の質問に、ミーシャはわずかに肩をビクッとさせた。
「そう、でしたのね。聞いていましたの。ワタクシが……嘘をついていたことを」
「……うん」
すぐにでも消え入りそうな小さな声でミーシャが答えた。
「ワタクシが人族ではなく……魔族だと聞いて、それで逃げてしまいましたのね?」
「……そう、だよ」
「ごめんなさい……ミィはワタクシのお友だちなのに、ずっと嘘をついて……騙してしまって……」
リーラリィネは深々を頭を下げながら言う。
だが、ミーシャは振り返りながら、彼女の言葉を否定した。
「……友だち? 違うよ。私たちは、友だちなんかじゃないよ」
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