勝利を確信しておりますわ②

ファトゥナは少しずつ、アルティアとの距離を詰めてくる。


そこでアルティアは、即座に魔術式を展開した。


「火球(ファイヤーボール)!」


飛んできた火の玉に対し、アルティアもすぐに対応する。


「無駄よ! 石壁(ストーンウォール)!」


「な……魔術の展開中に、別の魔術を!」


「ふふふ、魔纏を使っている間なら、魔術が使えないとでも思った? 残念ながら、魔纏はあくまで纏わせる魔術なの。すでに効果を発動し終わっている魔術だから、ほかの魔術に干渉したりしないわ。見込み違いだったわね」


「ならッ!」


再び、アルティアは魔術式を書き始める。


すると、アルティアの身体全体が仄かに光り始めた。


「加速(アクセル)!」


アルティアの姿が消えた。


次の瞬間、彼女はファトゥナの右後方に現れ、剣を振り切る。


ギイィィィン!


凄まじい金属音が鳴り響いた。


「……ガガガアアアァァァ!!」


身体をのけぞらせ、叫び声をあげたのはアルティアだった。


「剣術で圧倒すればどうにかなると思った? たしかに、剣の腕前なら貴方に分があるかもしれないわ。でも、いまの私は別に剣術で勝つ必要なんてないのよ。ただ、貴方の剣を私の剣で受ければいい。それだけで、雷が貴方の体を貫くわ。かすった時とは比較にならないほど、強烈なヤツがね?」


痛みに耐えつつ、何とか後ろに飛びずさるアルティア。


彼女の目にはハッキリ焦りの色が浮かんでいた。


それを察したのか、ファトゥナは1つの提案を投げかけてきた。


「勝ち目のない戦い……まだ、続けるつもり? それよりも、貴方……もう一度私につかない? 正直、これほど強いとは思っていなかったのよ。あの平民女にコマを1つダメにされちゃったし……今度は取り巻きの1人じゃなく、ちゃ~んとお気に入りにしてあげるわ」


「それは……ずいぶんと甘いお話ね」


「あら? 私はいつだって甘い女よ? ただ、私に逆らうヤツが嫌いってだけ」


「あははっ! それはそうね……誰だってそうだわ」


ファトゥナの返事を聞き、アルティアは思わず笑ってしまった。


ファトゥナはそれを肯定と取り、アルティアに微笑みかける。


「ようやくわかったかしら? もちろん、私の下につくのだから、例の2人を叩くのにも協力なさいね。それが忠誠のためのケジメというものよ」


そう言いながらファトゥナは、会場の壁の上から、こちらを見つめていた人影に目を向ける。


堂々と仁王立ちしながら、凝視してくる影に対し、ファトゥナは忌々し気な顔をする。


が、次の瞬間、背後からイヤな気配を感じた。


ファトゥナがサッと体をどけると、先ほどまで立っていた場所にアルティアの斬撃が落ちてくる。


「貴方……まだ!」


「返事もしていないことを勝手に決めないでくれる? ワタシがいつ、アナタのコマになるなんて言ったのよ」


「そう……そんなに痛めつけられたいの。なら、お望み通り、二度と立ち上がれなくしてあげるわ!」


ファトゥナが改めて剣を構えた。


アルティアもそれに向き合うように立つ。


「自分に逆らう者は嫌いだし、実際に歯向かえば再起できないように叩きのめす。それが普通、当たり前。誰だってそうするし、ワタシだってそうするわ」


「は? 貴方、いったい何を言ってるの?」


「でも、そうしないヤツもいたなって話よ。多分、アナタもワタシもアイツには敵わないのよ。少なくとも、今はね」


「あいつ……? それはまさか、あの奴隷女の話かしら? 貴方、私があの女に劣ると言うつもり?」


「さあ、どうなのかしら。ただ、私はアナタのコマになるより、アイツの友だちになるほうがマシだと思うわ!」


「どこまでも……バカにしてぇぇぇ!!」


ファトゥナは魔術式を書き始める。


次々と襲い掛かる魔術をアルティアはどれも間一髪で避け続けた。


「さあ、さあぁ! どうするのかしら? このままジリジリ削られてお終い? それとも逆転を賭けて、また飛び込んでみる?」


容赦なく魔術を叩き込みながら、叫ぶように言い放つファトゥナ。


だが、追い込まれているはずのアルティアの目には一切の曇りがない。


「ええ、そうね。賭けるなら……剣が良いわ」


アルティアは剣を構える。


やや低めの、前かがみの姿勢にファトゥナも一瞬だけ逡巡してみせた。


だが、すぐに余裕の笑みを見せながら、バカにしたように言う。


「結局はソレしかないのね。愚鈍というのは、1つのことしかできない貴方にお似合いな言葉じゃないかしら! さあ、いらっしゃい。今度こそ、その澄ました顔を歪ませてやる!!」


その言葉に反応するように、アルティナは自らの脚に魔術式を刻み始めた。


「本当に! 同じことを繰り返すなんて、愚かすぎるわ! どれだけ駆け回ったところで、防御の瞬間を見逃すほど甘くはないわよ!」


「駆け回ったりしないわよ。アナタを倒すには、あと一歩で十分だもの!」


「なにを……っ!」


魔術式を書き終わったアルティナの脚から、碧色の光が放たれる。


「跳躍(スプリング)ッ!!」


叫ぶと同時に、アルティナは力いっぱいに地面を蹴り込み、その勢いに乗せて構えた剣を突き出した。


あまりの速さに、ファトゥナは全く反応できないまま、剣を持つ手を切り裂かれてしまう。


「……っくあぁぁ! 私の……手がぁぁ!!」


痛みのあまり悲鳴を上げるファトゥナ。


しかし、その一瞬の隙をアルティアは逃さない。


着地と同時にすぐさま振り返り、今度は剣をファトゥナの首元に突き付ける。


「ワタシの一撃、ちゃんと見えましたか……ファトゥナ様?」


「……こんなもので勝ったつもり? まだ、終わっては……っ!」


「1つ聞きたいんだけど、アナタの魔纏という業……自分の手から離れても効果は続くものなの?」


アルティアは地面に転がるファトゥナの剣を指さした。


「もし、アナタがたとえ手を貫かれようと剣を手放していなければ、ワタシの負けだったでしょうね。でも、アナタは放した……アナタご自慢の魔纏を使った剣を、ね」


「わかったような口を! うっ……」


「勝負はついたはずよ。まだ、奥の手でも残しているなら別だけど」


「……私の、負けよ」


この瞬間、見届けていた審判がアルティアの勝利を宣言した。


すると、会場はどよめきと歓声が入り混じった雰囲気に包まれる。


2人の立場を知る生徒たちの間には動揺が走り、何も知らない一般客は白熱した戦いを称えたのだ。


「アルティアーー!」


ボロボロになりながら武舞台を降りてきたアルティアの元に駆け付けたのは、リーラリィネだった。


「やはり、アルティアは強いですわ! まさか、あのような隠し玉まであるなんて……次に手合わせするのが、もっと楽しみになりましたわ!」


「いや、そんなこと言ってる場合? アナタ、どこかに連れ去られたって聞いたわよ? まあ、アナタに限って無様にやられるなんて思ってはいないけど」


「あら、ワタクシのことを心配してくださったのですね! そのうえ、信頼までしてくださるなんて! ええ、もちろんご期待通り、しっかりと話をつけて参りましたわ」


エッヘンと言わんばかりに胸を張るリーラリィネ。


すると、ところどころ焼け落ちた制服の隙間から、豊満な肉の塊が今にも零れ落ちそうになる。


「……どうでもいいけど、アナタはさっさと着替えるべきね」

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