勝利を確信しておりますわ①
それは、一方的すぎるヒドい試合だった。
ファトゥナが仕掛ける攻撃に対し、アルティアは避けたり守ったりするばかり。
反撃はなく、ひたすらアルティアの身体に傷が増え続けていく。
そんな戦いが、すでに1時間近く続いていた。
「あ~ら、どうしましたの? どうして反撃して来ないのかしら。もしかして、ビビッてしまいましたの?」
ファトゥナは嫌味な口調で挑発してくる。
それに対し、アルティアはただ睨みつけることで返事をする。
「おお、怖いこわい。まるで、魔獣のような恐ろしい目つきね。いっそ、貴方はそのまま魔の森の住人にでもなったらいいんじゃない? きっとお似合いよ!」
そう言いながら、ファトゥナは剣を振り下ろす。
アルティナは横に転がるように避けるものの、すぐさま次の斬撃が飛んできた。
剣で受けるも衝撃までは止められず、態勢を崩してしまう。
「さあ、そろそろ飽きたわ。これでトドメよ!」
「ははっ、ワタシが誰かのために負けるとか……どうしちゃったのかしら、ホント」
もはや防御するだけの気力もないのか、勝負が決まる瞬間を目を瞑って待つアルティア。
「アルティアァァぁぁぁぁ!!」
それは、天地をひっくり返したような轟音に思えた。
そのせいで、会場の全員――ファトゥナも含めて、動きを止めてしまう。
そして、音のもとを探そうとする。
すると、誰かが指をさした。
それは観覧席のもっとも外側、もっとも高い壁の上の人影だった。
「なにをしていますの! どうして素直に負けを認めていますの! ワタクシと、今度こそ全力で試合をするといったのは……アレはウソでしたの!」
状況を飲み込めずざわめく観客たち。
一方、その一部には違う意味で、その人影から目を離せなくなる者もいた。
なぜなら、その人影――リーラリィネの服がボロボロだったからだ。
本来なら厳粛な制服で隠れているはずの二の腕も、胸元も、太ももさえ露わな状態。
にもかかわらず、それを隠そうともせずに堂々と立っている女性が目の前に。
当然、男性からのいかがわしい視線は免れないが、彼女はまるで気にしない様子だ。
「まさかとは思いますが、ワタクシのことが気になって、試合に集中できない……などということは、ありませんわよね! このワタクシが何者かに誘拐されたとか、脅迫されたとか、そのようなことを考えていた……そのような言い訳をなさるつもりじゃございませんわよね!!」
「……ふっふっふ……あーはっはっはっは! そんなこと、あるわけないでしょ!」
リーラリィネの問いに、アルティアはハッキリと応えた。
「アナタがどうなろうと、ワタシの知ったことじゃないわ! それに、アナタをどうにかできるヤツなんて、ワタシには見当もつかないわ! もしいるのなら、ぜひお友だちになりたいくらいよ」
それまで膝をついていたアルティアが、力強く立ち上がる。
状況が飲み込めずに呆けていたファトゥナも、その動きに気づく。
「いまさら抵抗なんて、無意味なのよ!」
ガキンッ!!
ファトゥナが振り下ろした剣をアルティアは打ち返した。
「くっ! まだ、そんな力がっ!」
「まだ……じゃないわよ。ずっと残してたの。どうせ、アナタのことだから、ワタシのこともできる限り痛めつけようとするはず。だから、本当に大きなダメージになるような攻撃だけを避けて、傷だけが派手に見えるように斬らせていただけよ」
「はぁ!? ここで強がりを言ったところで、貴方の負けは変わらないのよ!」
ファトゥナは素早く魔術式を書く。
すると、彼女の前方に青白い閃光が集約し、雷の形を成した。
「雷撃(ライトニング)なら、必ず避けるわよ。それはあまりにも真っ直ぐに飛びすぎるわ」
「そうでしょうね。そうなるでしょう……でも、これは貴方に放つ魔術じゃない……わっ!!」
そう言うと、ファトゥナは発生した雷を手にした剣で両断。
同時に、空いている手で新しい魔術式を書いていく。
気づけば、宙に浮かんでいたはずの雷は消え、代わりに閃光を散らす剣が完成した。
「あの女が戻ってきたということは……あちらは失敗したのでしょう。ああ、本当に腹が立つわ! なにもかもが、思い通りにならないっ! だから、せめて貴方くらいには思い知らせなくては。身の程というものを!」
気迫とともに、ファトゥナは閃光を纏う剣を構えた。
アルティアはファトゥナの動きに警戒する。
向けられた剣先と、相手の動作に神経を研ぎ澄ませた。
だから、放たれた斬撃に対し、瞬時に反応してヒラリと回避できた……はずだった。
「……ぐぁぁああぁぁっ!!」
アルティアの全身に痛みが走る。
それは激痛と呼ぶほどのものではなかった。
しかし、アルティアにとって予想外の痛みだったため、思わず態勢を崩してしまう。
その隙をついて、ファトゥナの2撃目が飛んできた。
アルティアは何とか力を振り絞って、後方に逃れようとする。
「ぐううぅぅぅぅ!!」
今回も剣そのものには触れることなく、攻撃をかわしたはずだった。
ところが、やはり体全体に謎の痛みが湧いてくる。
理解できない痛みと、追い詰められる感覚で、アルティアの表情が曇った。
「そうそうそう! それよそれ! 貴方みたいな人にはそういう顔がお似合いよ。膝をつき、頭を垂れ、歯噛みしながら私を見上げなさい。この光景こそ、上に立つものが見るべきものなのよ!」
「それは、秘伝ね?」
アルティアの問いに、ファトゥナは嬉しそうに話し出す。
「さすがに知っているわね。そう、六大公爵家がそれぞれ受け継ぐ秘伝。我がシュトゥルハイム家が継ぐ『魔纏』の業よ。中でも私が得意で、大好きなのはコレ。たとえ斬撃そのものをかわしても、雷が敵に絡みつく……痛みはさほど強くないけれど、何度もなんども受け続ければ、やがて心のほうが折れるわ。さあ、貴方はいつまで我慢できるかしら?」
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