卑劣漢にはお仕置きですわ②
「……はぁぁぁあ!? なんでだ! お前、なんで生きてる……? なんで、無事なんだよ!」
グランツは先ほどの自信満々な態度から打って変わって、お化けにおびえる子供のように動揺する。
「けれど、安心いたしましたわ。もし、グランツ様の魔術がミハイル様と同じ解析(アナライズ)だったなら……ワタクシの立場はもっと苦しかったでしょうに」
(魔力の流れを見られてしまえば、ワタクシの力が魔術とは異なるものだと、すぐに看破されてしまいますものね)
リーラリィネの言葉を聞き、先ほどまでおびえた様子だったグランツが、再び怒りをあらわにした。
「ミハイルと同じだったら……だと? それじゃあまるで、俺よりミハイルのほうが優れているみたいじゃないか!」
「そのようなことは申しておりませんわ。でも……そうですわね。少なくともワタクシの場合、あの方のほうが苦戦するのは間違いないでしょう」
「この……、こんな奴隷女まで俺を、バカにするのか!? もういい! おい、お前! そのジジイを今すぐぶん殴れ! ボコボコにしろ! この女に、自分がいかに愚かなのかを思い知らせてやれ!」
叫ぶように指示を出すグランツ。
だが、それに応じる者はいなかった。
「どうした!? なにやってる! 聞こえないのか、この筋肉ダルマ!」
「何を言っても無駄ですわ。あの方たちはみな、気を失っていただきましたから」
闘技場に入るにあたり、一緒に入り客席で待機していた男たちは全員うつむいたまま、動かなくなっていた。
「お前……なにかしたのか? いや、何をしたんだよ!」
「残念ながら、ワタクシはグランツ様のように自分の手札を自ら開示することはいたしませんわ。ちゃんと『見る目』をお持ちでしたら、きっと気づけたでしょうに」
「くそっ! ならもう一発……がはっ!?」
グランツが行動を起こすよりも早く、リーラリィネは彼の腕を捻り上げ、地面に押さえつけた。
「いくら瞬時に魔術を使えるとしても、相手とこうも密着していては使えないのではありませんか? もちろん、グランツ様がワタクシと一緒に焼かれてくださる気があるなら別ですが。一度目で焼き切れなかったワタクシと一緒に、ね?」
笑いながら言い放つリーラリィネだったが、その語気は恐ろしく冷たい。
リーラリィネに後ろ手を捻られたため、地面から起き上がれないグランツ。
もはや抵抗の術はない……はずだが、それでもなお彼の怒りは燃え続ける。
「クソがぁぁぁ!! 俺は負けないんだよ、負けちゃいけないんだ! お前にも、ミハイルにも、誰にも!! 負けるくらいなら、死んだほうがマシだぁぁ!!」
グランツの瞳に再び光が浮かび上がる。
それを見て、リーラリィネは少しだけ驚いた顔を見せた。
「本気、ですの?」
「本気に決まってんだろぉが! 燃えて、燃えて、燃え尽きろ! 煉獄大渦(インフェルノ・ヴォルテクス)!」
2人の周りに、先ほどと同じ炎の渦が巻き起こる。
囲い込むように渦巻くその炎はジリジリと、2人のほうへと迫ってきた。
「さあ……さあ! もう逃げ場はないぞ! 今度こそ灰になっちまえ!!」
グランツの叫びと、燃え盛る炎の音が闘技場に響き渡る。
そんな中、リーラリィネは微笑みながら呟いた。
「正直、ここまでの覚悟があるとは思わなかったな。テメエ、いい度胸してるじゃないか。死なせちまうには惜しいくらいに」
急に口調が変わったリーラリィネに、グランツは一瞬ギョッとしてしまう。
だが、次の瞬間にはさらに驚くことが起こった。
炎の渦が消え去ったからだ。
正確には、グランツの魔法は一刀両断された。
形が崩れた渦は、そのまま霧散し、闘技場は静寂に包まれる。
「……へ? なんだ……なんで、消えた? こいつが腕を振ったら、そしたら魔法が……斬れて。そんな、バカな」
呆けるグランツの襟首をつかみ、リーラリィネは静かに言う。
「アタシと闘いたいなら、いつでも挑んで来い。だが、卑怯な真似はするな! 命を賭けても、譲れないもんがあるならな」
決して怒鳴るような大きな声ではなかった。
だが、グランツにはその言葉が、鋭い剣のように突き刺さった感覚があった。
結果、彼はその場にへたり込み、微動だにしなくなってしまう。
リーラリィネはそのまま、ツォンのもとへ駆け寄った。
「大丈夫でございますか、ツォンお爺様。ごめんなさい、ワタクシのせいでこんなことに……」
「ほっほっほ! ちょいと腰が痛いだけじゃよ、いつも通りにの。むしろ、ワシが捕まっちまったから、お前さんを危ない目に遭わせた。年寄りが若いもんの足を引っ張るなんぞ、いたたまれんよ」
「そのようなことは……」
「もういいんじゃよ。それより、お前さんのお友だちは大丈夫かね? あの時別れて、どこかに向かったようじゃったが」
「そうでしたわ! ミィ、それにアルティア!」
2人の置かれてい状況を察して、ツォンと一緒に賭場から出ていくリーラリィネ。
途中、番人のような2人の男たちと再度顔を合わせることになったが、彼らは何も言わずリーラリィネたちを通した。
通りに出ると、リーラリィネはツォンと別れ、急いで学園へと戻っていったのだった。
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