思わぬ再会となりましたわ
選抜戦2日目。
リーラリィネ、ミーシャ、アルティアの3人は第2戦および第3戦を難なく終えていた。
「どうやら、今日のところはもう何も仕掛けてくる気はないみたいね」
「昨日、気合を入れたのに……ちょっと拍子抜け、かな?」
ミーシャとアルティアはどこか安心した様子だった。
ところが、リーラリィネは少し神妙な面持ちをしていた。
「けれど、アルティア様……次のお相手はファトゥナ様ご自身でしたわね」
「え、そうなの?」
ミーシャが驚くが、アルティアはすました顔で返す。
「直接戦うなら、何の問題もないわ。それこそ、どちらが相手を黙らせるか……という話でしかないもの」
「直接戦うからといって、相手が正々堂々とした態度で臨むとは限らないでしょう」
「だとしても。今のところ、相手が何かを仕掛けてきたわけでもないし、何をしてくるかもわからないわ。だったら、こっちにできるのは負けないように集中することだけだわ」
アルティアの言葉に、リーラリィネは強くうなずく。
「さすがですわ。アルティア様と知り合えたこと……そのきっかけを作ってくださったことについては、ファトゥナ様に感謝しなければいけませんね」
「……そう思うなら、『様』で呼ぶの、やめてくれないかしら」
アルティアの提案に不思議そうな顔をするリーラリィネ。
それを見て、アルティアはふてくされた様子で言葉を続ける。
「そもそも、ワタシはアナタに負けてるわけだし。敬称で呼ぶのは変でしょ。というか、アナタに『アルティア様』って呼ばれていると、なんか馬鹿にされている気分になるわ」
「別に、ワタクシはアルティア様を馬鹿になどしておりませんが」
「そんなことはわかってるわよ! 要するに、こっちの気持ちの問題っ! いつまでも他人行儀にしないでほしいってこと……わかる?」
「では、なんとお呼びすれば……」
「普通にアルティアって呼べばいいのよ、『様』なんて付けずに」
「では、今後はそのように呼びましょう……アルティア」
「それでいいのわ」
返事をしながら視線をそらしたアルティアの顔は、どこか赤らんで見えた。
「はぁ……負けました。というか、無理ですよ、あんなの」
3人のなかで最初に4回戦の順番が回ってきたのはミーシャだった。
そして、その相手は生徒会長のミハイルであり、まったく歯が立たずに破れたのだ。
落ち込むミーシャを労いながら、リーラリィネは彼女と一緒に演習場外れの庭園を歩いていた。
「さすがは『もっとも次の勇者に近い』と言われる方でしたわね。ミーシャが手も足もでないなんて」
「そうなんだよ。あの人、こっち魔術を使おうとするタイミングを的確に押さえてくるの! 私、人の可愛い子たちはすごくすご〜く早いはずなんだけど……流石に書き出しをすぐ邪魔されたらどうにもならなくて。でも、おかげでリリィちゃんと戦わなくて済んだのはちょっと安心かも」
ミーシャの言葉に、リーラリィネの表情が曇る。
「ミィ、以前にも言ったけれど……そこに遠慮を持ち込まないでいただきたいですわ。そういうには、ワタクシちっとも嬉しくございませんもの」
「あ、別にそういう意味じゃないよ。もし本当に試合をしないといけなかったなら、全力でやってた! でも、やっぱりリリィちゃんが傷つくようなことをしたくないのも本音だから……そういう意味でホッとしたっていうか」
「それを聞いて安心しましたわ。では、それはまた別の機会にとっておきましょう。学園生活の楽しみが1つ増えたということで」
リーラリィネがそう言ってにっこり笑うと、ミーシャもつられて顔がほころんだ。
「さて、もう少ししましたらアルティアの試合時間ですわね。それそろ演習場に戻りましょうか」
そう言って、リーラリィネが立ち上がった時、正面から数人の人影が近づいてきていることに気づいた。
彼らはゆっくりと、けれども確実にリーラリィネたちのほうへと歩いてくる。
そして、お互いの顔が見えるところまで来ると、その中の1人が声を荒らげた。
「ひさしぶりだな、奴隷オンナ! この前の借りを返しに来たぞ!」
ミーシャはいったい何者なのかがわからず困惑した様子だったが、リーラリィネにはその姿に見覚えがあった。
「貴方はたしか……グランツ様、でしたかしら」
「そうだ、俺はグランツ・ド・ローゼンハイムだ! よく覚えていたな、それだけは褒めてやるぞ、奴隷オンナ」
ニヤニヤとして嫌な笑い方をするグランツ。
彼が連れている仲間と思しき連中も、どこか薄ら笑いを浮かべていた。
その不気味さに怯えつつ、ミーシャはリーラリィネに問いかける。
「ねぇ、リリィちゃん……あの人、ローゼンハイムって言ったけど、もしかして生徒会長の?」
「そう、弟君ですわ。そして、ワタクシが入学試験の日に思い切りぶっ飛ばした相手でもございます」
「え……えぇ!? ぶっ飛ばしたって……相手は六大公爵家の人だよ?」
「その時はあの方の素性をよく理解しておりませんでしたので。とはいえ、理解していたとしても、あの状況ではぶっ飛ばしていたと思いますわ」
ミーシャとリーラリィネの会話を聞いたグランツ。
先ほどとは打って変わって額に血管が浮き出すほどの怒りに満ちた表情になる。
「六大公爵家を、ローゼンハイムの名を聞いてなお、俺をあんな目に遭わせておいて……理解していなかっただと!? よくも、そんなとぼけたことが言えたなぁ……あぁ!!」
「とぼけてなどおりませんわ。実際、あの時点でワタクシは家名の持つ意味やその由来などをまったく知りませんでした」
「そういえば許されるとでも思ってるのか!? ……まぁいいさ。そっちがそういうふざけた態度でいるっていうなら、手加減なくやれるってもんさ」
「あの時の復讐というのなら、それはそれでかまいませんわ。後ろの方々は助力なさるのですか? 別に、1対多数でもワタクシは気にいたしませんから、どうぞかかっておいでなさい」
リーラリィネは右手をクイックイッと扇ぐように動かし、軽く挑発してみせる。
だが、相手方の誰1人として動こうとするものはいなかった。
「勘違いするなよ。誰がこんなところで暴れたりするか……ただでさえ、あの時の一見で父上から謹慎を食らってたんだ。これ以上、悪目立ちできるか。もっと別の、誰にも見られない場所で、徹底的にやってやるぞ。そのための招待状も連れてきているんだ」
グランツはそういうと、指を鳴らす。
すると、彼の後ろにいた男たちの間から小さな人影が現れた。
その顔を見て、リーラリィネの顔から余裕の色が消える。
「どうして、ツェンお爺様がここにいらっしゃいますの?」
リーラリィネの動揺を察知してか、グランツは嬉しそうに語り始める。
「そりゃあ、お前の身内だからだよ。いや、最初は焦ったぜ? なにせ、お前がどこの人間なのか、何者なのかさっぱりわからなかったんだから。でも、俺に協力してくれるってヤツが教えてくれたのさ。お前がこの街で、家無しとして生きてたってな。だから、手当り次第に締め上げてったら、この汚ぇジジイを見つけたってわけだ」
「す……すまない、リーの嬢ちゃん。逃げようにも、ワシは腰が悪くて……」
「ええ、存じております。むしろ、こちらこそ巻き込んでしまって、申し訳ありません」
落ち込むツェンに対し、リーラリィネは深々と頭を下げる。
「さあ、どうする? 俺についてくるっていうなら、このジジイには何もしないぞ。ただし、断ったらお前の代わりにコイツで鬱憤を晴らさせてもらう。な〜に、家無し1人いなくなったところで、誰も気にしやしないだろうよ!」
「どこへなりと案内なさい。ただし、その方を傷つけたなら、絶対に許しませんわ」
下げていた頭をゆっくりと上げたリーラリィネの表情は、氷のように冷めたものになっている。
だが、その瞳には目の前の相手を焼き尽くさんばかりの怒りの炎が宿っていた。
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