選抜戦に黒い影が見えますわ①

勇者学園の選抜戦は3日間で行われる。


生徒全員の勝ち残り戦であるため、膨大な数の試合が行われるためである。


1日目は全生徒の初戦、2日目に2~4回戦が消化される。


そして、3日目で決勝戦までを終わらせるという予定である。


そこで、1回戦を勝利したリーラリィネ、ミーシャは昼食を取ることにした。


「私、ちょっと頭に来ちゃって……やりすぎちゃったかもなぁ」


「ふふふ、ミィが本気で戦うところは初めて観ましたけれど、なかなかカッコよかったですわ」


「え~! そこは可愛かったって言ってよ……みんなにも頑張ってもらったんだから」


「そうでしたわね。戦うミィもとても可愛いかったですわ」


「ありがとう! でも、やっぱりリリィちゃんには敵わないよ」


「はぁ……。何を女同士でイチャついているのよ」


そこに割り込んできたのはアルティアだった。


「……せっかくリリィちゃんと楽しくおしゃべりしていたのに、邪魔しないでほしいな。ケガしてるんだから、治療室で休んでればいいのに」


「あいにく、勇者学院の治療室は優秀な人材ばかりだから、あの程度の傷はすぐに治してもらえるわ。だから、アナタも安心して負けちゃっていいのよ?」


アルティアの返しに、舌を出して応戦するミーシャ。


「全員が無事に1回戦を抜けられてよかったですわ。お互いの健闘を称えましょう」


「言ってる場合? こうやって勝ち続けていけば、いずれこの3人がかち合う可能性もあるんだけど……まあ、ワタシはどちらが相手でも叩きのめすだけだけどね」


アルティアはそう言うと、リーラリィネの前に置かれていた果物を摘み、そのまま口に放り込んだ。


「そうですわね。ワタクシとしても、アルティア様とは改めて、全力で手合わせするというのは面白そうだと思いますわ。そして、ミィ。ワタクシは貴方とも力比べをしてみたいと思っているのだけど……?」


ニッコリと笑いながら、ミィに問いかけるリーラリィネ。


だが、ミーシャの返答はどこか歯切れの悪いものだった。


「私は……リリィちゃんとはあんまり戦いたくない、かな」


「それは……どうして?」


「だって、リリィちゃんは友だちだし! 友だちを傷つけるなんて、そんなのおかしいっていうか。可愛いリリィちゃんをケガさせるなんてイヤっていうか」


「あら、ミィはワタクシに勝てると思っているのね?」


「え、ち……ちがうよ! 私なんかじゃリリィちゃんに敵うわけないよ! そうじゃなくて私の気持ちの問題というかなんというか」


「ふふふ。何も慌てる必要はないのよ。ミィがワタクシに勝てるなら、それは素晴らしいことでしょう。もちろん、ワタクシだって負ける気などありませんけれど。もしミィが本当にワタクシを友だちだと思っているのなら、相対する時には全力でお願いしますわ。それこそが、ワタクシへの友情の証と考えてもらえないかしら」


少しだけ戸惑った表情をするミーシャだったが、すぐに力強くうなづいた。


「うん! リリィちゃんが望むなら、全力で戦う!」


「なら、ワタシとも本気でやってね……ミィ?」


アルティアが2人の会話に割って入ってくる。


「はぁ……!? やめてよ、それ! 私をミィって呼んでいいのは、リリィちゃん……友だちだけなんだから!」


「別にいいじゃない、減るものじゃあるまいし。み・い・ちゃ・ん?」


「やめてってば!」


繰り返し冷やかし続けるアルティアに対し、ミーシャは顔を真っ赤にしながら怒る。


そんな2人を眺めながらお茶を一口飲んでから、リーラリィネは静かに口を開いた。


「ただ、それもこれも何事もなく選抜戦が進めば……のことですわ」


彼女の言葉にミーシャはキョトンとした表情を浮かべ、アルティアは険しい顔をした。


「ファトゥナ様の件よね?」


「あの方は何者なのでしょうか?」


「ファトゥナ・リ・シュトゥルハイム様は六大公爵たるシュトゥルハイム家の長女よ。現当主の父親には男児がいないから、次期当主の筆頭……と言われているわ」


「と、言われているって……どう聞いても他にいない感じだけど?」


アルティアの説明に疑問を投げかけたのは、ミーシャだった。


「当主としての資質を問う声が家臣や領民から出てきているのよ。地元では『猟奇姫』なんて二つ名で呼ばれることもあるらしいのよ。あ、でも絶対に本人の前で呼んだらダメ。以前、社交界で対立していた令嬢がからかい半分で呼んだら、3日後に暴漢に襲われて二度と外に出てこれない姿になった……なんて噂を聞いたことがあるわ」


ブルッと肩を震わせるミーシャ。


しかし、リーラリィネはさらに問いただす。


「それだけではありませんわよね。ファトゥナ様はおそらく選抜戦で何らかの工作をされているのではありませんか?」


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