【幕間②】友だちの友だちとは友だちになれない?
「私は……あなたのことが嫌いです」
ミーシャは自分の敵意を素直に口にする。
だが、言われた当人――アルティアはまったく気にしていない様子だ。
「別にアナタなんかに好かれようだなんて思ってもいないわ。というか、そもそも興味すらないわよ」
「じゃあ、なんで声をかけてきたの!」
「邪魔だから」
「はぁ!?」
ミーシャは目を見開きながら、大きな声で叫んだ。
「ちょっと……あまり大きな声を出さないでくれない? アナタみたいな人と一緒にいるところを見られるの、気分がよくないのよ」
「だから……そんなこと言うくらいなら話しかけないでよ!」
「仕方ないでしょう、リーラリィネの居場所を知っていそうなのはアナタくらいしかいないんだから」
「なら、始めからそう言えばいいじゃん! それなのに人を邪魔者扱いして」
「実際に邪魔だわ。ワタシはリーラリィネに用があるだけなのに……なんでわざわざ平民のアナタを介さないといけないのか……はぁ」
大きなため息を吐くアルティア。
その視線はまさしくミーシャを見下したものだった。
「そう……すっかり忘れていたけれど、アナタは平民なのよね。本来なら、ワタシに声をかけることさえ許されないし、まして『嫌い』などと侮辱することは万死に値するはずなんだけど……わかっているのかしら?」
「そんなの……わかってるよ。でも、リリィちゃんにひどいことしようとした人に、敬意を払いたくなんてない」
「リリィ……ね。アナタ、ずいぶんとリーラリィネを慕っているようだけど、アレはアナタなんかが仲良くできる器じゃないわよ? どう考えたってイカレてるわ。多分、関わると破滅するようなタイプじゃないかしら。それを……わかっているの?」
「そんなこと言って、あなただって関わろうとしているじゃない」
ミーシャはアルティアに対して一歩踏み込みながら、強い口調で反論する。
だが、アルティアは一歩も引かず、淡々と応じた。
「仮にロクでもないことに巻き込まれるとしても、借りを返さず逃げるほど恥知らずではいられないだけよ。それさえ返せば、誰があんなものと関わるものですか」
「……ウソ」
アルティアの悪態をハッキリと否定するミーシャ。
「平民というのは、他人の言葉をむやみに否定することが……どれだけ失礼なのかもわからないのかしら? それとも、嘘を見破る魔術が扱えるとでも?」
「私はそんな可愛くない魔術は使えないよ。でも、アナタの言っていることがウソなのはわかる」
「では、何を根拠にそんなことを? 理由もなくワタシを侮蔑したのなら、さすがに黙ってはいられないわよ」
アルティアの言葉は、静かではあったものの、それまでとは違って明らかに怒りをはらんでいた。
ミーシャの返答次第では、本気で「何か」をしようと思っているのがハッキリと伝わってくるほどに。
だが、ミーシャはひるまない。
なぜなら、彼女には確信があったから……そして、それをまっすぐ言葉にした。
「だって、リリィちゃんは可愛いもの!」
「……なん、ですって?」
「リリィちゃんは可愛いの! 誰よりも可愛い……リリィちゃんを見て、心を奪われない人なんていないわ。どこにいても、誰が相手でも、絶対に注目を浴びてしまうくらいの……最高の可愛らしさ! そんなリリィちゃんだから、あなただって一緒にいたいんでしょ? でも、ダメだから。リリィちゃんの一番の友だちは私だもん! リリィちゃんは優しいから、あなたとも仲良くしようとしてるみたいだけど……勘違いしたら、ダメなんだから!」
凄まじい剣幕と、恐ろしい早口でまくしたてられ、アルティアは呆気にとられてしまう。
「それが、ワタシがウソをついていると言った理由……だと?」
「そうだよ。あなたはリリィちゃんと仲良くなりたいくせに、『仕方なく付き合ってるだけ』みたいに言って、まるでリリィちゃんのほうから関わってるみたいなフリして……! でも、本当はアナタがリリィちゃんの友だちになりたいだけって、わかってるからね」
「……はぁ。なんかもう、ちょっとバカバカしくて話になりませんわ。リーラリィネの居場所だけ、さっさと教えなさい」
アルティアは疲れた様子で聞く。
だが、ミーシャはイヤそうな顔でジッと見つめるばかりだ。
「ああ、もう! 例の特訓の件で伝えておかないといけないことがあるの! 聞いておかないと困るのは彼女のほうなんだから、居場所を教えて」
「……第三演習場にいると思うよ。あそこは教室棟から距離があって、あまり人がいないって先生たちに教わって、私が勧めたから」
「わかった。とりあえず見に行ってみるわ」
それだけ言うと、アルティアはミーシャの元から立ち去った。
「ワタシが……リーラリィネと友だちになりたい? そんなバカなこと」
アルティアの独り言は、ミーシャの言葉をくだらない戯言だと打ち消そうとして出てきたものだった。
だが……。
「友だち……」
思いのほか響きの良い単語に、わずかに口元がゆるむ。
が、すぐに頭を振って余計な考えを払いのけ、改めて第三演習場へと歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます