選抜戦の対策会議ですわ

「リリィちゃんはちょっと甘すぎると思うよ」


そう言うと、ミーシャはテーブルの上のイチゴをほおばった。


お昼過ぎの食堂は、昼食を終えた生徒たちが少しずつ席を立っていく姿が目立つ。


だが、食事を終えてからも談笑する生徒もいる。


今日はリーラリィネもそのなかの1人だった。


「別に甘くはありませんわ。ただ、約束を守っただけでしょう?」


「そもそも、自分をイジメてた人を懲らしめるって話だったのに……結局は生徒会長さんの気持ちを聞かせて、恋の応援までするって。そんなことする必要あったの? あんな人を平気で見下す高飛車で傲慢なくせに、勘違いで他人をイジメる陰険で卑怯なうえ、実は好きな人には何も言えないよわむし毛虫な人……放っておけばいいのに」


「……よくもまあ、本人を前にしてそこまで罵詈雑言を並べられるわね」


2つ目のイチゴを口に放り込んだミーシャを、アルティアが冷ややかな目でにらみつける。


だが、その視線に怯むことなく、ミーシャは言葉を続けた。


「リリィちゃんが許したって、私は絶対に許さないよ。友だちに悪さをしたヤツと仲良くなんてできないもん!」


「ワタシだって別に、アナタみたいな平民に許されたいなんて思わないわ。そもそも、ここにいるのだって半分は無理やり付き合わされているようなものだし」


「ウソつき! リリィちゃんに負けたのが周りに知られて、取り巻きが離れちゃっただけでしょ? 寂しいからってリリィちゃんに頼ろうとしてるの見え見えだから」


「仮にそうだったとして、それがアナタになんの関係があるのかしら? リーラリィネに腰ぎんちゃくみたいにくっついて、自分も強くなったと勘違いしているんじゃない? あぁ、恥ずかしい」


「な……!? なによ、それ!」


バンッとテーブルを叩きながら、勢いよく立ち上がるミーシャ。


アルティアはどこ吹く風といった表情で、静かにお茶を飲む。


「おやめなさい」


一触即発といった雰囲気のなか、リーラリィネは静かに言う。


「アルティア様、ミィはワタクシを大切に思ってくださっているだけ。ワタクシにとって、この学園で最初の大切なお友だちですから、あまり悪く言わないでいただきたいですわ」


「……わかったわよ」


「ミィも……ワタクシのために怒るのは嬉しいけれど、アルティア様とはもう何の確執もありませんから、そこはわかってほしいですわ。仲良く……とまでは言いませんけれど、無暗に争わないでくださいませ」


「リリィちゃんがそう言うなら……うん」


リーラリィネが注意したことで、2人はとりあえず落ち着く。


ただし、お互いに向ける視線には、まだ敵意が残っていたが。


「それよりも、ただお茶をするために呼ばれたわけではないわよね?」


「ええ、ちょっと相談事がありまして」


「リリィちゃんが相談? なんか、めずらしい……というか、初めてかも。それって私がリリィちゃんの助けになれるってこと?」


ミーシャがいつになく目を輝かせている。


「ええ、ワタクシとしてはミィが助けになってくださると期待していますわ」


「わぁ……友だちに、リリィちゃんに頼られるなんて、ちょっと感動かも」


「とりあえず具体的な話を聞かせてくれない? 無駄話だけなら、ワタシは帰らせてもらうけど」


ミーシャとは逆に、やや不機嫌に言い放つアルティア。


「そうですわね。今回、相談したいことというのは、選抜戦に関することですわ」


「えーっと……たしか、生徒全員で1対1の勝ち抜き戦をやるっていう……」


「勇者学園最大の催しね。まあ、入学1年目で結果を出す人間はそう多くないらしいから、気負っても仕方がない……とはいっても、アナタなら問題ないでしょう? 相談するようなことがあるの?」


アルティアの皮肉めいた言い方に、ミーシャは渋い顔をする。


ただ、彼女の言っていることも理解できたので、同じように問いただそうとする。


「たしかに……リリィちゃんくらい強かったら、悩むようなことはないと思うけど」


「それが問題大アリでございまして」


「ふ〜ん……で、何が問題なの?」


ゆっくりとティーカップを口元に近づけながら、伺うような視線を向けるアルティア。


ミーシャは、友だちの新しい一面が見れるのではないかと、興味津々の様子だ。


そんな2人に対し、リーラリィネは正直に応じる。


「問題はワタクシが魔術を使えないということですわ」


「「……はぁ!?」」


さっきまでいがみ合っていたミーシャとアルティアだが、このときばかりは声をハモらせてしまった。


「ど、どういうこと? 魔術が、って……じゃあなんで、ここに入学できたのよ!?」


「そうだよ、リリィちゃん! 私、何度かリリィちゃんが魔術を使ってるところを見たよ?」


「あまり大きな声を出さないでくださいませ。ワタクシは2人を信用して相談しているのですわ。ほかの方の耳に入るのは困ってしまいます」


リーラリィネは落ち着いた様子で、驚きのあまり立ち上がっていた2人に、改めて席に座るよう促した。


「ワタクシがミィに見せた力は、魔術とはまた別のものですわ。入学試験も、その力を使ったのですわ。まあ、ワタクシの力の正体を学園側も魔術と勘違いしていたらしいですけれど」


「あのとき、生徒会室の前で何やら魔術がどうのって話をしていたのが微かに聞こえていたけど……この話をしていたわけ?」


「そうですわね。どうもミハイル様たちは、ワタクシの力に興味があるようでした。それで、いろいろとお話をする機会があるわけですわ」


アルティアはこの話を聞いて、ようやく合点がいったという表情だ。


対象的に、ミーシャはひどく険しい顔をしている。


「それって……嘘をついて入学してきたってことなの? リリィちゃん、それってすごくマズいよね?」


「そうですわね。もし魔術が使えないことが周囲に知られれば、退学になるだろうと聞いていますわ」


「……イヤだ。私、リリィちゃんがいなくなるなんて、絶対に嫌だよ!」


「ええ、ワタクシも学園を追い出されるのは望むところではありませんわ。だからこそ、ミィとアルティア様の力を借りたいと思っていますの」


「うん! 私にできることなら、なんでもするよ!」


ミーシャはさきほどよりも、さらに前のめりで返答する。


「それはいいけど……具体的には何をするのよ?」


「ワタクシが魔術を使えるようにしていただきたいのですわ」


リーラリィネの願いに、アルティアは大きなため息を吐いた。


「あのね……前にも言ったけど、魔術が使えるかどうかは才能なのよ。使えない者はどれだけ努力しても使えないの。わかる?」


「ちょっと! わざわざリリィちゃんがお願いしているのに、そんな言い方……」


悪態をつくアルティアに、ミーシャは反論しようとしたが、リーラリィネはそれを遮って改めて話しはじめた。


「少し言い方が悪かったですわね。正確には、ワタクシが魔術を使っていると思わせること……そのための協力をお願いしたいのですわ」

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