イジメの犯人を懲らしめますわ②
「勝手なことをペラペラと……なんの根拠もないことをよくもまぁ、好き放題言ってくれるわね!」
「ええ、根拠なんてありませんわ。けれど……図星でしょう?」
苦々しく睨むアルティアと余裕の笑みを浮かべるリーラリィネ。
その様子にアルティアの取り巻きたちは、不安な表情を浮かべる。
それを察してか、アルティアは今一度、見下したような視線でリーラリィネと向き合う。
「そうやって嘘を吹聴するのがお好きなようね。誰がアナタのような虫けらの如き存在を羨ましがったりするものですか! ワタシはただ、目障りなハエを追い払いたいだけよ」
「あら、アルティア様は目障りな虫を退治するのに、わざわざ挑発したり罠を仕掛けたりなさるのですか……それはまた随分とお暇なのですね。けれど、そんな手間などかけず虫を追い払う良い方法がございます」
「なんです……って?」
アルティアの返事が終わる前に、リーラリィネは彼女の耳元で囁いた。
「正面から叩き潰せばよろしいですわ」
その言葉に、これまで以上の鋭さで睨み返すアルティア。
リーラリィネは一歩下がり、親指で自らを指しながら改めて言う。
「アタシが目障りなら初めから堂々と潰しに来いって言ってんだよ。無理だっていうなら、黙って爪でも噛んでろ、弱虫オンナ……! ですわ」
「なんて口汚い言葉を使うのかしら……品性を疑うわ! この……」
「これからも虫けらと戯れたいならご自由に。そういうご趣味があるのだと、皆さんに見せびらかすとよろしいでしょう。それとも、虫をちゃんと潰せる力があるとここで証明してみせますか、アルティア・さ・ま」
「……安い挑発だこと」
「そう思うなら無視なさいます?」
「そう思うから買ってやるわよ。ワタシと決闘なさい、リーラリィネ!」
勇者学園にはいくつかの訓練場がある。そのうちの1つに、リーラリィネとミーシャ、そしてアルティアの姿があった。
「取り巻きの方々はいらっしゃいませんでしたね」
「ついてくるな、と申し付けただけよ。これから起こることは、彼女たちには少し刺激が強すぎるでしょうから。さあ、模擬剣は持ったわね?」
リーラリィネとミンティアの手には、それぞれ木製の剣が握られていた。
「アナタ、どうして勇者学園の入学試験が魔術に関するものだけなのか、知っているかしら? それは、魔術が才能のない者には決して扱えないからよ」
アルティアがリーラリィネに人差し指を向ける。
すると、指先がほのかに光り出し、その軌跡をつかって何かを書き連ねていく。
「魔術式を書くための光点を発揮できるかどうか、魔術式に注ぐだけの魔力を持っているかどうか……これは生まれながらの特性よ。これが出来ないものは、いくら望んでも魔術は使えない」
アルティアの書いた魔術式が大きく光り出す。
直後、彼女の正面に大きな風が吹く。
そして、それはリーラリィネへと向かっていき、彼女の顔を掠める。
パラリと、数本の髪がせつだんされ、地面に落ちた。
「だから、勇者学園ではまず、魔術の才能の有無を調べるのよ。まあ、合理的だと思うわ」
「興味深いお話ではありますが、それとこの決闘と……何か関係があるのでしょうか?」
「逆に言えば、それ以外の能力は『後から身につければいい』という方針なのよ。例えば、剣術とかね?」
アルティアは手にした模擬剣を構える。
「パームグラフは代々武門の血統よ。女であっても、剣術や槍術、馬術まで仕込まれるのよ。生まれながらの才能だけで入学してきたこと……後悔させてあげるわ」
「承知しましたわ。では、ワタクシも全力をもってお相手いたします!」
リーラリィネはしっかりと剣を両手で握る。
その姿に、アルティアは驚く。
「アナタ……剣術の心得はあるの?」
「どういう意味でしょうか……何かおかしなところでも?」
「おかしなところはないわ。ここで教える『基礎剣術』としてはね! まさかとは思うけど、ここに入学するまで剣を……」
「ええ、この学園で初めて剣を習いましたわ」
カンッッッ!!
リーラリィネが答えた直後、アルティアの剣が振り下ろされた。
だが、それをすれすれでリーラリィネは防いだ。
「バカにするのも大概にしなさいよ、この奴隷がっ! その程度で……そんな舐めた覚悟で、ワタシの前に立つんじゃないわ!!」
アルティアは防がれた剣をすぐに戻すと、今度は左の胴を狙った一撃を放つ。
リーラリィネはこれも、たどたどしい動きながら防いでみせた。
「数回習った程度で使えるほど、剣の道は甘くないわ。ワタシは何年も、血が滲むような訓練を重ねてきた……それを馬鹿にしたこと、死ぬほど悔やみなさい!」
アルティアは手を休めることなく、リーラリィネに向かって剣を打ち込み続ける。
それに比べ、リーラリィネは一度として打ち返すことができず、形勢は完全に決まっている……かのように見えた。
ところが、アルティアの攻撃は当たらない。
リーラリィネの剣術は素人に毛が生えた程度のものであるにもかかわらず、なぜかギリギリのところでアルティアの打ち込みをすべて防いでいたのだ。
「なんで! なんで当たらないの? 隙だらけのはずなのに、どうして!?」
崩れないリーラリィネの防御にますます苛立つアルティア。
しびれを切らしたのか、大上段からの振りかぶった一撃で勝負を決めにいく。
「はああああぁぁぁぁっ!」
凄まじい気勢を放つアルティア。
だが、その渾身の一撃もリーラリィネはギリギリのところで防いでみせる。
「くっ……!」
しかし、強力な剣撃を受けたことで、一瞬の隙が生まれた。
「脇がガラ空きよ!!」
ドカッ!!
アルティアは剣を下げると同時に、リーラリィネの脇腹に回し蹴りを入れる。
無防備になった胴に蹴りを受けたため、リーラリィネは横にふっ飛ばされてしまう。
「はぁ……はぁ……。まったく、しぶとい女だったわね。でも、これでわかったでしょう? アナタでは、勇者には役者不足だって」
息を切らしながらも、なんとか余裕を保とうとするアルティア。
だが、リーラリィネはすぐさま立ち上がり、何事もなかったのように振る舞う。
「ワタクシ……すっかり勘違いしていましたわ。剣での勝負というのは、剣だけしか使ってはいけないものかと」
パンパンパンッ!
服についた土埃を払うと、あらためて剣を構え始める。
「それは負け惜しみかしら? それとも、ワタシを卑怯者だと言いたいの?」
「いいえ、単にワタクシ自身の勘違いを戒めているだけですわ。昔から、お父様には『思い込みが激しい』と窘めれておりましたが……こういうマイナスもございますのね。これも、ワタクシに足りないものなのかもしれませんわ」
「独り言なら他所でやってくれる? 学園から叩き出されたあとに……ね!」
アルティアが再び攻撃を仕掛ける。
バキッ!!
「……は?」
彼女は振り切った剣を見て、驚いてしまう。
なぜなら、刀身の根本から先が消えていたからだ。
恐る恐る振り返ると、そこには右足を大きく上げたリーラリィネと、遥か向こうで地面に落ちる模擬剣の刀身が見えた。
「蹴りを使うのは、問題ないのでしょう?」
リーラリィネは微笑みながら、呟いた。
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