質問合戦と参りますわ②
「でも、どんな不正があったのかはわからないんでしょ? それでは手の打ちようがないじゃないですか」
アルスの反論に、ミハイルは疲れた顔で応じる。
「だが、この女の言葉は嘘じゃない。だから、あの試験は『魔術以外の何かを使っていた』はずだ。まったく……その正直さは嫌いじゃないが、今回は仇になったな。退学の手続きはこちらで……」
「ふふふ、それは少しお話が早すぎるのではありませんか?」
リーラリィネは不敵に笑う。
だが、ミハイルはそれを負け惜しみと捉えたようだ。
「なんだ? 何か言い訳でもあるのか。まあ、ここまで付き合わせた貸しもある。愚痴でも何でも聞いてやるぞ」
「言い訳というよりは、真実を語りましょうか。ワタクシは確かに魔術は使っておりません。けれども、ワタクシがあの人形を『魔力で斬った』ことは間違いありませんわ」
「はぁ? 魔術を使ってないのに魔力で斬った? とんちでもやるつもりか!」
「いいえ。ワタクシはただ、事実を、間違いなく、伝えているだけですわ。それはミハイル様がよ~く分かっていらっしゃるはず」
ミハイルの目に映るリーラリィネの魔力には、まったく揺らぎが感じられなかった。
「まさか、本当にミスリルを魔力で破壊したのか? そんなことが可能なのか?」
「私がお父様からいただいた有難~いお言葉に、こういうものがございます。『殴って壊せない壁はある。だが、殴り続けて壊せない壁はない』と」
「な……なんだそれは? どういう意味だ」
「さあ? それは捉え方次第ではないか、と。ただ、ワタクシはこの金言から、ミスリルとやらを斬った力を思いつきましたわ」
「思いつく……なら、あれはお前のオリジナル魔術ってことか?」
「ですから、ワタクシは魔術についてよく知りません。なので、あれが魔術なのかどうか、今の段階ではお答えできませんわ。そう言えば、オーレン先生がおっしゃっていましたが、この学園では魔術について特に詳しく教えてくださるとのこと。いずれ、ワタクシの力が魔術なのか、あるいは別の何かなのかハッキリするでしょう。ワタクシが通い続けられれば、のお話ですけれど」
ここに来て、リーラリィネはにやりとイヤな笑みを浮かべた。
それまで見せていた貼り付けたような笑顔ではなく、勝ち誇ったような笑顔。
「……っつ! わかった。この件については生徒会長である私の預かりとしよう。必要があれば、教師の方々にもこちらから話を通す。だが、お前の力の正体について、何かわかれば報告しろ」
「自分の能力を……手の内を自ら晒せとおっしゃいますの? それはまたずいぶんとヒドい話ですわ、ミハイル様。乙女の服を脱がすのは、殿方の役目ではありませんか。なら、是非ともワタクシの秘密はミハイル様自身の手で暴くのがよろしいかと」
「誰が情事の話などしたのか!」
「同じことですわ。それが男と女というもの。必要とあれば、今回のようにお互いの秘密を晒し合う場を設けていただいてもかまいませんよ。もちろん、乙女の秘め事の対価になるような秘密をご用意できるなら、ですが」
それだけ述べると、リーラリィネは立ち上がり、ゆっくりと部屋の出口へと進んでいく。
そして、扉の前で振り返り、ゆっくりとお辞儀をした。
「楽しい時間をありがとうございました。今後とも、良い関係を築ければと願っておりますわ」
「最後に1つ。お前は魔王を倒す勇者になると言ったな。それは何のためだ? どうしてお前のような女が、命を落とすかもしれん戦いに挑む?」
「そうですわね。それは……ご想像におまかせしますわ」
ニッコリ笑って扉を開くと、リーラリィネは立ち去った。
大きなため息を吐くと同時に、増えすぎた眉間のしわを指で押さえるミハイル。
「これは完全に負けでしたね、ミハイル」
「いや、負けてないだろ」
「あれで勝ったと思っているんですか?」
「……負けては、いないだろ」
「負けず嫌いは変わらないですね。さて、私はリーラリィネ嬢を送ってくるとしましょうか。今日が始めてだと、宿舎に行くのも一苦労でしょうし」
「なあ、アルス。あの女に賭けるのはリスクが高すぎないか? やはり、退学させて当初の予定通りに……」
「僕たちがやろうとしていることは、最初からリスクだらけでしょ? それが多少増えたところで……ね? そもそも、予定通りなんていくわけもないし。なら、少しでも切れる札は持ちたい、というのが人情ではありませんか?」
「それもわかるが」
「ダメですよ、ミハイル。自分の乗りこなせる馬にしか乗らないようでは、いつまでたっても上達しないままです。暴れ馬を乗りこなしてこそ、乗り手の腕が上がるというもの」
「暴れ馬……ああいうのはじゃじゃ馬というんじゃないか?」
「どちらにしても、あれが本物なら強力な武器になります。しばらくは様子をみましょうよ。僕も目を光らせておきますから」
「そうか……そうだな。苦労をかけるが、よろしく頼む」
「それこそ、いまさらでしょう」
そう言って、手をひらひらと振ると、アルスはリーラリィネの後を追った。
1人残された生徒会室で、ミハイルはぼそりとつぶやいた。
「身なりを整えると、かなりの美人だったな」
直後、自分の言葉に驚いた彼は、誤魔化すように書類に目を通した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます