質問合戦と参りますわ①

「質問に答えるから質問させろ、と?」


「ええ、そうですわ。ミハイル様の質問にワタクシが答えたら、次はワタクシが質問をする……その後も交互に質問をしていき、どちらかの聞きたいことがなくなった時点でお終いですわ」


リーラリィネの提案にミハイルは思案する。


それを見て、彼の懸念にピンときたリーラリィネは先回りして告げた。


「もちろん、先ほどのような曖昧な回答はいたしませんわ。それならば、ワタクシが嘘をついているかどうか、見分けることができるのでしょうから」


「……気づいていたのか?」


「あまりにもおかしな質問をされるのですもの。『隠し事をしているか?』だなんて、普通は『いいえ』としか答えません。それが本当であっても、嘘であっても、わざわざ相手に『隠し事がある』などと宣言するメリットがございませんわ。それでもあえて、あのような問い方をしたのなら、その『いいえ』が嘘か真か見抜く方法があるに違いありません」


「自分では、隠し事があると堂々と答えた者の話とは思えんな。ふぅ……そこまでバレているなら仕方がない。いや、むしろ好都合か」


すると、ミハイルは自分の右目を指さしてみせた。


かすかに瞳に赤い光が宿っており、そこには精密な「魔術式」が書き込まれている。


「私が得意とする魔術の1つ、解析<アナライズ>だ。相手の魔力量を可視化する魔術だが、普通はおおよその大きさを見るだけだ。だが、私はそれを高精度で見分けることができる。そして魔力は当人の心理状態から影響を受ける。人は嘘をつくと同様し、同時に魔力に揺らぎが生まれる。だから、私の前で嘘を言っても、すぐに嘘だとバレるぞ」


(ああ、やはり。魔力を見て嘘を見破る方法でしたのね。お父様も魔力で嘘を見抜くのがお上手でしたわ。おかげで、何度叱られたことか)


「ん、どうした? いまさら怖気づいたのか?」


「いいえ、まさか。わざわざ手の内を明かしてくださるなんて、ミハイル様は紳士なのだと感心しておりました」


「ふん! それではまず、こちらからの質問だ。お前の嘘は自分の身分に関わるものか?」


(あら? もうワタクシが嘘を吐いているという前提で質問してきましたわね。なかなか強気ですわ)


「そうでございます。ワタクシは自らの身分について、あなた方にお伝えしていないことがございますわ」


「やはり、か」


「それでは今度はこちらからの質問でございます。ミハイル様はワタクシの『力』に興味があるのでしょうか?」


「……その通りだ、と言っておこう」


(まあ、ほかにございませんわよね。筆記試験は白紙で出しましたのに、なぜか入学できてしまいました。だとすれば、入学できた理由は、もう1つの試験の結果くらいしか思い当たりませんもの。そして、入学直後に呼び出しでは……ねぇ?)


「だが、私の言っていることが真実かどうか、お前には判断できるのか?」


「ワタクシはミハイル様のように魔力を見て、嘘を見抜くなどという芸当はできませんわ。ですが、筋を通してワタクシの質問に答えてくださるミハイル様が、わざわざ嘘を吐くとは思っておりませんわ」


ニッコリと笑って答えるリーラリィネに、眉間のシワが一本増えるミハイル。


「再びこちらの質問だ。お前は誰かに雇われたり命令されたりしているか?」


「いいえ。今のワタクシはワタクシ自身の意志のみで行動しております。それでは今度はこちらの番。ワタクシの力に興味があるのは、ワタクシがあの人形を斬ったからでしょうか?」


「そうだ。次はこちらだ。お前がこの学園に入ったのは勇者になり、魔王を倒すためというのは本当か?」


「本当でございますわ。それこそがワタクシにとっては何よりも大事。ワタクシの番ですわね。あの人形は特別な素材で作られていたのですか?」


「……そうだ。お前はアレをどうやって斬ったんだ?」


「それは……質問でございますか?」


「ああ、そうだ。答えてくれ」


「さて、どういたしましょうか」


「おい! お前から曖昧な答えはしないと言っただろう。反故にするつもりか!」


「いいえ、そうではありません。ただ、ここまでミハイル様は肯定あるいは否定でしか答えられない質問を続けてきました。そうでなければ、嘘を見破る力が意味を持たないからでしょう。それがここに来て、方法を尋ねてこられたので少し戸惑いました」


「いちいちこちらの意図を把握されるのは、恐ろしくやりにくいんだが……」


「端的にお答えするのなら『たくさん叩く』となりますが、もう少し詳しく言うなら『細く高速で数え切れないくらい叩く』となりますでしょうか」


「……まったく意味がわからんぞ。それは魔術の話なのか?」


「さあ、どうでしょうか? 最初はワタクシも魔術だと思っておりましたが、今は少し自信がありませんわ。なにせ、筆記試験の意味がさっぱり分かりませんでしたもの。アレが魔術だと言うのなら、今のワタクシは魔術をまったく知りません。ですから、ワタクシの力が魔術なのかどうなのかも判断いたしかねますわ」


「魔術ではない可能性もあるのか……」


複雑な表情をしつつ、アルスのほうに視線を送るミハイル。


だが、アルスはそれにおどけた表情で応じ、彼を失望させる。


それを見ていたリーラリィネは、再び口を開いた。


「それでは今度はこちらからの質問ですわ。あの人形は『魔術では壊せないもの』で作られていたのですね」


質問だと言いつつ、リーラリィネの言葉は「確認」のような調子に聞こえた。


「どうしてそう思う?」


「それは質問でございますか? いいえ、これは少し意地悪が過ぎますわね。ワタクシの力が『魔術ではないかもしれない』と考え至ったときの表情が、落胆のように見受けられたからですわ。もし人形を斬る力だけが問題なら、それが魔術であろうと別の何かであろうと関係ありませんもの。ミハイル様にとって重要だったのは、『人形を斬る魔術』だったのではありませんか? そういうものが存在している可能性に興味があった。ですから、ワタクシに力が魔術でなければ、ご期待に沿うことができないだろう、と」


「その通りだ。私はお前が『魔術でミスリルを斬ったかもしれない』という点に興味を持っていたんだ」


「ちょっと……ミハイル! なんでミスリルの話までするんですか?」


「この女は私たちの敵じゃない。そういう勘が働いたんでな。少しばかりサービスしてやっただけだ」


そういうミハイルの顔はどこか疲れた様子だ。


「魔力を通さないはずのミスリルは、魔術による破壊が不可能とされている。現に10%程度を含んだ合金ですら、並大抵の魔術では傷つけることさえ敵わない。だが、魔力を使わない方法なら話は別だ。溶かしたり加工したりできる以上、魔術以外の方法ならいくらでも壊す方法はあるだろう。しかし、となるとお前の試験は不正だったことになるな。魔術の試験を魔術ではない方法で受け、合格したわけだ」

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