生徒会長とご対面ですわ
「あそこが生徒会室だ」
「ありがとうございます、オーレン先生」
うやうやしく一礼するリーラリィネ。
教室での自己紹介が終わった後、オーレンに生徒会室の場所を尋ねたリーラリィネだったが、同じ方向に用があるという彼に道案内をしてもらっていた。
「リーラリィネ、くれぐれも気をつけなさい。いまの生徒会長はなかなかの食わせ物だ。正直、教師たちも手を焼いているほどの。それが新入生を呼びつけるとなると、何らかの思惑があるのだろう。あるいは、キミ自身があちら側なのか?」
「あちら……というのが、何を指すのかはわかりませんが、ワタクシはワタクシですわ。それ以外の何者でもありません」
「キミの自信はいったいどこからやってくるのか……少し羨ましくもある。まあ、せいぜい取り込まれないように注意しなさい。そして、できればキミが良き生徒であることを祈るよ」
それだけ言い残すと、オーレンはわずかに手を振りながら立ち去った。
「それでは、生徒会長様とご対面ですわね」
コンコンッ!
ゆっくりと、しかし力強くノックする。
「入れ!」
「失礼いたしますわ」
声に応じ、リーラリィネは扉を開ける。
真っ赤な絨毯が敷き詰められた大きな部屋。
その一番奥には荘厳な装飾のされた大きな机と椅子。
そして、椅子には1人の人物が腰かけている。
「お前が特待クラスに入ったリーラリィネだな」
「はい、この度、勇者学園に入学させていただきましたリーラリィネと申します。以後お見知りおきを。それで、貴方様が生徒会長の……」
「ミハイル・ラ・ローゼンハイムだ」
「ミハイルラローゼンハイム様でございますね、よろしくお願いいたします」
「は? なんでフルネームを呼ぶ?」
「ふるねーむ……とは? 先ほどのはお名前ではございませんでしたの?」
「いや、確かに名前だが……はぁ?」
「あっはっはっはっは!」
椅子の後ろから急に笑い声が響く。
「いやー、イイ感じの困り顔が見れました。ありがとうございます、リーラリィネさん」
「あら? あなたは……アルス様!」
「おい、アルス! なんだこの女は。なぜ俺をフルネームで呼ぶ!?」
「会長はご自身を家名で呼ばれるのが嫌いですからね」
「カメイ? カメイというのは名前のことなのですか?」
きょとんとした顔をするリーラリィネ。
「うん、名前……の一部ですね。家名というのは、家族一族を表す名前です。僕なら『ホーエンハイム』が家名であり、同じ家名を持つものは家族とみなします。同じく、会長の場合は『ローゼンハイム』が家名ですよ」
「そうだったのですね。では、ミハイルラ様とお呼びすれば?」
「いや違う! ミハイルでいい」
「ですけれど、先ほどはミハイルラ・ローゼンハイムと……」
「中の1字は祝福名だ。生まれた月日から祝福を受ける神が違う。それを表す一種の記号だ。だから、私の名前はミハイルだ……わかったな!」
「はい、では今後はミハイル様とお呼びいたしますわ」
「アルス……本当に大丈夫なのか、この女は」
「それを確かめたいから、こうして生徒会室まで呼び出したんでしょ?」
イタズラっぽく笑ってみせるアルスをミハイルは苦々しげに睨む。
「それで、だ。リーラリィネ、私はお前にいくつか尋ねたいことがある」
「尋ねたいこと? それはどのようなものでございますか」
ミハイルは思案する。
最初の問いは肝心だ。
下手を打てば相手に警戒心を与えてしまうかもしれないが、まったく核心に触れない質問では何も得るものがない。
「お前は……私たちに知られたくないことがあるな?」
ミハイルが口にした質問を聞き、アルスはボソリと呟いた。
「人のことを嫌な奴と言う割にはあなたも十分にいやらしいですよ、ミハイル」
この質問の答え、そして反応を見れば、彼女が自分たちの敵かどうかを知る大きな一手になるとミハイルは踏んだ。
もし「知られたくないこと」がないのなら、完全に潔白な人部ととして信用できる。
だが、隠し事がありながら、シラを切るようなら今後は警戒が必要となるだろう。
そんな思惑を知ってか知らずか、リーラリィネはあっさりと答えた。
「ええ、ございますわ」
「……はぁ?」
ミハイルが素っ頓狂な声を上げる。
「それは……私たちに嘘を吐いているということでいいんだな?」
「いえ、そうではございません」
「なんだと!? お前はいま、私の質問に『はい』と答えたではないか! なら、お前は私たちに隠し立てしていることがあるんだろう?」
「ええ、隠していることはございますわ。ですが、それは『私が嘘を吐いている』とは同じではありません。例えば、ワタクシに対して『お前は女か?』という問いに対し、『男である』と答えれば嘘でしょう。けれども、『ご想像におまかせします』と応じるなら、女であることを隠してはいても、嘘は申しておりません」
「ならば……お前は私たちに嘘を吐いているな?」
「ご想像におまかせしますわ」
「……貴様!」
「そもそも、どうしてワタクシがミハイル様の質問に答えなければならないのでしょうか? 尋問するために呼びつけたというのであれば、あまりにも不躾ではありませんこと?」
「私たちは生徒会役員だ。生徒を束ね、監督し、勇者育成という目標を果たさなければならない。そのために、生徒の素性も調べる必要がある」
「それはあなた方のお役目のお話ではありませんか? ワタクシになんの関係が?」
「お前の勇者を目指す生徒の1人だろうが! ならば、生徒会に協力するのが筋というものだろう!」
「生徒会に協力することが勇者になるために必要なのでございますか? もしそうであるのなら考えますが」
リーラリィネはちらりとアルスのほうに視線を向けた。
「いや〜、確かに生徒会役員になることは、勇者になる近道とか言われてはいますけどね。実際、生徒会と関わらないと勇者になれないなんて制約はどこにもないんですよ」
「アルス! お前、何もいまそんなことを……」
「他人の嘘を問いただそうっていうのに、こちらが嘘を吐いていたら筋が通らないでしょ。特に、彼女のようなのが相手なら、ね」
ものすごい形相で睨みつけてくるミハイルに、参ったと言わんばかりに両手を上げて対応するアルス。
2人のやりとりを見て、リーラリィネは1つの提案をする。
「筋を通すとおっしゃられるのなら、ワタクシも質問に答えてもかまいませんわ。質問には質問を。ワタクシはミハイル様の質問にお答えしますので、代わりにワタクシの質問にミハイル様もお答えくださいませ」
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