第6話 旅の者
「ありがとう。助かったよ、君たち」
パーティーのリーダーであるベンが代表して、モンスターに襲われているところを助けてくれたジェシカとラウラにお礼を言う。
「そう」
「よかった!」
コクリと頷くジェシカと、嬉しそうな笑顔のラウラ。
「ところで君たちは、どうしてこんなところに?」
問いかけてくるベン。質問されて、ジェシカはどう答えるべきか迷った。まさか、自分達の正体を話すわけにはいかない。しかし、適当な嘘をつくというのも苦手だ。ある程度、本当のことを話そうと決めたジェシカ。
「旅の途中」
簡潔に答えたジェシカの言葉を聞いて、ベンは驚いたような顔になる。
「旅? えっと……。君たちは、どこから来たんだい?」
「遠い場所」
またも簡潔に答えたジェシカ。拠点の場所については、絶対に秘密にする。面倒な人間が寄ってきて、レオンを困らせたくないから。
返答を聞いたベンは、困惑していた。質問には答えてくれるけれど、ハッキリとは答えてくれない。疑問ばかり増えていく。
「あの、失礼ですけど……冒険者さんですか?」
パーティーのメンバーである女性が間に入って、ジェシカとラウラに向かって質問する。モンスターの大群を、一瞬で倒してしまった。そんな力を持った者達だから、冒険者だろうと予想して。
だけど、彼女の予想は外れている。
「違う」
「冒険者じゃないよ!」
首を横に振って否定するジェシカとラウラ。彼女達の答えを聞いて、ますます混乱していくパーティーのメンバー達。あれほどの強さがあって、モンスターを瞬殺したのに冒険者じゃないのか。
この子達は一体何なんだと、心の底から疑問に思う彼ら。ジェシカが口を開いた。自分達の目的について話す。これなら、話しても大丈夫だと判断して。ラウラは横で口を挟まず、様子を見ていた。
「私達は街を探している」
「街? なんていう街ですか?」
「服屋がある街なら、どこでもいい。ここから近くにある街の場所を教えて欲しい」
「え? 服屋? え、えーっと……。ちょっと待ってくれ」
ジェシカの質問に戸惑うベン。彼は、他のメンバー達と相談し始めた。
「どうしたらいい?」
「街に行きたいみたいだ。それなら、普通に教えあげればいい」
「でも、女の子が二人だけであの道を通るのは危ないんじゃ……」
「いやいや、さっきモンスターを普通に倒していただろう。腕前に自信があるようだから、大丈夫なんだろう」
「しかし、街の場所が分からないなんて。彼女達は、どこから来たんだろう?」
ベンは、彼女達の正体が分からなくて警戒していた。助けてもらったのに失礼だと思いながら、警戒するのを止めない。
どこから来たのか。何者なのか。美しい容姿と並外れた実力がある。冒険者だったら、噂になっているだろう。聞いたことがないということは、彼女達が明かした通り冒険者じゃないことは本当なのか。
もしくは、噂が届かないほど遠く離れた場所からやって来た。先程、遠い場所から来たと本人たちは言っていた。そんな遠くから来て、服屋を探している? なぜ?
色々と考えているうちに、ますます分からなくなる。彼女達が何者なのか。
「とりあえず、街まで一緒に同行してくれるようにお願いしよう。クリスタが怪我をして戦えない。今の状態でモンスターに襲われたら、今度は全滅する。彼女達の助けが必要だ」
「……そうだな。恥を忍んで頼もう」
正体は分からないが、助けてくれた。その善意を信じて、彼らに協力を求めよう。ベン達が相談を終えて、再びジェシカと向かい合う。
「近くにある街まで案内しよう。その代わり、我々と一緒に来てほしい。街にたどり着いたら、報酬も支払う。今は、非常に危険な状態。少しでも戦力が欲しいんだ」
「その街に服屋はあるのか?」
「ある。古着を売っている店を知っている」
今度は、ジェシカがラウラと相談する。
「古着屋だそうだが、いいか?」
「うん、いいよ! 見に行ってみよう」
ラウラは笑顔で頷いた。古着にも興味があるので、行ってみたいと思ったから。
「わかった。一緒に行こう」
「ありがとう。報酬は出来る限り支払うつもりだ。だから、全員無事に帰れるように助けてくれ。頼む」
こうしてラウラとジェシカの二人は、助けた人間達と一緒に近くの街まで同行することになった。
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