6
4000人の娼婦。その中に今もいるかどうかすらわからないあの人。
「……それでも、俺は……。」
どうしても、あの人を捜したい。そのために身を売ってでも。
熱を持った息を吐きながら身悶える薫の身体を、蝉は薄い胸の中にすっぽりと抱き込んだ。
その体温と、体内の梁型を弄ばれなくなった安心感から、薫は一瞬蝉の背中を抱き返しそうになった。
その腕の動きを止めたのは、最後に残ったプライドか、消えない猜疑心か。
ピクリと動いたきり固まった薫の腕を、蝉は強引に掴んで自分の首に回させた。
「古株の娼婦なら、その人のことをなにか知ってるかもしれない。捜すの、手伝ってもいいよ。」
だから、ね?、と、蝉が薫の着物の帯に手をかけた。しゅるしゅると、間髪入れず解かれる。
どうしよう、と躊躇っているうちに、挿入されていた張り型が一息に抜き取られた。
そして、次に体内に潜り込んできたのは、さっきまでの冷たく硬い張り型ではなく、体温を持ち器用に動く蝉の指だった。
「ちゃんと気持ちよくするから。」
身を強張らせる薫の腰を宥めるように撫でさすりながら、蝉が体内を探るように慎重に指を動かした。
「ほら、ここ。気持ちいいでしょ?」
蝉の指が、薫の腹側にある一点をそっと押し込んだ。
「あっ」
薫は半ば悲鳴のような声を上げ、びくんと身を痙攣させた。それは、これまでの人生で味わったことのない快感だった。
蝉は深遠な問題を探求する哲学者みたいに真剣な面持ちで、その一点を器用に刺激し続けた。
薫はどんどん募って行く快感に、声にならない声を上げて身を庇うように蝉の手から逃れようとした。それでも蝉は容赦なく、体重をかけて薫の身体を抑え込んでくる。
「ねぇ、いつでもこうやって気持ちよくしてあげるし、女捜すのも手伝ってあげるからさ、俺にあんたの身体触らせてよ。」
耳元で囁かれる蝉の声は、熱い呼気でわずかに掠れていた。
「ほんとうに?」
快楽に身を震わせながら、薫は辛うじてその言葉を口にした。
「ほんとうに捜すの手伝ってくれますか?」
切れ切れに揺れるその声を聞いて、蝉はわずかにほほ笑んだ。それはなんとも言えない、どこか切なげな表情だった。薫には蝉がどうしてそんな顔をするのかが分からなかった。
「手伝うよ。」
そう請け負いながら、蝉が独り言のように呟いた。
「あんた、誰に抱かれても変わらないんだろうね。」
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