第15話【天狗騨記者、男にも女にもモテる】
「大丈夫です。あなたは無双なのですから」と、天狗騨が婉曲に断ってもなお押してくるネルリッタ。
(なんとしても魔物退治の仕事を俺にやらせたいらしい)としか思えなくなっている天狗騨。だから反論を開始した。
「無双とは少し違うんじゃないですかね、本当に無双なら一人で戦って勝ち続けられるはずで、それならそもそも『パーティー』など組む必要がないでしょう?」
「でもテングダさんはもうパーティーを結成していませんか?」と逆にネルリッタに訊かれてしまう。
「意味が解らないまま2名加わってしまってますが」
その天狗騨の返答に、にわかにギルド中がざわめいた。そのざわめきに若干の不穏なものを感じつつ、敢えてそれを無視し天狗騨はダメ押しするように核心部について訊いた。
「無双転生者にとってパーティーを組むメリットとは何です?」
しかしネルリッタの回答が戻って来る前にギルド中が大混乱に陥り始めた。むくつけき男達が天狗騨目がけて突進してきて、なぜか女のネルリッタがはじき飛ばされ近くにいたはずのリンゼとフリーの姿も見えなくなり天狗騨は男達にもみくちゃにされていた。異口同音に聞くことばは「俺をあんたのパーティーに入れてくれ!」「入れてくれ!」「入れてくれぇ!」
「やめーっ!」思わず飛び出た天狗騨の大声。その瞬間ドンと響く重低音な破壊音。
ギルドの天井に穴が開いていた。空が見えている。天井に穴が開くという事はその部分の石材が破壊されたわけだから、粉々になった石ころくらいは落ちてきそうなものだが、そこに天井として存在していた石すらも天高くすっとばされたらしく落ちてくるモノ自体がまったく無い。
そんな中——
「あんた達っ! よくも突き飛ばしてくれたわね!」とネルリッタの一喝。髪も乱れてしまっている。その
(ギルドマスターというのは女であってもここまで偉いのか)と妙な事に感心してしまう天狗騨。しかしその僅かな空白の間に「キャーっ」という声とともにまたももみくちゃにされる天狗騨。あっという間に周り中女だらけ、
「わたし回復士です」「回復術ならわたしの方が」「近接戦闘に長けた剣士だ背後の守りは任せろ」などなど一斉の自己PR。そのあまりの数にもはやことばとして認識できない。女のニオイが充満し女の胸の圧を身体中に感じ続ける天狗騨どうしたらいいのかも分からない。ここで再びネルリッタの発する大怒声。
「あんた達っ、いい加減にしなっ!」
一斉に狂乱痴態(?)状態を収束させる女達。
さっきにも増して髪を乱し、オマケに服まで多少乱れたネルリッタが天狗騨に向け言い渡した。
「あなたの声は声量しだいでは凶器だと言ったでしょう。天井に穴を開けた分は弁償してもらいますからね」
「しょうがないな、」少々不満ではあったがこの建物の一部を損壊したという自覚はある天狗騨。
「金貨30枚では足りないか?」天狗騨は訊いた。
(金貨とは言ってもこの世界に欲しい物が無ければそれほど執着する気も起こらないものだな)と天狗騨は自分のこの妙な心理状態におかしな感心をしてしまう。
「10枚、と言いたいところですけど特別に5枚にしてさしあげます」ネルリッタはそう決めた。
「いや、10枚必要なら10枚でもいいが」
「テングダさん、人の、特に女性の好意は受け取っておくものですよ」とネルリッタ。顔にはなぜだか不思議な笑み。
(じゃあ)と思い白い袋から金貨5枚を取り出しネルリッタに手渡す。その瞬間になぜかネルリッタに手を握られる天狗騨。嬉しいというよりはギョっとしている。「——それに、こちらでの生活を始めるに当たり、特に最初はまとまった出費もあるようですから」、そうも付け加えられた。
なぜだか解らない好意になにか不穏なものを感じた天狗騨だったが、当面の生活費を持ち出されては、その好意、受け取っておくしかなかった。
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