第9話【天狗騨記者、成り行きで『冒険者のパーティー』の結成義務を負う?】
リンゼの言った通り、この城門前でいつまで粘ろうと事態は好転しそうにない。
しかしこの場を離れるに当たり、どうしても気がかりな事がひとつだけあった。
それは乗ってきたASH新聞社用車の事である。
(こんな所に起きっぱなしではイタズラされるに違いない)と心底確信していた。
(かといってここで下手にエンジンをかければ、オモチャにされた挙げ句、壊されるに違いない)とも。
天狗騨の視線の先を見て何事か感づいた者が一人いた。異世界の不良である。
「俺、フリーっていいます」と唐突に名を名乗った。
「フリー君? それで?」と天狗騨。
「この乗り物、俺に任せてくれませんかテングダさん。安心できる置き場所に心当たりがあるんです」
「転方魔術でか?」
「もちろんっスよ」
運転させて運ばせたら確実にぶっ壊しそうだが、魔術を使うならその心配は無い。何しろ深山の森の中からここまで移動させてきたという実績がある。
「テングダさん、この人に任せるんですか?」と咎めるような口調のリンゼ。
(この二人、元々パーティーとやらを組んでいたはずだが、仲悪いのか?)
「オイ早くしろ」衛兵の一人が天狗騨達に居丈高な態度をとった。
「早くしろ? とは」
だいたいを理解しながらすっとぼけ、敢えて天狗騨が尋ねる態度をとった。
「大聖堂まで送り届けるところまでが我々の仕事だ」衛兵がいらつきを隠せない口調で答えた。
(送ってくれるとは言うが親切心からじゃないだろうな)天狗騨は思った。だがどうやら、ここでぐずぐずしているとさらに何事か疑われそうな雰囲気であるのは間違いない。
「手短に済ませる」天狗騨は衛兵にそう言うと、フリーの方に顔を向け「心当たりってのはどこだ?」と社用車置き場の場所を問い質した。
するとフリーはなぜかリンゼの方を見てニヤリと笑ったようだった。
「街中に俺達が住んでいるちょっとした邸宅があるんです。ま、借家なんですけどね。そこの大家が貧乏貴族のお嬢様なんですけど、その家の本邸が荒れ放題で馬小屋はあっても馬もいない。そこ、ちょうどこれくらいの乗り物が収まるのに本当にちょうどいいんスよ」
「でも本当に届けるの?」リンゼが疑い深そうに訊いた。
「俺は今住んでいる所から追い出されたらどこに住めると思ってんだよ? 確実に下の下の生活に落ちぶれる。なら無双転生者のテングダさんの力になった方がいいだろ?」
「それは……まあ……」そう言われリンゼには反論の余地が無さそうだった。とは言え天狗騨ははっきりとしたことばでの確認を欲しがった。記者の業界用語で言うなら『裏をとる』である。
「リンゼ、それは全て本当の話しなんですか?」
「はい……本当の事です」リンゼは答えた。
(だからこそのあの表情だったか)と天狗騨は思う。あの表情とはもちろん〝ニヤリ〟。
「だから俺がその約束を守れたら、テングダさんのパーティーに俺を入れてくれ!」フリーがこの一連の話しの結論へと到達した。
(なるほど、そういう事なら立派な取り引きだ)
ここは(しょうがない)としか思いようがなかった。天狗騨は決断しそしてリンゼへと言った。「分かった。じゃあ頼む」
いったんは預けられた水晶玉だったが、リンゼはいかにも渋々といった感じで元の持ち主へと手渡した。
「ありがたい!」フリーは言った。続けて「でもこれだけ大きい物を転方魔術で送るには少しばかりの休みが欲しいんだ」とも。
「もういいだろう!」衛兵がさらにイラついたような声を上げる。
(まあ案内というよりは連行って感じだな)と衛兵のその内心を推し量ったが、天狗騨は言うべき事は忘れてはいなかった。
「この球体の金塊は誰が運ぶんでしょう?」
「お前達に決まっているだろう。まさか我々に運ばせる気か?」
「なら台車、いや荷車のような、車輪の付いた道具はありませんかね、物を積んで運ぶ道具です。これ、手で持つと重くて凄く疲れるんですよ」
衛兵は口をあからさまにへの字に曲げたが、他の衛兵に向かって言った。
「何か適当な物を借りてこい!」
しかしその時には天狗騨はもう別のことを考えていた。
(しかし、俺が怪ぶ…、じゃない。魔物を倒すパーティーとやらを結成する前提になってしまったなぁ……)と。
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