第46話 時間逆行

ここはアナザーワールドのマンション一室。

あの日ミーナは朝8時28分着の横浜地下鉄7号車に乗っていた。

ミーナが消えた7月7日日曜日に時間を戻す。


「時間よ戻れ、9日前の7月7日朝5時へ!」


えっ、こ、これっ、ヤバいぐるぐる!眼が回り気持ち悪い。

立ってられなくなり横になるが目眩は酷くなるばかりだ。

目玉が右から左へ左から右へ物凄いスピードでブレる。


ダメだ!吐く…


う…戻せたのかしたのか…何時だ。

7月7日日曜朝5時…

成功だ!

戻せるが、時間遡行は脳に負担が生じるらしい。

宝のような能力だがこれっきりにしたいぜ。


ミーナは部活の合宿であざみ野のキャンプ場にいる筈だ。

「マルチコプタ―」

あれ?

「バイク!」

出ない?なぜ?

呼び出すも反応がない…

「アナザーワールド!」

も・ど・れ・な・い!

なぜだ…


あっ!

韮山トンネル洞窟が現れる以前に時間を逆行したから…か。

アストラルディオを入手する以前に時間を戻した…

つまりステータスもマルチコプターも…消滅した…


こんなことになるなら事前にあざみ野キャンプ場に居ればよかった…

タクシーじゃ間に合わない。電車なら1時間20分くらいか。

最寄りの駅までタクシーを使う。

その車内でミーナに急用で迎えに行くから電車に乗らず待機して欲しい旨を伝え、

一路あずみ野へ向かった。


「どうしたのお兄ちゃん?」

「よかった。無事で…」

「ちょっと恥ずかしいよ。皆んな見てるから。兄妹で抱き合うなんて変な想像されちゃう」

「そうだな。ワリぃ、落ちつきがなくてさ」

「なにがあったの?」

「なにも、在るとしたらこれからだ」

「なーにそれ?」

「ミーナは何時の電車に乗った?」

「えーなにそれ?まだ乗ってないじゃん。今日のお兄ちゃん変だよ」

タクシーで帰ろうと提案するも、お金もったいないよ!と拒否られた。

確かにそうだけど…

一抹の不安はあるも…

とにかくあの時刻の電車に乗らなきゃいいんだ。

快速であざみ野から横浜まで28分、今は7時13分、電車が消えた時間は8時28分か。

間に合うな。


ミーナを連れ、横浜公営地下鉄6⃣号車に乗るとあざみ野駅を出発した。

7時28分発湘南台行き、横浜到着は7時56分。よし、問題なしだ。


次は横浜駅に停まります。


そのアナウンスの直後


「見て!外の景色が真っ黒だわ!」

「うっそ…どうして?」

「何なのこれ?」

「ねぇ、何か電車が沈むような感覚じゃない?」

乗り合わせた人々が誰彼なしに言葉を交わし合っている。


エレベーター現象だ!転移が始まった?なぜだ!

時刻は…8時28分と表示されている。

「8時28分!」

おかしい!7時56分横浜駅着のはずだ!

「お兄ちゃん、ミーナ怖い…」

「大丈夫だ、兄ちゃんがついてるから」

(ミーナは知らないが、これで2度めだ。だけど俺がいる、ミーナ1人じゃない)

横浜駅手前で横浜公営地下鉄[7⃣号車]の転移が始まった。

 

横浜駅到着のアナウンスと共に地下鉄の扉が開く。


「なに?これ横浜駅じゃないぞ」

「ここどこよ?」

「ちょっと、ここはどこなの?誰か知らない?」

俺以外の乗客は悲鳴まじりの声で口々に罵るが、誰もこの現象を理解できないでいる。


そう…か。

過去に起きた現象…

実際に起きてしまった事実は時を戻しても覆らないのか…


「お兄ちゃん、皆んな外へ出てくよ!」


どうする。

電磁ブレードもクリティカルブーメランもない。

いや、あってもそれを扱える能力もない、ただの兄ちゃんだ…


幼子を連れた女性客は電車内に残ってる。

車窓から見た空はオレンジ色に輝いている。

朝日なのか夕日なのか、

それとも…

ここにいても進展は望めない。

なら、行くしかないか。

ミーナを連れ立って外へでる。

車窓から見た風景と変わらない。

地平線まで砂・砂・砂ばかり。

ここは…砂漠の世界だ。

 

「お兄ちゃん、あれ!」

乗客たちが悲鳴を上げながら電車に向かって走ってくる。

その後ろには…

「フライングスライム?」

「お兄ちゃん、あれクラゲだよ。大きいクラゲが空に浮かんで…る」

いわれてみれば夏の日の夕方頃にビーチで見かけるクラゲっぽい。

そのクラゲに襲われ、クラゲに取り憑かれて、地面に伏した乗客の身体から霊体がフワリと抜けていく。

死んだのか…

その乗客が起き上がった!

死んでない?

「お兄ちゃん、私達どうなるの?ゾンビになっちゃうの」

答えられなかった。

「乗客を襲ったクラゲはどこ行った?」

「乗っ取ったんだよ、きっと。だって歩き方が変。ゾンビみたいだもん!」

ウソだろ…殺して身体をのっとるって…

もし、こいつが日本で繁殖したら大変なことになるぞ。


逃げる際、女性客の1人が砂漠にある△角錐の砂に足をぶつけた。

褐色に蠢く小さな生き物がワラワラと大量に出てきて

「イヤ―――誰か助けて―――」

「ゔぐぅ―ぶぶぶ…」

小さな生き物が争うように女性の口、耳、鼻、目玉へ入りこんでいく。

一瞬で集られた女性は生きたまま見る見る骨になっていく。

蟻!

サンドアントとでも呼べばいいのか

こいつもヤバい!

「おにいちゃん、ミーナも食べれれちゃうよ」

だが逃げ場はない。一面砂漠だ。空には人食いクラゲ、地上には人食い蟻…


電車のルーフに身を寄せる。生き残った乗客も同じだ。

が、今度はクラゲの標的にされる。

「お兄ちゃん、あれは何なの…私達もうダメかな」


な・ん・だ・あ・れ・は・・・


瞬間、パァッと辺り一面がピンクカラーに染まった。

「おにいちゃ…」

ミーナと叫んで妹を抱きしめ…意識が途切れ…た。






























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