第41話 ハイブリッドミュータント

高っけ――!

ホバリング中のマルチコプターのモニターが高度100m前後を指している。


マルチコプターのモニターに方位マークがあるけど…

どっちへ帰ればいいんだ?

モニターに触れてみるとメッセージが。

そのメッセージによると…

なるほどセットすると一度訪れた場所へ自動帰還できるのか。

ルーラ!ってな。

モニターを弄ると画面が拡大した。スマホみたい。


モニターナビの★●▲■の方位記号を頼りに探すしかないな。


無音飛行って落ち着かないなぁ。

目はうるうるするし、ルーフもないし。

後でマジにゴーグル買わなきゃな。


巨大な翼竜が大空を舞う。俺を襲う気はないらしいが、餌でも探してるのだろうか。


低空飛行で現在地の✚地点から★方向へ進むと木々の間に巨大な洞穴を見かけるも、

またか…とうんざりしてしまう。

巨大ゴキブリがトラウマ…

✚地点から洞窟までのモニター表示距離は7Km弱。

7キロも離れてないしな…こっちじゃない気がする。


さっきの✚地点に戻り次の●方向に進んでいくが、途中で河川に道が阻まれている。

川があるしこっちも違うな。

 

次の▲方面は山並みが続く山岳地帯だ。完全に違う。

違うが遠くの方に煙を吐く?白亜のビルのような建物がある。あれは何だろう?

行ってみたいが…寄り道は次回だな。

そういや翼竜はいたけどジャバウォックを見かけないなぁ。


ラスト■この辺りだと思うけど。モニターを拡大して凝視する。

そうか、閃いた。

サードアイ。使ってみよう。

「サードアイ」

未知の第6感が発動する。

南無三…

《右方向、1時10分の地点です》

あった!見つけた!

モニターのナビにインプットして。これでいつでもワープ地点へ戻れるぞ。


俺は夢中で気づかなかった。マルチコプターの真上に巨大な影が被さるのを。

頭上を見上げると、やつは興味深そうに俺を見ていた。


ゾクッと悪寒が走った。こいつは…

その瞬間逃げだした。

マルチコプターは流星のようにフル加速する。やつは…後ろを振り向く…追ってくる!

あいつは…初めてこのジャングルを訪れた時に見た恐ろしいサメのモンスターだ!

フル加速に併せてマルチコプターのステルス機能が作動する。


やつは一瞬マルチコプターを見失うがマルチコプターのステルスタイプⅡには問題があった。

ステルスタイプⅡは地上からだと見えないが、並行・頭上からだと俺が座っているのが丸見えだ。マルチコプターは消せてもパイロットの露出部分までは消せない。

(隠す…おそらくマルチコプターはステルスコートタイプ1とセットなのかも)


マルチコプターのモニタ―は240Kmを指している。


スピードはマックスじゃない。マルチコプターは音速領域まで加速する。

加速するが…

溢れる涙に視界が歪む。

風圧で歪んだ身体が悲鳴をあげている。俺の方が限界だ。

やつにはジェット噴射装置でもついてるのか?

低空飛行に切り替え森の中へ突っ込む。

来やがった!森の木々をブチ壊しながら。

やつは着地すると巨大な翼を背中へ収納する。


でかい。でかすぎる。10m以上ある。ティラノが直立してる姿はこんな感じだろう。


俺はマルチコプターから降りずにシャドーマンを呼びだすと、電磁ブレードとパラライザー銃を受け取る。


「詳細鑑定」

〚個体名 ジャーク〛

〚性別♂〛

〚多生物突然変異体 ハイブリッドミュータント]

〚全長12.5m・体重5t〛

〚レベル/∞/ライフ/∞/桁数オーバーの為表示不可能〛

〚全ステータス/ハイススコア/桁数オーバーの為表示不可能〛

〚知能指数高〛

〚アビリティ・ハイパーソニッククラッシャー〛

〚強さ/無敵〛

ハイブリッドミュータント…

ジャーク、漢字だと邪悪…


12.5mを間近で見上げる。まるでビルだ。

サメの頭部に恐竜の体と尻尾。長い両腕には杭のような爪。

この森の王者か。いやこの世界のラスボスか。


序章でラスボスが出てきて詰み。。

右手には電磁ブレード。左手にはパラライザー銃、そして反重力シューズ。

この世界攻略の為に欲しかった武器だ。それを今試さないでいつ試す。

一瞬身体がブルッと震える。

武者震いが俺の闘志を燃やしていく。


無謀にも無敵のラスボスに挑むのか。数ある生命も消し飛ぶぞ。

シャドールームへ逃げろ。


俺が俺に囁く。

そうかい、だが勝負はやってみなくちゃ分からね―!

大地を蹴る!

同時にやつに向けてパラライザー銃のトリガーを引く!

大地を蹴った無住力シューズは旋風を残すと一瞬でフル加速する。


ジャークの後方へ回り込む。やつが振り向き、俺を凝視すると眼を細める。

効いてない…パラライザーが。こいつにはパラライザーが効かない!

誤算だ。

パラライザー銃をベルトに差し電磁ブレードを両手で握りしめる。

再び地面を蹴る。

「これでも喰らえ!」

鋭い加速でジャークの股の間を走り抜けながらジャークのアキレス腱を切りつける!

横薙ぎ一閃!電磁ブレードが閃く!

「ギィィン」

握り締めた電磁ブレードが手から離れ宙を舞う。

ジ――ンとくる手の痺れがハンパない。


電磁ブレードを弾くほどの鋼の鮫肌…

電磁ブレードは…あそこか!ブレードは壊れてなさそうだが。

こいつ遊んでるのか?

ジャークが仁王立ちしたまま珍しい生物でも見るかのように俺を見下ろしている。

電磁ブレードの破壊力は使用者の能力に比例…する。


ジャーク、やつは俺が電磁ブレードを拾うのを待ってるかのように眺めてる。

強者の余裕ってやつか。


当初ジャークは踏み潰して終わりだと思っていた。

が、ここにいたと思えば後ろ、後ろかと思えば足元へちょこまか移動する。

その都度ジャークの視点がブレる。

この小さな個体が3つにも4つにも散らばったかのように映る。

ジャークには獲物を捉える特殊能力が備わっている。が、今回ばかりは役に立ちそうになかった。


第2ラウンドはジャークの尻尾攻撃から始まった。その尻尾を足で蹴った。

無重力シューズで受け流そうとしたが、重力壁の作用で尻尾の衝撃は受けないもののポーンと空高く舞い上がってしまった。

やっちゃった、ミスった。


勢いで手から離れた電磁ブレードがくるくる空を舞う。

待ち構えていたジャークが大きく口を開く。

こいつ俺を食うのか!


(((ヴヮ――ン)))


咆哮と共に物凄い反響音を伴った衝撃波に襲われ、

一瞬で周囲の生態系諸共、俺の身体も木端微塵に吹き飛ばされた。

が、次の瞬間、何事も無かったように地面へと着地する。


素っ裸だ…ということは死んだのか…

SOUL✞の能力は自身が死んだことすら気づかせない。

クソっ、服と大事な無重力シューズまで破壊しやがった。


ジャークは驚いていた。

ジャークは己のハイパーソニッククラッシャーを喰らって生きていた奴を知らない。

皆、塵の如く消し飛び空中へと霧散していった。

このチビはなんだ。

ジャークは生まれて初めて興味を抱いた。


シャドーマンから受け取った予備の無重力シューズを履きながらジャークに

「ちょっとたんま!」

つい口走ってしまった。

『ちょっとたんマ』

こいつ喋れたのか…

その間に無重力シューズの初期登録が完了する。

「オメー強えなぁオラわくわくすっぞ」

『オメー強えなぁオラわくわくすっゾ』

指で自分を差しながら

「俺はアキラだ」

『オレはアキラダ』

言葉は喋れるが会話にならない。異世界言語は理解してないらしい。

意思疎通はムリか。

電磁ブレードを拾うと第3ラウンドの開始だ。何とか一矢報いたいという思いが強い。強いが…

手にはブレード。足にはシューズ。だけどフルチン。なんとも様にならない。

ほとんど変態だ。


ジャークは隙だらけだ。ハイパーソニッククラッシャーも使わない。

隙だらけなのは態とだと分かってる。

無重力シューズで左右に動く。


忍法影分身、なんてな。


ジャークの脹脛を横薙ぎに斬りつける。

今度はどうだ!

「ギィィン」

弾かれた…擦り傷すら…ない。

ジャークとのステータスの差というのをメッチャ思い知らされた。

ジャークの恐ろしい顔が「ニッ」と笑う。

『ヴァヴァヴァ』

と言い残すと上空へ舞い上がる。風圧で吹き飛ばされそうになる。

「ちょ、、」

急いでやつの後をマルチコプターで追いかける。

貰うものを貰わないと。

自動追追尾システムへ切替えると浮遊体へ変わりルーンナイフを撃ちまくった。


両手で放つルーンナイフが次々とジャークの身体へ吸い込まれていく。

千、5千、1万、10万、100万、1000万…こいつに上限はないのか!


ジャークが後ろを振り向く。

ハイパーソニッククラッシャ―かとドキッとしたがそうじゃない。

どうやら付いてこいという意思表示らしい。

奪ったライフポイントは1億近い。

正真正銘の化物だ。

ジャークを恐れたのか大空を舞うタペラヤに似た翼竜たちが逃げていく。


飛行途中で川沿いに街並みが連なってるのを見つける。寄って見たいが…

密林ジャングルの異文化、どんなやつが暮してるんだろう。 


アビリティゲージのシャドーボックスが点滅している。レベルアップのサインか。

《シャドーボックスがLVUPします。シャドーボックスのLVUPに伴いSP1000ポイントが必要です》

お馴染みのアナウンスだ。だけど今回からはライフポイントが必要なの…

世知辛い世の中だよ。仕方ないので1000ポイント加算する。


《シャドーコンテナにLVUPしました。使用する場合は商品名を唱えて下さい。返却の場合は商品名を唱えて下さい》

シャドーマンを介さなくて良くなったんだ。やった、出し入れ自由じゃん。

これでLP1000なら安いや。

「よっしゃ――Maandoom――」


しかし遠いなぁ…


そうだ、地図!

自動追尾システムのまま、くすねた地図を広げて見た。

地図にはジャングル島と海図が表記してある。

海図ってことは…海―!

地図の方位★の方向に海が、その海原の先にはまだ見ぬ大陸が表示されていた。

新大陸――キタ――!

日本へ一度戻らなきゃいけないけど、その後で行ってみなきゃ!

何が存在して、一体どんな生態系が跋扈しているんだろう…


ジャークが低空飛行へ移る。

その先には…

あれは…山を刳り抜くいて作った巨大な住居だ!

ゴミのように無造作に置かれてるのは。魔石?赤青緑金色の、あれは宝石?






















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