第32話 伊藤エミ②

抱き合ったまま2人はシャドールームへ移動する。

成功!人を連れて来れた!


「ええー!なにこれ??ね、ね。どうして??」


掻い摘んでエミに説明した。

現実にシャドールームというスキルを体験したエミは矢継ぎ早の質疑応答にも頭の回転の早さで納得していく。


「すごーい。私もここに住んでもいい?」

「無理」

「どうして?」

「ヤだから」

「子供みたい」

「どっちが」

「それよりさっき説明したライフポイント、LPというのを検証するからさ。

その間シャワーでも浴びてきたら?」

「覗かない?」

「覗くもんか!」

「そう、ざーんねん」

なにこいつ、ボケ漫才か。


煩いのがシャワー浴びてる鋤にスキルボードを呼び出す。

「えーっ、5匹倒しても5LP止まりかぁ」

1とかさ、しょぼいなぁ。先が思いやられるぜ。


それとシャドールームの表示が点滅している。

なんだろ?表示をポチってみる。

《シャドールームのLVUPにはLP1ポイントが必要です。初回特典LVUPにはLP2ポイントが必要です》

なに――レベルアップするの!

速攻でライフポイントを2加算する。

するとシャドーハウスが一気にレベル2に上がった。

「うぉぉ――LV2キタ――」


そこへエミがバスから顔を覗かせる。

「ねぇ」 (ズキドキッまさか俺を、、)

「バスタオルはどこ?」(呼んでるわきゃーねーか)


軽バンからバスタオルを取りエミに手渡す。

(チラッと胸の膨らみが、、白かった)

シャワー上がりのエミが、玄関あるけど外は地上なのと聞いてきた。

なるほど、ま、そう思うよな普通。


「開けて見」

「う、うん」

エミが恐る恐る玄関扉の取手を引くと、、そこには真っ黒な空間に軽バンが止まっていた。

「異空間でのルームだからこんな感じ」

「ステキ!」

どこが?こいつの感性が俺にはワカラナイ。


でもシャドールームのレベルが上がったんだよな。

いつもと変わらないみたいだけど。といいながらエミの隣へ移動する。

ここは変わってないな。

ダメ元で「横浜シーパラダイス」と呟いてみる。

ピシッピシッと真っ黒い壁が割れて、破れていく。

エミが怖いと部屋の中へ戻る。

俺は怖いというよりワクワクしちゃう感が強い。


「でるか横浜シーパラダイス!」


真っ黒だった壁から黒い部分が全て消失し、空には青空が広がる。周りは地平線が見えるほどだだっ広い平野だ。


【ヨコハマシーパラダイスを構築できませんでした。LP不足です】

とアナウンスが流れる。表示じゃなくアナウンスへと進化した!


構築できなかったにしてもこれはこれで素晴らしい景色だ。

これなら軽バンで移動できるじゃん。

じゃ、海、湖でもいい。

「地平線の先に海、その手前に湖、そのまた手前に川」

と欲張ってみた。

何も起きない。

アナウンスも呆れたようだ。


戻ってきたエミが空を見上げ、口を開けたまま呆けたような顔をしている。


「ね、外へ出てもいい?」

「いいけど、、」

「すごーく広い庭ね」

(どう見ても庭じゃねーだろ)

「小春日和みたいにポカポカしてる。空気も美味しい」

(空気に味があるのか)

「私ここに住む。絶対!」

またいい出した。

だからイヤだっての。


「ここ別の世界なのにスマホのシグナル繋がるのね。どうして?」

「正直?だよ。俺にも分からん。異世界なのかどうかも」

「ね、民間人が自衛隊に要請するのはダメみたい。ほら(エミのスマホ画面を覗く)」ふーん。

「じゃ、所轄に映像を見せて行方不明者の捜索願いを頼んでくれ。ただ…」

「ただ?」いや、なにもと首を振る。


エミは学生で文化財保存学部に所属し考古学研究所の伝手でアルバイトとして同行しただけらしい。

俺はスイミングインストラクターを目指す学生だと説明する。


親のない俺たちは妹と個別に動画配信サイトでそこそこ稼いでいた。

エミは、なぜ洞窟へ車で突っ込むような無謀なことをしたのかと尋ねるが、

依ん処なき事情でねとお茶を濁す。


そろそろ戻ろうかあの場所へとエミに告げる。

皆んな戻って来てて心配してるかも。

というと、エミを抱きしめると銛を片手に再びジャングルへ。


相も変わらずクソ暑いジャングルだ。

「誰も居ないな」

「戻ってるかも知れないわ」

「何処に」

「転送まえの場所に」

そうかと相槌を打つと2人でジャングルからトンネル洞窟へと戻る。

居ないわというエミへ、皆んなが戻った形跡としての靴跡がないのを説明する。


エミは泣きそうな顔で俺を見つめるがどうしようもない。

エミを伴いながらあのフライングシャークと相撲を取るなんて考えたくもない。

キミのいる場所はここじゃない、いつもの暮らしに戻ってさっきの映像を公表しろ。それもキミの仕事だ。


エミが首を縦に振る。分かってくれたか。

「する。だから私もあのハウスに住まわせて」

しつこい。

「この能力は誰にも内緒だ。秘密を守れるか」

「うん、死んでも」

「分かった分かった。住んでいいよ」

(嘘も方便ってね)

「ホント、連絡先と住所教えて」

いまはそれどころじゃないだろう。

後へ引かないエミに根負けし連絡先を交換する。

シャドールームから持ってきた軽バンでエミを途中まで送ると再びジャングルへと戻る。

生きてればいいけど。



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