第29話 回想
3日前の正午、駿河湾を中心に小規模な地震が発生。
心配された津波による被害は無かったものの、関内方面から桜木町駅を通過中の横浜公営地下鉄7号車が横浜駅付近で車両ごと忽然と姿を消してしまった。
この車両消失事件に対し、日本政府及び世界中の人々の間で噂が飛び交った。
明くる日の早朝、神奈川県横須賀市に隣接した湘南市湘南町山間部にある廃駅となった緋川駅跡地を散歩中の住民が地下に続く巨大な洞窟のようなものを発見した。
というニュースが飛び込んできた。地震以前に洞窟は存在していなかったという。
だが車輌消失事件の報道が被さり、日本国政府及び市民はこのニュースに余り関心を示さなかった。
ひとりの男を除いて。
男の16歳になる妹が、消失した地下鉄7号車に乗っていたのだ。
同時刻の地下鉄で横浜駅で降り横須賀へ向かうと連絡があるも妹とはそれっきりになってしまったのだ。
横浜駅は騒然としており一般人は立ち入ることが出来なくなっていた。
妹は心配だが捜しようがない。
藁をもすがる思いで何か手掛かりはとニュースやSNSに齧りつく。
消えた車輌は月の裏にあるやらマリアナ海溝に沈んでいるという胡散臭い噂の中、
昨晩の裏サイト0チャンネルの風説に俺の眼が釘付けになった。
それは地上から忽然と消えてしまった横浜公営地下鉄の車両が緋川駅跡地のトンネル内に存在するという実しやかな書き込みだった。
片方はパッと姿を消し、片方はパッと姿を表した。
これは何かのヒントかもしれないと男は思った。男の両親はもうこの世には居ない。妹と2人きりだ。妹は世泰美依奈、男は世泰暁という珍しい名前だった。
フィリピンに移住した日本人がSNSに上げた投稿が日本の事件と似ていた。
3日前の地震のあった当日にマニラ市内の69階建てのタワーマンションが居住者ごと消えてしまうという珍妙な事件あったのだと。
そして昨日、突然マニラで消えたタワーマンションがフィリピン南部の島サマル島に出現したという。
マンションの居住者の姿は見当たらなかったらしい。
ただマンションは地中に埋っており、地中へ埋没したマンションの屋上からマンション内に侵入する形となった。
エレベーターと非常用階段が消失し、新たに階下へと続く通路が見つかった。というものだった。
確信したかのように俺の第6感が囁いた。
「これだと」
根拠などないが妹の行方に何の手掛かりも見い出せなかったこの事件に光明が差した気がした。
お兄ちゃんミーナいかなきゃ。サ・ヨ・ナ・ラお兄ちゃん。
まて、何処へ行くんだ!俺も連れてけ!だってミーナ盗られちゃったから…
何をだ!ミーナの魂…
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軽バンに水とインスタント食品に携帯ガスコンロや缶詰類、日用品など必要なものに手製の武器を持ち込むと湘南市の緋川駅跡地に向けて車を走らせた。
緋川駅跡地に出現した洞窟入口は粗末なブルーシートで囲われていた。
大分大きな洞窟だ。車が3台横になって通れそうなほどの。
車輌が止まっているのを見るとトンネルの中に人がいるらしい。
警察や消防車輌あるのかと緊張したが民間のガードマンが2名いるだけだった。
ガードマンに誰何されるが弁当を届けに来たと告げるとすんなり通してもらえた。
いよいよだ。
ヘッドライトを点灯した軽バンでブルーシートへ突っ込むと後方でガードマンが叫びを上げた。
ブルーシートの先は洞窟、洞窟には違いないが、まさかダンジョン!?
トンネル状の洞窟の中で白い服を着た学者らしき一団が急に現れたヘッドライトの光芒に叫びを上げ、端に避けていく。
舗装されていない凸凹道にハンドルを取られそうになるが、そのまま洞窟内を進むとやや下り坂になった。
化学反応による発光現象なのかトンネル内は明るい。点灯したヘッドライトが必要なさそうなほどだ。
下りから平坦な道に差し掛かると凸凹道から固い土に変わり走りやすくなる。
草や木は見当たらないが岩肌がゴツゴツして手作りの防空壕を思わせる様相だ。
奥へと進むと広場のような空間があった。
ここまで距離にして…トリップメーターをセット仕直すのを忘れていた。
エンジンを掛けたまま経バンから降りて周りを散策してみる。
ダンジョンぽい雰囲気だ。用心のため手製の銛を軽バンに立て掛け、ブラックジャック式ヌンチャクを首にかけている。
「それにしてもまるで誰かが作り直したような地面だな」
何かいるのか?
「うわっ!」
鉢合わせのような出会いに相手も驚いたようだ。
《シャ――ッ》
両手を広げ、こちらを威嚇するように叫ぶ
「なんだコイツ。小鬼?第一村人発見とか呑気な話じゃなさそうだ」
指先からニュッと伸びた鈎爪がまるで忍者のアイアンクロ―だ。
悪魔のような顔した小鬼が牙を剥いた。その顔はまるでグレムリンそのものだ。
そいつが飛び跳ねるように俺に向かってきた!
「!」
この野郎、出会って2秒で戦闘開始か!
小柄だけに動きは素速い!
ヤツの右手が伸びるのと、俺がヌンチャクを振り下ろすのが同時だった。
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