第27話 番(つがい)

シャドールームから元のダンジョンの空間へと戻る。

「あっ」

鉢合わせのように目の端にグレムリンがいる。コイツも俺に気づいたらしい。

さっきのヤツとはどこか違って見える。コイツには鶏冠がなかった。

鶏冠のないグレムリンは、自身の鼻を高く突き上げるようにして俺の匂いを嗅ぎだした。

そのまま俺の方へ向き直ると、

《シャーッ》

いきなり奇声を張り上げやがった。


「マズイ」

武器、さっきのグリ公を倒した銛はシャドールームへ潜った時点で軽バンに立て掛けたままだ。

ここはダンジョン、周りは全て敵なんだ。俺としたことが浮かれすぎて油断してた。    


試すかスキル。何がいい?何にする?早くしないとヤツは飛び掛かろうとしてるぞ、モタモタし、、

「わっ、飛びか、、きた――」

「シャドーダイバー!」

頼みのシャドーダイバーが発動しない。


「あ、何でだよ!」

「飾りもんかよバカヤロー!」


俺の顔に向けてヤツの刃のような爪が振り下ろされた。

踏ん張るも、太腿の傷の痛みで踏ん張る力も抜け落ちていく。

条件反射的に思わず右手で顔を庇う。左手に痛みが走ったと同時に左掌打でグレムリンに張り手を食らわす。

まるで猿を殴ったような感触だ。猿を殴ったことないけど。


張り手の勢いで回転しながら転がるように着地するとヤツが吠えやがった。

《キシェ――》

勝ち誇ったような雄叫びがダンジョン内に響き渡り、俺の右手から血が滴り落ちた。

なんでシャドーダイバーが発動しないんだ?ダイバーだけに影に潜れるんじゃないのかよ。

けど今はそれどころじゃない、このままじゃこっちが殺られてしまう。


「シャドーマン!」

音もなく黒い人影が俺の目前に現れた。


「シャド―マン!そいつを捕まえろ!」

シャドーマンがヤツを掴む。けど。

「あれ?」

いま掴んだよね。でも擦り抜けた?つまりシャドーマンは…影だから掴めない。

「役立たずじゃんか――」


同じく鶏冠のないグレムリンがシャドーマンに爪攻撃するも同様に擦り抜けてく。

「チッ」

思わず舌打ちが漏れる。


「仕方ない。ダメ元でもう一度だ。シャドーダイバー!」

偶然鶏冠のないグレムリンの影と俺の影が重なると俺の身体が闇に溶けるように影へ入り込んでいく。


「うぉー、できた――」


影の中は闇に覆われ周りは真っ暗だった。

だがヤツの位置だけは分かる。というかヤツの姿が見える。

影から影へとヤツの背中に回り込み、後ろからヤツの両腕を、捉らえた!


驚いたのか、鶏冠のないグレムリンが暴れる暴れる。だが俺とコイツの力の差は歴然だ。

暴れ回るグレムリンを持ち上げ、反動をつけながら、ヤツの後頭部へチョーパンでオ・モ・テ・ナ・シしてやった。

1発、2発、5発、12発、、ぐったりしたヤツの首を絞めて止めを刺す。

「やっと2匹目、だ」


だけどスキルを実戦で使うには検証が必要だな。

現実はラノベのように都合よくいかない、か。


腕の傷から血が流れる。また手当をしなきゃな。

「名誉の負傷、か」

「古典的な喧嘩殺法で異世界生物を退治するとか俺くらいだろうな」


コイツは鶏冠の塩梅から推測するとさっきの番(つがい)の牝っぽいな。

倒したのにスキルボードのインフォメーションが立ち上がらない。


「あー今回の特典は無いっぽいな。美味しい話は早々転がってない、か」


暫くすると、こいつの死体から生前の形を保ったままの霊がスッと抜け出した。

ふわふわと浮いている霊。またダンジョン奥へと消えていくのだろう。

ふと、なに気にその霊に触れてみた。


「あっ!」


「自分の身体から・な・に・かが抜けて、、いく、、」


抜け殻となった俺の身体が、まるで糸が切れたマリオネットのように地面へ倒れ込んでいく。

倒れたままの俺の本体の横で霊体と化したままの俺がボーっと突っ立っている。


「おれ、、やっちゃったかも、、」


それと同時にシャドーマンも消滅していく。


「れ・い・た・い・になっちゃった」どうしよう。。


そうこうしている間にグレムリンの霊は洞窟の奥へと消えていく。


突然インフォメーションがスキルボードと共に出現する。

【㊗初霊体報酬 何れかを選んで下さい】

《①アストラルファントム》

《②アストラルスペクター》

《③アストラルゴースト》

《④アストラルディオ》


「なんかきた――」


冷静に考えれば瓢箪から駒のような報酬。

ダンジョンの探し物に役立つかもしれない自分とっては貴重なスキルだ。

慎重に選ばなきゃ、だ。しかし㊗って、、


その前に地面へ倒れたままの俺がグレムリンに襲われたら、、傷の手当もしなきゃだし。


「後で決めるから一度霊体を解除、というか、俺の身体へ戻してくれないかな」

その願いが通じたのか


「おおおおお――身体へ吸い込まれる――なんか変――」

一瞬で戻れた!お願いってしてみるもんだね。


シャドールームに逃げ込むか。どうせなら軽バンごとシャドールームに持ち込めないかな。

右腕から滴る血をタオルで押さえながら軽バンの運転席へと潜り込む。

ちょっと深呼吸してと、じゃ、やってみるか。


「シャドールーム!」

1LDKマンションのような空間へと瞬間移動する。

「キタ――できた――ってあれ?車は、、俺だけか、やっぱり」

諦めきれず部屋の周りを見回すと、

「以前来たときには無かったよな、、玄関って」

恐る恐る玄関へ近づき扉を開けてみた。ら、あったよ!玄関前の駐車スペースにちょこんと軽バンが!

「外の壁は真っ黒だけど、一体どうなってるんだ?」

外の黒い空間、丁度壁らしき場所に手で触れてみる。

「壁だ、周りが真っ黒いだけで、ただの壁だ」

どういう仕組みなんだろう?

こういう仕組みなんだ、と、思うしか無い、か。

検証も大事だが先に右腕の怪我の手当しなきゃな。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


まてよ、もしかすると、、右腕の怪我の手当を終え、再び玄関の扉を開けると


「デズニーは大きすぎだな。でてこい横浜シーパラダイス!」


【現在のレベルではヨコハマシーパラダイスをコピーできません】


現在の、、じゃレベル上げすれば出来るってこと、じゃん。

グレムリン2匹も倒したのにレベル上がらなかった?ような気が、、

あ、うっかりしてた。インフォメーションから選ばなきゃ。と、その前にもひとつ。


「女子、いや女の子でてこい、いや、でてきて」


【現在のレベルでは女性をコピーできません】


できるのか、、人のコピーが、、妹の、、いやコピーじゃダメだよな。判明しただけでヨシとしよう。しかし人のコピーまで出来ちゃうのか。アインシュタインとか、、









































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