新章・第三章「消失事件」
第26話 ダンジョン
「相打ちか?」
いや俺の方のダメージが大きい。ヤツは掠り傷だ。
「クソっ」
俺の方はグレムリンのナイフ状の爪で右太腿を切られ、いや、抉られた太腿から出血している。
持ってるのは手製の武器だ。頭に当たればダメージは大きい筈なのだが。ヤツに
振り回し攻撃を仕掛けてもヒョイと避けられてしまう。
「この武器じゃダメか」
扱ってる武器はブラックジャックタイプのヌンチャクだ。
ヌンチャクを構える。が、構えた動作からヌンチャクの軌道を先読みする能力でもあるのか、素早しっこいグレムリンに尽く躱されてしまう。
稀にヌンチャクがグレムリンにヒットしても擦り傷程度で致命傷には至らない。
コイツの本名など知らない。俺が勝手にグレムリンと名付けただけだ。
とある映画に出てくるクリーチャーそっくりだからだ。
スクリーンじゃ無敵だったブルース・リーのようになれない自分がもどかしい。
それにだ、1階層は雑魚だと思っていた。勝手に雑魚だと決めつけていた。
認識不足というよりは、
〚ラノベだと定番はスライムとかゴブリンだろ〛
という先入観の不注意からくる異世界生物との遭遇を毒づくも
現実とラノベは違うっていうのを身をもって思い知らされてしまう。
お互い命を賭けてのバトルだ。緊張で冷や汗ダラダラだけど今更後には引けない。
元々命なんか捨てる覚悟で挑んだダンジョン戦だ。
俺の使命を賭したダンジョンでの戦いに恐怖という2文字を無理矢理抑え込む。
ヌンチャクでグレムリンを牽制しつつ軽バンまで後退りする。
軽バンに立て掛けてある長さ1.8mの手製の銛を取るためだ。
銛の先には溶接した出刃包丁が取り付けてある。
「最初からこっちにしとけばよかったのか、、」
と嘆いても仕方ない。相手をナメてたワケじゃ無いが、銛よりもヌンチャクの方が戦いやすそうだったからだ。
《グルル――》
グレムリンが不気味に呻る。
後ろ向きに後ずさりながら、ワゴン車に立て掛けてあった銛へ手を伸ばそうと俺が
チラッと銛の方へ目をやった隙を狙って腰を屈めたグレムリンが俺を目掛けジャンプしやがった!と同時に
《グギャギャギャ》と叫びやがった!
「怖ェェ―ー」腕に寒イボが走る。
ナイフのような爪を翳して叫びながら俺の顔前へと飛び込んできたグレムリンに向かって無我夢中でヌンチャクを振り回した。
「グシャッ」っと
グレムリンの頭部が揺れる。
「やった!ヒットした!」
慌てて軽バンに立て掛けた銛を手に取りながら後ろのチューブゴムをきつく絞る。
フラつくグレムリンの頭に狙いを定めると銛を発射した!
放たれた銛は、グレムリン目掛け一直線に飛ぶ。
〚ブスッ〛
刺さった!
グレムリンの頭部からドロリと黒い血が流れる。見るからに致命傷だ。
やっとだ、やっと勝てた。たった1匹、されど人類史上で初討伐した栄誉ある1匹目だ!(多分だけど、、)
血が黒い、、そうか、こいつらの血は黒いのか。
赤より黒い血の方が罪悪感が薄れる、そんな気分にさせられる。
「えっ」
グレムリンの遺体から何かでてきた。
幽?霊?形のある幽霊みたいなのが。
グレムリンの生前の姿をした霊は漂うようにダンジョンの奥へと消えていった。
「これは死霊?」
追うか、追いたいが、、グレムリンを運良く1匹倒せたけど、もし複数現れたら、、
やめよう、勝利の気分が萎えちまう。
いまは…まだだ。もっと力をつけてから。たった1つしかない命。やり直しはできない。
同時にグレムリンの死体がゆっくり消えていく。
「消滅した!」
じゃ俺もここで死ぬと消滅してトンネルで彷徨う霊魂だけが残るのか。
やめだやめ、そんな気分じゃないし。
このトンネルは洞窟状に奥へとつづいており、周りは所々に岩肌が突き出している。今いる場所はやや広場っぽい。その奥はどうなっているのかはまだ分からないが
車が数台づつ横に揃って走行しても楽に通れる広さだ。
「あー、ヌンチャクはもうダメだな」
グレムリンのナイフ状の爪で擦れたブラックジャック式ヌンチャクの表面の革がズタボロだ。
それより傷の処置をしないと。
太腿の傷へ軽バンから取り出した消毒液とテラマイシンで簡易処置をする。
「斜めに3箇所スパッと切られてら。血が止まらなきゃ縫わないとダメかもな」
取り敢えず抗生剤を飲んで傷の保護に医療用サポーターを巻いておく。
事前に打ってあるが、破傷風と狂犬病ワクチンを接種しとこう。万が一ってな。
グレムリンを倒してから数分後、突然空宙に浮かぶようにスキルボードが現れた。
「お、きたきた。これかぁ、裏サイトの0チャンでスレッドされてた例のヤツが貰えるかもってのは」
何事も初体験ってのはワクワクしちゃうぜって、あれ?スレッドの内容とちょっと違うし、スキルボードだけどLVやEXPやMPとかHPじゃないぞ。
【グレムリン🉑ダンジョン初討伐報酬の選択】
《①シャド―マン》
《②シャドーダイバー》
《③シャドールーム》
《④シャドーアビリティ》
「え――グレムリンってこんなヤバそうなスキル持ってたの?それとも単に報酬という意味だから?」
それともダンジョン初の討伐報酬って、もしかしてダンジョンのモンスターを俺が最初に倒したってことの報酬なのかな。
ま、終わった殺し合いのことを考えたって無駄だけどさ。
「で、🉑ってナニ?グレムリンでいいよってことなの??」
急に何れかを選択しろっていっても…
スキルボードに選択肢の説明などない。けど微妙に、何気に意味が分かりそうなニュアンスだよなぁ。
「嬉しいけどこの中でひとつだけなの?」
「じゃダメ元で、全部欲しい」
全て頂戴と呟いて暫く待つ、、
スキルボードの選択表示はそのままだ。
「やっぱムリか」
じゃどれにする?っても検証できないし、、どれもこれもだし、迷うなぁ。
①のシャドーマンは影分身だな。いいな影分身って。色々と活躍してくれそうだし。
②シャドールームは秘密の隠れ家?影に潜む家?って認識でいいのか、、多分。
だとしたら今はこれが一番欲しいかも。
③のシャドーダイバーって影へ潜るってことかな、多分。
敵いそうもない相手から逃げるには便利だよなぁ。
④のシャドーアビリティって文字通りなら影の能力てことだけど、、
要するに①②③全部合わせた能力じゃないか?
ホントは②のシャドーハウスが欲しいが、、掛けだな。
影を操る能力だからハズレってこともないだろうし。
初討伐報酬ってことはもう貰えないのかな?でもグレムリンを倒していけばいつかまた出現するスキルかもしれないし、、
「よし決めた!④のシャドーアビリティで!」
おお、何か、身体がゾクゾクしてきて、何だか脳が、身体が進化してくような気分だ。
スキルボードのシャドーアビリティの項目にシャド―クローン、シャドールーム、シャドーダイバーが追加された。
「うおぉーマジか、やった!④のシャドーアビリティは大当たりだ!」
兎に角だ、まず最初にシャドールームてのを試したいな。
「シャドールーム!」
と唱えると、あら不思議。身体が自分の影へと潜り込んで行く。
「すっげ…ルームというか広々とした1LDKのマンションじゃん!」
しかもユニットバス完備でキッチン付きだ。ユニットバスとシステムキッチンの水と火とシステムレンジと冷蔵庫の電気は、、
「でた――」
やった!飲料水の問題クリアだ!レンジの火も点火するし電気もある。
パーフェクトじゃん!
「玄関も窓もないけど、ここ自分ちよりいいかも…」
でも、どうやって電気、水、ガス?が通ってるのだろう…不思議。。
エアコンは見当たらないが空調は整っているからTシャツで過ごせるし、Wベッドもある。
足りないのはTVとPÇ位か。でもPC繋がるのかな。電波とか。
そうだ、スマホで試してみよう。南無三…
「繋がった、やった!」
だだこれほど便利なシャドールームだけどダンジョン専用なのか、地上でも使用できるのか後ほど検証しないと、だな。
あ、軽バンに置いてある冷蔵庫にビール冷やしとこ。
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