第22話 悪魔と魔神
「部下の影法師の行方が分からないだと。ルナは何をしている?」
「それが先程連絡があり、好きな男との暮らしについて身の振り方を相談したいので招集をかけろとのお言葉でした」
「人間の男と住居を共にしたいというのか?」
「2人は既に女神ルナ様所有のマンションで同居している。とのことです」
「好きな男だと、どういうことだ」
「人間の男に骨抜きにされた挙げ句、住居を共にしている、ということよ」
「バカな、たかが人間の分際で女神を籠絡するなど、有史以来一度もなかったことだぞ」
「そのバカなことが起きたんだよ」
一同が解せない点は、女神ルナとあろうものが一体どのような手段で人間
如き虫けらに服従しなければいけないのかという点だ。
「フェスタに招待したらしい」
「人間の分際でVIP待遇だとよ」
「人間風情が女神と夫婦気取りか」
我ら天使の誘いを拒否し、一切受けつけなかった女神たち。
その女神の一人が人間風情に篭絡されたという事実が、天使のプライドが、ほんの数百年前に猿から進化しただけの人間の癖に。それ故に夫婦気取りな男の存在が許せないでいた。
天使族の激昂する話し合いが続く中、
「では俺が様子を見てくる」
と、一人の魔天使が名乗りを上げる。魔族率いる天使界の異端者だ。
「そうか、やってくれるか。お主なら依存はない。どのような男か見定めてきてくれ。影法師の行方もな。
ただし手出しは無用だ。女神族との軋轢が生じるのは我らの本意ではないのでな」
「もう生じておるではないか」
「たかが人間、なにをもって見定めるというのか。始末すればよいではないか。我々の総意であろう」
会話を聞いていないかのように無表情な顔をしている件の男は、連れの魔神族を伴うと自ら作りし次元の領域の中へと消えてしまった。
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この日の朝、冬生利久は日本フェラル教親睦団体主催のフェスタの会場に車で向かっていた。祭事の段取りでルナは昨夜から主催施設に泊まり込みだ。
俺はやや恐縮しながら日本フェラル教幹部専用車、運転手付きクラウンの後部座席で畏まっていた。これはルナが手配してくれた車だ。
備え付けの車載冷蔵庫からコーラを取ろうとしたその時、運転手が叫んだ。
「うわっ、なんだよ。急に目の前に真っ黒い雲が!」
瞬きする間もなく、前方の道を塞ぐように黒い雲が突然現れる。
「えっ、なにこれ。黒い雲というか黒い霧?」
また黒霧使いが襲ってきた?けど規模が違うし、ヤツの本体は処理されたはずだから
こいつは別口だ。
突然現れた真っ黒な雲に覆われ、叫ぶ運転手のブレーキも間に合わず、空間がグニャっと歪んだ空間へと、暗闇はクラウンごと呑み込んでいく。
暫く闇を漂うと、宇宙空間のような景色に変わる。クラウンの中で運転手と俺は顔を見合わせた。
「ここはどこだ?」と尋ね合うも、互いに納得する答えなどあろう筈もない。
またか。。この状況にいい加減不貞腐れ気味の俺。運転手に外い出てみるか?そう問いながら車のドアを開け、怖々足を外に踏み出した。運転手はイヤイヤするように、ただ首を振るだけだった。
俺が車から離れるように少し歩きだすと、覚悟を決めたのか苦虫を噛み潰したような顔をした運転手が恐る恐る車から降りてきた。
すると突然、暗闇の中から
「やぁ、どうも。ご招待に応じて頂き恐縮です。空間転移のアトラクション、お気に召したかな」
「ぴゃっ」
宇宙人でも現れたのかと驚く運転手が、声がした方と俺の顔を見てキョロキョロしだす。
(ご招待?お気に召した?ふざけた野郎だぜ。しかも声はすれども姿はってやつだ。何方様か知らないが、そっちがそういうつもりなら)
「へー、、で、初対面の挨拶が姿を隠しながらってのがお前のエチケットなのか」
「おっとこれは失礼、私からはそちらがよく見えてるので気づくのが遅れてしまいました」
パッと空間が変わると周りの空間一面に満天の星が輝きだした。
スターライトって美しいなぁ。って見とれてる場合じゃないや。
星の光に照らされ、前方に2人の姿が浮かび上がる。ひょろりとした背の高い男と、しゃぶりつきたくなるような美女だ。ただ男の顔は、、こいつまるで、、
「で、そういうアンタは誰なんだ?」
スーツに身を固め、頭上のシルクハットがやけに似合うヨーロッパ系の顔立ちだ。
「自己紹介させて頂きます。魔天使族のメフェストルシファーと申します。こちらの女性は魔神族のメデューサ。以後お見知りおきを」
返事の代わりなのか、メデューサと呼ばれた美女のドレッドヘアがウニョウニョ動く。
「気色悪ぃ、、」うっかり心の声が漏れちまった。
メフェストルシファーとかいうコイツの面構え、これでステッキでも持てば悪魔そのものだ。
それに左右の顔の趣が違う。左半分の顔は青白く、右半分は灰色でこいつも気味が悪いし(怖っ)
(俺に用事なんだよね。多分。隣の運転手は被害者か)
天使族か、ルナの女神族と仲悪いって言ってたっけ。ということは俺のことも事前に調査済みか、少なくともある程度は知ってるってコトね。
「誘拐ってことだよね。で、脅かすような回り諄い手口使って。俺になんの用」
玄関からじゃないってことは、ま、帰すつもりはないってことか。ヤバいな。
「恐縮です。話を手早く纏めたいと思います。ではここでゲストの方には遠慮して頂きましょう」
と、いうと、ヤツはメデューサを見る。
メデューサは運転手を凝視すると、運転手に向けたメデューサの瞳が緋色に染まる。と同時に運転手は石像と化していく。
運転手の断末魔が響いた。
「!」石化―ビーム?どっちにせよ今までで1番ヤバい、、
「や、驚かせたね。用があるのはキミだけ。石にされた気持ちなど知りたくもないが、取り敢えず部外者は静かにして貰うことにしたよ」
口調は紳士的ってわけだ。敵は余裕だね。
(ジン、見てた通りだ。石化しても戻れるかな)
『半々だな。やられて見りゃ分かる。悪くても報復の相打ちってとこか』
(それじゃ負け、いや死んじゃうじゃん!)
『死ぬかどうかは石化攻撃を受けてみなけりゃ判別できない。それより相打ちの場合、魔天使族は無傷。ということの方が気に入らない』
「話はシンプル。どうやって女神を篭絡したのか?人間に尋ねるのも烏滸がましいが、恥を忍んで尋ねよう。なにをした?」
「日本の歌にさ、ヒミツ内緒にしてね、誰にも言わないでねってのがあるんだよ。
だから、」
「神速ライトニング!」
「消えた?!驚きましたね。本当に人ですか?
ですが私の生き死にに関わらず、この異空間から逃れる術はないのです。
不老不死、なので生き死には例えですが。聞こえましたか?」
マッハ23の領域で敵に瞬きするスキも与えず、メデューサの耳元で囁いた。
俺とジンのダブル詠唱。
「ラブドール!」
レベルアップしたラブドールだ。いけっ!
その効果を確かめるため、ライトニングをメフェストルシファーの前方で解除する。
いきなり目前に現れた俺に、驚きを隠せないでいるメフェストルシファーに向け、
メデューサの瞳が緋色に染まった!
「隣を見なよ!」
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